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君が幻影―反逆の心臓編―  作者: だいふく丸
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【第六話 4】

「――高坂カンナを殺した死神が討伐された!?」

 私用スマートフォンで電話を受けた近藤愛之助は声を高くした。

 電話の主は彼の兄貴分で心霊公安官の沖田天翔だ。

 彼の要請で社務所の倉庫で誰も聞こえないよう小声で話している。


「高坂カンナを殺した死神は白馬幸太郎って話では?」

「悪いが、詳しいことは言えねぇよ。というか、俺も詳細を調べている最中だ」

 沖田は江戸自由平和公園のベンチで話している。「なにせ、三原部長が『れいちぇるずの猿飛涼子が高坂カンナを殺した死神を討伐した』とだけ言ったんだ」


 囁くような声で近藤が尋ねる。「……いわゆる公安的秘匿というやつですか?」

「だな。俺がこの件でお前さんに話すのもヤバいわけよ」

「絶対に、話しません!」

「話したら殺すしかないからな」

「そのときは正当防衛で反撃しますね」


「ハハハハハ、それでこそ土方イズムだ」

 笑い声を上げる沖田だ。子供連れに注目され、口を手で覆って小声に戻す。


「その死神は石濱ケン。アイドルイーターとして関西で動いていた奴だ」

「関西ですか?」

「今年から京都からの目撃情報がなかった。高坂カンナを殺した可能性は無きにしも非ず。だから、俺が電話した理由は、桜ノ宮愛月が白馬晃太郎を追って潜入捜査した件だ」

 

 近藤は潜入捜査の件を沖田に話している。もちろん守秘義務を破っているので、そのときは沖田と同じく重い懲戒処分となる。「今朝、学校の生徒と会わせました」


「そうか……俺の勘は高坂カンナを殺した死神が白馬幸太郎だと反応しているんだよ」

「その勘で中京大賞典、がっつり外しましたよね? 沖田さんに乗った僕がバカでした」

「人のせいにすんなよ! あんな土砂降りの中で走った馬たちをほめたまえ!」


「ただ、白馬幸太郎は闇バイト説がありますよね。仮面を投げただけ、みたいな」

「否定はできない。だがなラブスケ、赤羽の件も、板橋の件も、寺さんの件も、みんな白馬幸太郎が関係している。で、その高校に潜入する愛月姫は桜ノ宮だ。祖父が護神庁長官となると」


 ごくりと生唾を押し込むカウボーイだ。「……守護隊案件ってことですか?」

「孫娘を使ってまで獅子のケツを追う。いや、孫娘でなければならない理由があるとも言える。その理由は白金髪の魔女……狙いは犯推会か? これはツツみんの助けが必要だな」

「ちょっと待ってください。沖田さん、犯推会って――」

 

 ガラガラガラーーと、後ろの扉が開く。

「兄貴、ここにいたのか! ……って、何しているんです?」

 慌てて電話を切ってしまった近藤だ。心霊保安官の濃緑制服を着た部下の足利聖夜がパトロールから戻って来たようだ。


「何って……競馬、競馬だよ! 大阪杯の追い切りが気になって気になって」

「なんか嘘くせぇな。エロ動画でも見てたんじゃないんですか?」

「アホ! 神社で見たら龍神様のバチが当たるわ!」


 カウボーイが倉庫から出る。「で、何かあったの?」

「女子大生が相談に来たんです。金縛りに悩んでいるそうです」

「金縛りか……亡くなったペットが犯人かな」

 社務所の玄関にはタヌキ顔の、小柄な女子がお辞儀していた。

かわいい……とテンガロンハットを脱いで会釈する近藤には、その小さな相談が来月の大きな事件へとつながるとは、夢にも思っていなかった。




 この子、絶対モテる……。

 相談で赤羽神社を訪れた女子大学生に、近藤愛之助はそんな感想を抱いた。

 名前は古野そな、赤羽駅付近の大学に通う経済学部新三年生だ。小柄なおっとりタヌキ顔の愛らしい雰囲気だが、どこか哀愁を漂わせており、男はほっとけないだろうな、と思ったのだ。


