冒険者の技術があれば加護に対抗できるでしょうか
「伯爵家に後取り息子が魔法の天才ってほんとだったのね。貴族によくある話盛りまくったボンクラかと思ってたわよ。こんな魔力と身体強化できるなら教わることなんかないでしょ!」
「それがそうでもないんですよ。これ、我流なので効率的な身体強化と魔法の収束、少ない魔力の運用法あたりを冒険者に教わりたくて、ですね。何しろ貴族にはノウハウがない」
ゆっくり間合いを詰めながら、彼女の様子を窺う。うーん、何か違う、俺の身体強化と違和感がある。
「が、我流⁉︎」
呆然としているティアさん。間合いを詰めて右手首を掴み背後に回して関節を極める。反応が早い! 一瞬早く前転してのがれ、掴んだ腕も外された。反応といい瞬発力といいやはり俺の身体強化とはどこか違う。
「失礼しました。腕を見たかったもので。やはり学ぶことがありそうです。教えていただけますか?」
距離をとり、丁寧に礼をする。
「かまわないけど。……ドラゴンでも倒すつもりなの?」
体の力を抜き、警戒を解いたティアさんが深く息を吐きながら呟く。
「仕事を受けてくれるなら師匠ですね。隠し事はできません。実は加護持ちに勝つ方法を知りたいんですよ」
「今日は驚きっぱなしだけど、これが最大ね。あなた、正気?」
あからさまに呆れた顔だ。
「暗殺された加護持ちがいるんですからやってできないことはないでしょう?」
「加護持ちってのは化け物よ。まあ、貴方も化け物に片足突っ込んでるようだから可能性はゼロじゃないかもしれないけど……」
「ゼロではないですが、限りなく遠いですね。そこで貴方の力を借りたい」
「夢みたいな話だけど、あたしが戦うわけじゃないんなら報酬はいいから引き受けるよ。まあ事情は聞いときたいな。まさか、国中の加護持ち倒して最強になりたいとかじゃないでしょ?」
「まあ。そうですね。そこのところは詳しく説明しておきましょうか」
ざっくりと加護持ちを倒さないといけない理由、現状の火力と出来ること、そのために何をしたのかを説明する。
「ハァーっ!? ちょっと待て! 三つか四つおかしいわよ貴方! その歳で四節魔法ってあたしと同じじゃない! それに二年でその魔力量? 常時身体強化って死ぬわよ普通。イカれてるってもんじゃないわよ。絶対意識飛んでたでしょうが! それで、加護持ち相手に連勝中⁉︎ 勝ち続けて価値を示さないと廃嫡⁉︎ 負けたら辺境に追放の上暗殺される可能性⁉︎ 十歳のいていい環境じゃないわよ‼︎ お姉さんと逃げましょう‼︎」
興奮して叫び出すティアさん。四節魔法使えるんだ、やっぱり優秀だ。そしていい人だ。
「ありがたい言葉ですが、貴族のしがらみですからねえ。僕にもどうにもなりません。妹を置いていくわけにもいきませんしね。それに連勝中なんていいもんじゃないですよ。義弟がダメージ覚悟で戦う気になれば負けます。貴方からみて狂気的な訓練をしていたとしてもそんなもんなんですよ」
「まあ、話を聞くと伸び代はあるわ。まず『吸魔』を覚えて魔力のロスを防ぐこと、それから杖を使って魔力の制御を強化すること、その二つを組み合わせて五節魔法を使えるようになること、冒険者を紹介するから効果の高い収束魔法のうち相性の良いものを身につけること、攻撃系以外で効果がある魔法、相手が魔力が感知できないなら幻影魔法とかね、を身につけること」
立板に水のごとく今後の方針を列挙していくティアさん。ほんとに有能だな。
聞いてみると、冒険者は少ない魔力を無駄にしない為に放出した魔力や空気中の魔素を取り込む吸魔という魔法を使っているらしい。冒険者で四節魔法以上の魔法を使う場合には、ほぼ必ずこれを入れて威力を担保しているそうだ。
俺もこれを覚えれば、魔力不足を補うことができる。基本的な魔力量の違いで持久戦になれば分が悪い俺には朗報だ。
「と、こういう感じか、『吸魔』」
空気中の魔素が集まって体に取り込まれていく、なるほど、制御魔法に組み込んで放出した魔法をできる限り取り込めば最小限の魔力で魔法が使える。保有魔力量を誇りにする貴族には圧倒的に不人気であろう魔法だが、加護持ち相手に手段は選んでられない。
「伝聞だけでほぼ完璧に使いこなせるって凄いわね。そんでもって貴族なのに躊躇なく使うし、やっぱ貴方おかしいわ。頭のネジ2、3本飛んじゃってるでしょ」
タレ目ガチの真紅の瞳を細めて、面白がるようにティアさんが話しかけてくる。
「頭のネジ飛ばさないとできないような目標持っちゃいましたからね。長い付き合いになりそうですから慣れてください」
「まあ、できることはやるわよ。貴方のそばにいれば退屈することはなさそうだし、これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
契約の握手を交わす。
どうやら、これで少しは勝負になる武器を手に入れられそうだ。
これから4年、天覧試合でデビューするまで、俺は公式戦無敗、義弟との模擬戦もなんとか勝利を積み重ねた。