カルペ・ディエム
レビュー執筆日:2018/7/25
●自身の世界観を確立し大きく成長。
【収録曲】
1.百年の樹
2.最後まで (Album ver.)
3.プルメリア ~花唄~
4.真夜中のオーケストラ
5.カルペ・ディエム
6.刻 ~Interlude~
7.メメント・モリ
8.風に吹かれて
9.MILKY BLUES
10.Let Loose
11.GRAVITY 0
12.絵はがきの春
13.銀河鉄道の夜
皆さんはAqua Timezというバンドにどういうイメージをお持ちでしょうか?中には「売れ線を狙った軽薄なバンド」と思っている方もいるかもしれません。確かに、初期の彼らにはそう思われても仕方がない点がありました。特にバンドサウンドにラップを上手く落とし込めていないところがあり、ただメロディの運び方が単調になっているだけという点が目立ちました。これがあまり売れなかったのならよくある話なのですが、なまじ売れてしまっただけに、前述の悪いイメージが広まってしまったように思えます。
しかし、それから数年が経ち、彼らはついに傑作と呼べるアルバムを出しました。初期の彼らは前述のようにバンドサウンドにラップを取り入れたいわゆる「ミクスチャーロック」の要素が強かったのですが、今作はその要素は「味付け」程度に留まっており、その代わりにストリングス等をふんだんに取り入れた分厚い音像の楽曲が中心になっています。まあ、こういうアレンジはよくある手法なのですが、これがボーカル・太志の少年のような声と平易な言葉を用いたメッセージ性の強い歌詞に上手くマッチしており、まるで絵本のような幻想的な世界観が表現されています。その最たるものが『真夜中のオーケストラ』で、分厚い音像に加え、分かりやすい曲構成、間奏での激しいギターソロ、最後のサビでの転調などというある意味「ベタ」なパターンを多く用いながらも、それらが「幻想的な世界観」を際立たせるのに一役買っています。
また、太志の声質もあってか歌詞が少し子供っぽく聞こえる点は否めないのですが、それゆえに時折ハッとさせられるようなフレーズが出てくるというのもこのバンドの大きな特徴と言えるでしょう。それも、表題曲の『カルペ・ディエム』での「変わらないものってさ とても綺麗でしょ けど綺麗なものって 変わってしまうんだ」みたいにやや長く表現されることが多く、一言でガツンと来るようなものではないのですが、それが優しさを感じられる歌詞の中に上手く入り込んでおり、この面でも前述の絵本のような世界観をさらに際立たせています。
インディーズ期から見事な成長を遂げ、彼らならではの世界観を確立した今作。冒頭で述べたような悪いイメージを持っている人も、このアルバムを聴けば印象が大きく変わるかもしれません。
評価:★★★★★