【第五話 6】
「あっれー! るるたそ、もしもでいいんだけど、パーティー終わっちゃった?」
現れたのは豹柄の派手なスーツを着た女だ。後ろから取り巻きも入って来る。
銀髪だが、毛先に金のメッシュをあてている。鼻にかかった声から女装した男だと察する。
山田が舌をぺろりと答える。
「ええ、終わりました。ごちそうさまです」
「もぉー、なによ。狩りを楽しみにしていたのに。全部食べちゃった感じ?」
「SHIOさんたちの分は取ってありますよ」
と、ステージ前方に並べられたクーラーボックスを指さす。
「さすがガチマフィ! 手際がいいわね。しっかり売らせていただきますっ!」
礼を言ったその人は、どこにでもいそうなTシャツパンツ姿の少年に歩み寄り、
「で、この子は?」と、仁王立ちして見下ろした。
獲物かどうか物色する肉食獣のよう、その気迫に白馬は後ずさりしてしまう。右手人差し指と小指に光る指輪から闇の魔道士だと察する。
山田が紹介する。「この子が白馬晃太郎くんです。カグヤさんが育てている例の子ですよ」
「へー、この子が例の王様ね……」
短い言葉に棘が立つ。少年は嫉妬めいたものを感じた。
山田が、その魔道士をたしなめる。
「私たちは仲間ですよ、信じてください。神というものは、信じる者しか救いません。そんなせこい神を拝むよりも、この山田を信じてください。そうすれば人生、だいたいなんとかなります」
「ま、るるたそが言うからには信じるほかないわね」
白い歯を向け、白馬に手を差し伸べる。
「アタシはSHIOっていうの。男でも女でもない。アタシはアタシ、OK?」
「俺は白馬晃太郎です。赤羽の高校に通っています。SHIOさんは何をされている人ですか?」
胸を小さく叩き、取り巻きを指さす。彼ら彼女らは同じ耳飾りをつけている。
「アタシは、『ドブネズミ』って民間悪事会社を経営しているの。聞いたことないかしら?」
「いや……ないです。民間悪事会社?」
山田が補足する。「文字通り、悪事をする会社です。ま、半グレですね。マフィアより可愛い人たちですよ」と、にこやかに笑う。
「いーえ! アタシらは半グレじゃないわ。モブスターよ」
モブスターとは、大衆を表す『モブ』にモンスターを付けた造語だ。一般的には不良化した若者への蔑称だが、モブスターの彼らからすれば、『スター』という単語は名誉を意味する。彼らの業界では、半グレよりも格上らしい。
「けっきょく、世の中は金が全てじゃん? 愛だの恋だのほざく平民ピーポーが手にできない大金を稼ぐんだから、もっと尊敬されて当然よね?」
黒縁メガネの眉間を指先で小突き、白馬にこう問いかける。
「――でさ、君は強いんだよね?」
右手の指輪が邪悪な渦を巻き始めた。敵意があるようだ。
刀に手をかけた山田が補足する。「高坂カンナを殺した死神ですよ」
「うそ!? 元旦の事件って、あんたがやったの!?」
軽くSHIOの手を払い、首筋を撫でながら白馬は頷く。あの日から首筋が痛む。
山田がステージに上がり、品物を運び終わった取り巻きたちが一斉に彼女を見る。
「それで、本題を話しましょう。私たちは赤羽おバカ祭りで騒ぎを起こします。イメージとしては、戦車で大砲をぶっ放すぐらいド派手な感じです」
「まるで戦争だな」
ツッコミを入れる白馬に、にこやかな少女がとたんに真顔になる。
「ええ。これは戦争ですから」と、刀を抜く。山田家に伝わる抜刀術だ。瞬きする暇などなく、刃先が彼の喉仏に振れる。彼女はこう告げた。
「もしもサムライがこの世を治めるならば、神々を裏切ることはなかった。全ては幕府を裏切り、下衆な輩と外道を歩む陰キャどもの責任です。だからこそ、山田は『地獄で死ねよ、ニンジャども』と思うわけです。生と死の狭間で生きる、覚悟なき者が王になろうと思うなよ、小童がッ!」
刀剣に宿りし霊魂、悪霊が暴れ出し、会場を激しく切り刻む。その少女の眼は宝石のよう輝いていた。
「この山田るる刃、貸した金のためならば、たとえ無間地獄であっても追いかけます。たとえその相手が世界最強の軍を持つ国家であっても……。
先に行く あとに残るも 同じこと 連れてゆけぬを わかれぞと思う」
覚悟を問われたその少年は、言葉の代わりにその右手で刃先を握りしめた。
「それでこそ、王の器にふさわしい」と、少女は憤怒の矛を納める。
滴り落ちる血が真っ新な床を赤く染めていく。
「あらあら、血の気が多いこと」
SHIOは彼の心意気を受け止め、右手人差し指の指輪を切り傷に当てた。
右手のひらがみるみるうちに癒えていく。
「こう見えて、アタシは回復型の魔道士なのよ。闇だけどね」
「あ、ありがとうございます。SHIOさん」
会釈して礼を言う白馬に、その闇の魔道士は軽く胸に手を当てて応える。
「で、るるたそ、赤羽おバカ祭りの報酬ってもっとくれないかしら?」
「1億じゃ足りないと?」
「ええ。10億は欲しいの」と、両手を広げて見せる。
「ぬいぐるみを配るだけでは、その金額は出せません」
「計画を変更してくれないかしら。アタシも祭りに参戦したいから」
「ほう、心変わりですか。なら結果次第で10億払います」
「じゃあ、前金で5億お願い。ド派手に花火を打ち上げたいのよ。だって、アタシこそが迷える羊を導く救世主じゃん。自分らしく、最高の人生を伝える伝道師だし、赤羽は大好きだったママが眠る街だから」
「なるほど……素晴らしい親孝行ですね。それではどうぞ、白い羽を赤く染めてください。山田はSHIOさんの夢を全力でサポートしますので」
少女の微笑は人の闇を照らす。たとえ、世界が敵になろうとも――。




