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伯爵襲爵と挑戦状

 北の騒乱から一ヶ月。ようやく事後処理が終わり、俺はウォーディアスに帰ってきた。ティアも一緒だが、体の傷はまだ治りきっていない。なんとか自力で動けるようになったがまだ傷が痛むということで自宅療養だ。


 リンドブルム北方の探索で、魔獣使いの生き残りも見つかった。少数だが、族滅された一族とは別の一族もいたらしく、数人に出稼ぎという形で魔獣使いの研究に協力してもらうことになった。ドルガ殿もそのうちに顔を出しに来るだろう。


 そのドルガ殿だが、北の彼方からどうやってウォーディアスにちょっかいをかけていたのか聞いたところ、反教会組織や王国の不満分子、更に教会の加護崇拝派などの主流でない狂信的な信者といくつか繋がりがあり、それらを使っていたそうだ。一人でやる事にしては規模が大きいと思っていたが、戦闘面以外では組織的に動いていたらしい。「逆に、王国を転覆させるテロを一人でできると思っていたのか?」と問いかけられてしまった。廃嫡され、魔獣と暮らす日々でよくそんな人脈を作れたものだと感心していたら、魔獣使いの応用で、人間の行動もある程度操作できると言われた。行動の強要まではできないが、誘導することくらいは可能らしい。一人で王国に喧嘩を売ろうとしていただけのことはある。本当に大した一人テロリストだ。


 帰ってから聞いたがエレミアが頑張ってくれていた。まさか、当主不在の時を狙って領主会議まで開かせるとは。ドルガ殿の嫌がらせも大したものだ。雷神に負け、次期当主をアルナードに奪われ、北の戦いの責任を問われたら流石に誘いに乗っていたかもしれない。エレミアとフローレンスには感謝しても仕切れない。


 父の容体も芳しくない。母がつきっきりで看病しているが、ずっと床に臥している。今回の騒動に加え、執務をできる状態ではないということで、父から王家に存命中の襲爵を申し出て特例として許可を受けた。父が倒れていることは複雑だが、それにより俺が家を継いで伯爵となることが正式に決定した。


 雷神に勝利したこと、「氷龍」の二つ名を授かったこともあり、王家より襲爵の祝いを盛大に行ってもらえることとなった。同時にフローレンスとの婚姻の予定も発表される。いくつかの問題は一遍に片付くことになった。


 領内の統治に関しては少し揉めたが、ランギルスを筆頭とした保守派からの謝罪と襲爵の祝いを受け取る代わりに、今後、縁のできた北方との流通を各領に分散して任せることと北の産物の生産の協力を行うを事約束して和解した。


 ただし、アルナードの実家、ジェルダン男爵家に対しては父からの叱責があったにもかかわらず領を騒がせた事、領内の経営の不備を理由にウォーディアスより代官を派遣して領地経営を事実上取り上げる事にした。


 まあ、みせしめでもあるし、これ以上何やら企まれてはたまらないというのもある。これでおとなしくなって欲しいものだ。アルナードもこれについては、「いい加減懲りればいいんですよ」という反応だった。



 更に一月ほどたってから、王都で襲爵の祝いが開かれた。俺はフローレンスとエレミアと共に王都に向かった。残念ながらティアは療養中。アルナードは次の大会があるため参加できなかった。


「まあ、お兄様、とても素敵ですわ。薄い青の宮廷服に兄様の銀髪が映えて、兄様の使う魔法の蒼龍のよう」


 エレミアが褒めてくれた。今日の俺はフローレンスの見立てた薄い青に銀糸で装飾した宮廷服に、長い銀の髪を同じく青く染めた革紐で纏めている。


「エレミアもよく似合っているよ」


 そのエレミアも長い銀の髪を編み込んで纏め、俺よりは少し濃い目の青のドレス。その隣のフローレンスは薄い青の隣でも自己主張しない薄い若葉色に白のラインがアクセントに入ったドレスだ。二人ともよく似合っている。