「最近、その金縛りに遭うということですが、心当たりがないと」

「はい。ここ一週間前から、ちょくちょく真夜中に息が苦しくなって。でも、こんなこと初めてで。ネットで調べて、盛り塩をしたんですけど、効果がなくて」


 盛り塩で効果がない、悪戯好きな動物の心霊ではないようだ。

「一週間前ってことは、まだ春休みですよね。心霊スポットでも行きました?」

 古野は思い返すも、そのような場所には近づいていない、という。


「私、怖いの嫌いなんですよ。デスゲームの映画とかもダメで」

「じゃあ、お化け屋敷は?」

 足利聖夜が尋ねた。古野が訊き返す。「お化け屋敷って、危ないんですか?」

「危なくはないけど、心霊は住みやすい場所だね」


 古野は首を振るう。「お化け屋敷も苦手で」

 メモを取るカウボーイは、まじまじと相談者を見つめ、断りを入れて清水スプレーを吹きかけた。

 清水スプレーは、日々の生活で穢れた心霊を慰霊する効果と、人間に憑依した霊をあぶりだす効果がある。結果、古野はただ咳込んだ。二人の心霊保安官が丁重に謝罪する。


「うーん、やっぱ憑いていなんですよね」

 霊道士は霊体にならなくとも、霊力が強い幽霊なら見える。古野からはその霊力を感じず、小指で鼻をぽりぽり、茶髪の部下が思いつく。「あ、事故物件とか?」


「住んで一年になりますけど、金縛りなんて経験ないですよ」

「じゃあ、古野さんが嘘をついているか、悪霊が家にいるかだな」

「う、嘘はついてないです! 首の痣、見せたじゃないですか!」

「勘違いさせてすみません。たまに自作自演で悪霊がやったと嘘をつく人がいるんですよ」


 霊道士への詐欺行為で、具体的には占星術師の言う通りに部屋を模様替えしたら金縛りにあって怖い思いをした。SNSに事を書かれたくなかったら慰謝料払え、だ。


 近藤の説明を聞いて古野は眉を下げる。「ひどいですね、それ……」

「サイトに書かれたら面倒ですから。心霊案件は弁護士も対応しづらくて。ちなみに、僕が摘発した事件は悪徳霊道士が同業者に嫌がらせしたケースでしたよ」

 

 古野が思い出す。「やっぱ、ウサギのぬいぐるみが原因かな……」

 聖夜が訊き返す。「ウサギのぬいぐるみ?」

「はい。大学で配ってたんで、可愛いからもらったんですけど……」

「兄貴、ウサギのぬいぐるみって、なんかありましたよね」

 

 太い眉がピクリと反応したカウボーイはニコリと微笑む。

「古野さん、金縛りの原因はそのウサギちゃんかもしれません。どこにありますか?」

「家にあります。あの、家に来て処分してもらえませんか?」

 カウボーイは了承し、依頼人に《心霊案件解決依頼書》を記入しもらった。


「あ、この団地です!」

 古野の家は赤羽駅からそこまで離れていなかった。

 赤羽駅西口から徒歩5分ほどの立地、学生用にリフォームされた団地で、古野は赤羽駅近辺の大学に通っている。間取りは2DK、一人暮らしには十分だろう。

 

 築50年を超えた建物のためにエレベーターがなく、最上階の5階まで階段を上っていく。

 カウボーイと依頼人の手には清水スプレーだ。二人で階段に吹きかけて慰霊していく。

 近藤曰く、清潔なほど悪霊が上りにくくなるらしい。先を歩く近藤が立ち止まる。 


「どうしたんですか?」古野が訊く。「かなりの敵意が向けられているんですよ。悪霊じゃないな」

「悪霊じゃない?」怖がりな古野がカウボーイの袖をつかむ。


「この生々しさ、生霊かな? それも女性」

「部屋に生霊がいるんですか?」

「そうみたいですね。友達に何か恨まれることでもしました?」


 古野は首を振る。彼女からはその悪意を感じない。

 近藤はひとまず、この敵意の正体を突き止めることにした。

「古野さんはここにいてください。女子大生の部屋に一人で入るのは恐縮ですが」

「あ、はい。わかりました!」 

 と、家主はスプレー缶を握りしめて遠巻きで眺めることにした。


 ドアの前で、心霊保安官は合掌した。《霊道開眼》

「誰だ、お前は?」

 ドアをゆっくりと開けた先に、廊下に、そのぬいぐるみが立っていた。

「会いたかったわ、愛之助くん」

 霊体となったカウボーイに、そのウサギはニコリと笑う。


 自分の名前を呼ばれたことと同時に、その声質をカウボーイは覚えていた。

「あの時の声だな」

「覚えてくれたなんて嬉しいわね」

 近藤が銃を抜き、ウサギに向けた。「ただの生霊じゃないな。何者だ?」

「白金髪の魔女よ」


 シャンデリアが落下するよう、血の気が引いた。背筋が凍り付く。

「冗談やめろ」

「本当よ。嘘ついて何になるの?」

「たしかに……目的はなんだ?」

「私の仲間になって欲しい」

「冗談はたまに言うから面白いんだよ」

 

 引き金に人差し指をかける。「お前は、犯推会の人間か?」

「おもしろき、こともなき世を、おもしろく、愛のままに、我がままに生きる魔女よ」

「どういう意味だ?」

「フフフ。愛之助くん、後ろって意味よ」

 カウボーイが振り向く。そこには邪悪な笑みを向ける古野そながいた。右手人差し指と小指の指輪が黒い光を放つ。「ハメやがったかッ!」

《シャドウステージ イービル・サンクチュアリ》


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