表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/44

必要なのは加護ではなく鍛錬です

 三回戦の開始の合図がかかる。先程可愛い妹を侮辱してくれた加護持ちの男、アレクセイが正面で吠えている。どうせ、加護の力を見せてやるとか、まぐれで勝ち上がった貴様に本当の魔法を教えてやるとかそんなところだろう。


 アレクセイが魔力を溜め始める。加護持ちだけあって魔力自体は常人を遥かに超える量だ。通常の魔法使いなら魔力量の差で撃ち合った時点で敗北が決まるだろう。傲慢になる理由も少しわかる。


 だが、典型的な貴族の魔法使いであることに変わりはない。練磨していない加護持ちなど脅威でないことを教えてやろう。


 こちらも魔力を高め、体に循環させる。最大パワーを瞬時に発揮できるまでに一秒も必要ない、そのままアレクセイに向かって突っ込む。まだ相手は魔力を溜めている段階だ。遅い!  


 大火力を放出することしか考えていないから速射性や連写性を考慮しない。遠距離で安全に攻撃することしか考えていないから近距離戦の備えがない。


 そして全力で身体強化をした今の俺は放たれた矢のように速い。高速で近づく俺にギョッとしたアレクセイがフルパワーまで貯まるのを待たずに魔法を放出する。


「極大・極炎・放射・砲!!」


 四節は打てるらしい、範囲・威力・速さに振り切った炎魔法。アレクセイの前方に出した掌から放射状に身の丈の3倍近い高さの炎の壁が発生し、勢いよく前方を舐めていく。まともに食らえば即死の威力だ。


 しかし、今の俺のスピードなら炎と追いかけっこをしても避けることができる。進行方向を斜め前方に変更して、炎の壁を避けるとそのままアレクセイの横を駆け抜けて背後から横っ面を思い切り殴り飛ばす。


 鈍い音がしてアレクセイの体が横に吹っ飛んだ後三回転。

 あー、スッキリした。


「あ? なんだ? はにゃが痛い。鼻血? 痛いっ…。いだっ。なんでお前がいぎでるんだ? 何をした?」


「何をしたも何も魔法を避けて思いっきりぶん殴っただけですよ。加護に甘えて鍛えてない魔法使いのとろい魔法なら、見てから避けて殴りに行くことなど造作もないですから」


「殴ったぁ? この私を⁉︎ 無礼者め! 大体魔法試合で避けるだの肉弾戦だのお前には魔法使いの誇りがないのか!」


「天覧試合はもともと戦場を想定した技術を学ぶ為の模擬戦ですよ。実戦を想定して当然でしょう? 戦争の形態の変化で使う者が少なくなっただけで身体強化も近接戦闘も実戦の技術でしょう?」


「屁理屈をこねおって! 正々堂々魔法使いらしく魔法の撃ち合いで勝負しろ!」


 鼻血を流しながら口から泡を飛ばして叫び散らすアレクセイ。


「身体強化も魔法技術なのですけどね。でも構いませんよ。今のは先程の無礼へのお返しです。次は貴方の自信をへし折ってあげます。魔法の打ち合いなら勝てると思っているなら大間違いだと教えて差し上げましょう」


 距離をとり。魔法戦に備える。身体強化を解除。

 魔力を全身から掌に集中し、魔素を周囲の空間から集める、魔力を散らさないように一箇所に止めず、周囲を循環させながら魔力と魔素を融合し、コントロールしていく。


 もう既に準備は整ったがアレクセイはまだ魔力の集中に時間がかかっている。その時間で更に魔素を集めていく。アレクセイが魔素を集めようと思った時には闘技場の空間の魔素は全てこちらのものだ。

 魔法使いの戦いは魔素の奪い合い。こんな事もわかっていない。


「どぉーだ、卑怯にも避けたりしなければ、魔法の打ち合いで私に勝てるわけがないのだ。後悔しろ! この私、アレクセイ・デュランダルの四節魔法を喰らうがいい! 極大・極炎・放射・砲!!」


 周囲に魔素が残ってないことにも気が付かず魔法を放つ、変換効率も悪い。試合開始当初に放った魔法の半分ほどの威力だ。それでも常人と比べれば十分大きな魔法だが。


 こちらもそれに合わせて魔法を放つ。

 一節目、

「極大」─魔力の大きさを、集めた魔力と魔素全てを無駄にしないように魔法に変換していく。この変換効率が魔法使いの練度の見せ所だ。最大威力を出せるように魔力をこめる。


 二節目、

「氷雪」─魔法の属性を付与する。攻撃力から炎や風が選択されやすいが、ダンジョン用に周りに被害を出しにくい氷系や、自然災害時に土系、コントロールが困難だが回避や相殺が困難な雷系などもある。術者と属性との相性で威力も変わる。貴族は戦争用に鍛えたという側面から伝統的に炎使いが多い。俺と相性のいいのは氷系と土系だ。

 

 三節目、

「蒼龍」─魔法の形態を指定する。通常はあまり使われる事はない。威力に関係しないからだ。しかし、戦争中は放った後、それを見た味方を鼓舞し、敵の戦意を挫くために使用されたそうだ。中興の祖と呼ばれたバルビヌス・マクシムス王は炎の獅子の魔法を得意としたことから、焔の獅子王と呼ばれたという。


 四節目、

「放射」─魔法の範囲を指定する。通常は前面に放つ放射が多いが、範囲指定をして放つ「陣」や「獄」、限定範囲に放つ「孤月」「扇」、攻撃範囲を絞る「槍」「弾」「刃」などもある。今回は相手に合わせ「放射」だ。


 五節目、

「砲」─最終節までの魔法の規模、属性、形態、範囲を一つの魔法の形に紡ぎあげる。


「極大・氷雪・蒼龍・放射・砲!」


 炎の壁を切り裂くように、蒼竜が一直線に相手を目掛けて飛んでいく。いかに保有魔力が多かろうがあれだけ周囲の魔素が枯渇した状態で、さらに無駄な高さと幅に威力をくわれれば、竜の形に魔力を固めているこちらの魔法の方が有利。

 炎を二つに裂くように、銀色の閃光が走る。


 魔法の撃ち合いで押し負けるなど考えた事もなかったのだろう、アレクセイは棒立ちで迫る竜を見ている。


「馬鹿な、加護もないゴミが五節魔法だと? ありえん。詐術だ。私は加護持ちだぞ! 負けるわけがないのだ!」


 喚くアレクセイを喰らう蒼龍。全身が凍結するアレクセイ。砕け散るマーカー。

 まあ加護持ちの魔力なら死ぬ事はないだろう。やはり、練磨していない加護持ちなら攻撃・防御・継戦能力は高いとはいえ一撃に工夫がない分何とかなる。


「勝者! レスティ・ウォーディアス殿!」


 あと二戦。加護持ちはアレクセイとアルナード以外今回参加していないはずだ。加護持ちで魔法も使うのはアレクセイのみ。どうやら万全の状態でアルナードと戦えそうだ。


 幼い頃から模擬戦を重ねてきたが、一度も勝った気にさせてくれた事はなかった二歳歳下の義弟。魔法を使えないという歪な加護を持ちながら、外れ加護という声を実力で黙らせた通常の加護持ちの数十倍厄介な尊敬すべき戦士。


 今日がお前との決着の日だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