「おや、私は褒めてくれないのかな。未来の夫殿よ」


 おっと、フローレンスにつっこまれてしまった。


「よく似合っているから見惚れて声が出なかったよ」


「フフ、ありがとう。キミが妹想いなのはよくわかっているよ。まあ今日の主役はレスティだからな。あんまりいじめるのは辞めておこう」


 ティアの事は二人にも話してある。


エレミアは

「ようやくですの! ティアが報われて本当によかったですわ」

と、両手を上げて喜んでくれた。


フローレンスは、

「私は前からティアなら構わないと言っていただろう。有能で、キミの事を好きなのがよくわかる、状況判断もいい。ティアならお互いに足りないところを補ってキミを支える仲間になれると思う」

と賛同してくれた。ただし、釘を刺すのも忘れなかった。

 

「北では随分見せつけていたそうじゃないか。私は煩い方ではないと思うが、私の事も忘れないで欲しいぞ。埋め合わせはしてくれよ」


 そう言ったフローレンスは珍しく、いつもの冷静な表情でなく、唇を尖らせていた。実際、婚約の維持にしろ、領主会議のことにしろかなり世話になっているのだ。大事にしないといけないと肝に銘じておこう。


 時間が来たので玉座の間に入場する。


「レスティ・ウォーディアス。前へ」


 玉座の前まで歩み、跪く。


「レスティ・ウォーディアス。この度北で起きたパーヴェル・エステスの魔獣を使った叛乱をリンドブルム公爵に手を貸し鎮めたこと大義であった。また、『試しの儀』にて、王国の剣たる『雷神』に勝利したこと、見事である。その力卓越したる事を讃え、教会より『氷龍』の異名を授ける。同時に、叛乱鎮圧の功に対しバーンガンズ勲章をさずける。また、この二つの功績を持って、特例ではあるが、病床のレンデル・ウォーディアスに代わり伯爵位を襲爵する事を認める。本日よりレスティ・ウォーディアス伯爵と称するがよい」


 国王陛下より直々に襲爵の許しと、二つ名が下された。


「謹んで拝命いたします。レスティ・ウォーディアス。ウォーディアス伯爵家を継ぎ、王国のため領地をよく収める事、氷龍の名に恥じない働きをする事を誓います」


 誓いの言葉を宣誓し、王より勲章を賜る。


 初耳の者も多くいたのだろう。玉座の間は大きくざわめいた。


「雷神に勝利だと?」

「天覧試合の実力は本物だったか」

「叛乱の鎮圧も彼が主導で行ったそうだ」

「英雄だな」

 

 ざわめきの中エレミアとフローレンスが拍手をするのが見えた。次第に広がっていく、しばらくすると玉座の間はは大きな歓声と拍手に包まれた。八年間の努力が結実したことが実感できて、俺も感無量だった。もうこれがひっくり返る事は流石にあるまい。


 その後はパーティーにてフローレンスとの婚姻の予定も発表された。独身の英雄を期待していたであろう貴族のお嬢様にはがっかりされたが、俺も二人で手一杯なのだ。


 残念ながらリンドブルム公もダクタロス卿も任務中につき参加はできなかったが、エブレム殿をはじめとする教会の方々に祝いの言葉をいただいた。中でも嬉しかったのは王都の守りを担う加護持ち、「賢人」サザーランド伯ハルバール殿よりお言葉をいただいたことだ。


「レスティ卿、伯爵襲爵おめでとう。噂は聞いていたが、その歳で雷神に勝つとはとんでもないな。私は魔法の研究もしているのだが、手が空いたら是非手伝ってもらいたい」


「光栄です。俺で役に立つならいくらでもご協力します」


「嬉しいね。貴族の魔法使いはあまり研究をしないからどちらかというと民間の冒険者の方が詳しかったりするくらいだ。君の様に工夫を凝らして戦うタイプが名を挙げれば魔法の研究も活発になるんじゃないかと期待しているよ」


