アスナロウ
レビュー執筆日:2018/8/14
●アイリッシュ音楽からEDMまで、あらゆるものを飲み込んで生まれた『アスナロウ』の世界へようこそ。
【収録曲】
1.アスナロウ
2.最後までⅡ
3.空想楽
4.We must
5.冬空
6.12月のひまわり
7.ソリに乗って
8.サンデーパーク
9.ナポリ
10.Dub Duddy ~ライブ前日に見た夢~
11.三日月シャーベット
12.閃光
13.Pascal
14.生きて
15.魔法を使い果たして
前作から約2年4か月と、彼らにしては久し振りのリリースとなったオリジナルアルバム。本作の特徴と言えば、まず「様々なジャンルの音楽が詰め込まれている」という点が挙げられるでしょう。元々彼らはストリングスを取り入れたある意味「ベタ」なバラードがある一方で、ハードなロックチューンや打ち込みを積極的に取り入れたヒップホップナンバーもこなすというようにあまり一つのジャンルにこだわらずに活動してきたのですが、今作ではそれに留まりません。例えば、冒頭を飾る『アスナロウ』ではアイリッシュ音楽とロックを融合させたサウンドに乗せてラップを行っていますし、その他にも、『空想楽』ではEDM、『冬空』ではポエトリーリーディング、『Dub Duddy ~ライブ前日に見た夢~』ではスカ、というように様々な音楽性を取り入れており、言うなれば、おもちゃ箱をひっくり返したような世界観が繰り広げられています。それゆえに、前作のような間延びした雰囲気はほとんどなく、全15曲、約65分という大作でありながら最後まで飽きずに聴くことができました。
また、ただ雑多に取り入れているだけではなく、アルバム全体の構成がよく練られているという点も見逃せないでしょう。一曲目の『アスナロウ』でのアイリッシュなイントロで始まったかと思えばそこに急にラップが入り込んでくるという展開はアルバムの入り口の掴みとして非常に優れていますし、それ以降も曲ごとに多彩な表情を見せながらも『12月のひまわり』や『閃光』などといったシングル曲がアルバムの「核」としてうまく配置されており、最後の『魔法を使い果たして』でリスナーを心地良い余韻に浸らせる、という構成には目を見張るものがあります。
歌詞に関しては、耳に残るものが増えているように感じました。特に、『最後までⅡ』の「自分自身で叶えられるかもしれないことを 神様にお願いしちゃだめだよ」や『閃光』の「君は僕に 僕は君に 片想いをしていられますように」といった優しく率直でありながら独特なフレーズが様々な曲の中に散りばめられており、その点においてはアルバムの統一感が上手く表現されていると言えるでしょう。
彼ら持ち前の雑食性と温かな世界観、そしてバリエーション豊かな楽曲群を一枚のアルバムとしてまとめ上げる手腕が見事に手を取り合って生まれた本作。前作には『エルフの涙』という彼らの一つの到達点と言ってもいい曲がありましたが、今作はこのアルバム自体が「Aqua Timezの一つの到達点」と言ってもいいのではないでしょうか。
評価:★★★★★