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君が幻影―反逆の心臓編―  作者: だいふく丸
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【第三話 4】

 赤羽にある映画館内で、若い女は堂々と結婚宣言した。


「わたし、アイドルになってみたけど、加藤くんと付き合えて満足しちゃったの。だからこのまま結婚してアイドル卒業しまーす!」


「結婚ってなんだよ、聞いてないぞ!?」

 戸惑う彼氏に、彼女は上目遣いで両手を握って訴える。

「だって、アイドルに手を出した俳優なんて使えないでしょ? だったら、ここで結婚発表しないと、あなたの芸能人生どーなると思う? てかさ、終わらせてもいいんだよぉ?」


「おまえぇ……ッ!」

 加藤が女の本性に気づいた瞬間だった。ラジオで共演したとき、可愛いと思ってマネージャーに頼んでチャットIDを渡した。


 はじめは他愛のない雑談から始まり、この関係は遊びごとと思っていたが、気が付けば女の手のひらで転がっていたようだ。「ねぇ……どうする?」


「結婚ってなんだよ……俺はお前の養分じゃないッ!」


 一人の男がトレイを床に叩きつけたのだ。床に散らばったポップコーンがコーラに染まっていく。


「俺がどれだけカフェに通って、ぼったくりハンバーグを食ったと思ってんだ!」


 TLTのオーディションはコラボカフェのメニュー売り上げでメンバーが選ばれる仕組みだ。彼女は堂々とオタクたちの前に立ち、深く頭を下げた。


「ごめんなさい! 悪気はないの。わたし、プライベートでは加藤さんを愛していたけど、ファンの方はちゃんとプロのアイドルとして愛していたから!」


 涙を浮かべる男が告げる。「俺だって、君を愛しているんだよ」

「え、本気で言ってるの、こいつ? さすがにキモいって」

 女性オタクがその愛情を否定した。


「キモいって……俺にキモいって言うなアアアアッッッッ!!!」

 絶叫した肥後一太ひごいったはショルダーバッグをその女に投げつけた。


 周囲が騒然となる中、怒りのままに映画のチラシをバラまき、スマートフォンをもぶん投げ、大きな鏡が割れた。彼の心霊が壊れていく――。


 一年前、友達に誘われたそのカフェで浦部キミと出会った。彼女は店員だった。

『いつもありがとうございます! お近くで働いているのですか?』

『わー、電柱を直しているなんて、すごーい!』

『おケガとかしますよね? え、こんなに擦り傷が……! 痛いの痛いの消えてゆけ、ラブリーマジック、アイラブユー!』


 メンバーになるため、彼女は接客を頑張っていた。その笑顔はやけに眩しい。

 一般家庭出身者の男女が生き残り戦略のために契約する制度が結婚と思っていた肥後はずっと仕事という労働作業を繰り返してきた。


 恋愛は電脳空間で事足りると考えてきた。アイドルにはまったく興味がなかった。

 PCP(正式名称「Personal Credit Point(個人信用ポイント)」)を第一に考えて生きてきた結果、貯金という数字が溜まっていく日々だ。


 しかし、どこか虚しかった。何のために生きているのだろう、と。

 しかし、懸命に働く浦部キミを見て、男は電柱の保守点検作業への情熱を思い出した。彼にとって浦部の笑顔は生きる活力となった。気が付けば毎日通っていた。


 メンバー発表日のとき、浦部の人生が変わった。

 彼は喜びを爆発させ、会場で仲間たちと抱き合って喜んだ。自分の行いが誰かの人生を変える瞬間、彼は生きていてよかったと実感した。


『みなさんの愛のおかげでメンバーになれました。本当に、本当にありがとうございます! これからは、みなさんのことをずっとずっと、ずーーーっと、愛し続けますからね!』


 フェンシング部だった高校時代を思い出す。同級生にフラれたときの言葉が過る。

 仲間たちと食べたあのハンバーグは間違いなく浦部の愛の味がした。

 それ以来、一年間、給料のほとんどをTLTに課金してきた。

 

 ただ、金を原料に錬成された愛というのはなんと脆いのだろう、泡沫夢幻のごとく崩れていく――。

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