 サザーランド伯は穏やかに微笑みながら答えた。そう、俺も相談相手は殆どティアだったのでこういう研究家肌の方と話ができるのはありがたい。残念ながらアルナードやダクタロス卿は感覚と力でねじ伏せるタイプなのでこの手の話には向かないのだ。よい縁ができた。


「君やエイミヤス卿の様に若手で力ある魔法使いが出てくれば私もお役御免なのだが。もう歳なのだから隠居させて欲しいものだよ」


「私もサザーランド伯には相談させていただきたいです。伯は魔法使いの重鎮。隠居と言わずもう少し現役でいてください」


「ありがたい事だが、早く楽をさせて欲しいね。若い世代に期待しているよ」


 サザーランド伯とは領が落ち着いたら魔法の研究の協力をする事を約束して別れた。

 

 フローレンスとエレミアのところに戻ると、子女向けの社交界の経験しかないエレミアにフローレンスが説明をしているところだった。


 「サザーランド伯は、『雷神』ダクタロス閣下よりも更に上の世代、もう60も半ばの現役最年長の加護持ちだ。王都の守りを任せられるほど信頼されている歴戦の強者でもあり、研究者でもある。おそらく、王国で最も魔法に詳しい魔法使いだ」


「あんなおっとりした方が軍人、しかも加護持ちなんですのね」


 「本人は年齢を理由に退職したがっているが、皆が彼を頼りにしているため遺留され続けている加護持ち一の人格者だ。見た目は文人の様だが雷神が出てくるまでは王国で最強の名をほしいままにしていたそうだぞ」


 エレミアが小首を傾げて質問する。


「先ほどお名前が出てきたエイミヤス卿という方は?」


「加護持ちだな。『賢人』サザーランド伯ハルバール、『雷神』ガンドローン候ダクタロス、『北の盾』リンドブルム公リュドミーラ、『闇の寵児』ナサニエル子爵エイミヤス、この四人が現在王国にいる加護持ちの軍人だ。エイミヤスはレスティより少し上くらいの最も若い加護持ちだ」


「そうだな。三つ歳が離れているおかげで天覧試合では対戦しなかったが、雷より更に珍しい闇属性に歴代最高クラスの適応があることから『闇の寵児』と呼ばれている凄腕の魔法使いだ。昔観戦したところでは全属性をハイレベルに使いこなしていた」


 俺が出る前の年の天覧試合の優勝者だ。見学に行って加護持ち魔法使いのレベルの高さに戦慄したものだった


「闇の寵児ってすごい異名ですわね」


 エレミアが若干引き気味だ。


「属性の相性が最高にいいと髪はその属性の色になる。これを精霊の申し子と呼ぶんだが。彼は加護持ちにして精霊の申し子でね。ふふっ、闇属性に黒髪黒目でちょっと影のある美形だから貴族のお嬢様が密かに呼んでいたのをダクタロス閣下が面白がって広めたという事だ。本人は嫌がっているらしいぞ」


 フローレンスが俺の知らなかった情報を教えてくれた。ダクタロス卿、何をやっているんですか。


「元々アザンドゥーク公の分家にでた加護持ちが家を建てるのを許されたという事でな。アザンドゥークは武門の家だから期待されて小さい頃から相当に鍛えられたらしい。歴戦の魔法使い、軍人、冒険者、アザンドゥーク公が交流のある武人が総出で磨き上げた若手随一の魔法使いだな」

 

 そう、雷神を継ぐ者とすら呼ばれていた。俺は北と西で領地が離れているためそれほど面識はないが、軍人の間で次代を担う逸材として期待されているのは知っている。


 話していると、ツカツカと近寄ってきた男に声をかけられた。


「レスティ・ウォーディアス! 貴公に決闘を申し込む!」


 その噂の人物、濡れた様な黒髪に切長の目、黒い宮廷服を金糸で彩った美貌の貴公子、エイミヤス・ナサニエル卿が俺に決闘を申し込んできた。

2章リライト分の投稿が終わったので、3章はこれから週一更新くらいになると思います。10話くらい書き溜めているので完結まで頑張ります。一応毎週日曜更新の予定です。

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