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師匠から見た弟子の評価 その2 妹を侮辱されて平気なほど人間できてないですよね

「知っているか? お前の兄は加護持ちの弟がいるが、そいつが魔法の使えないポンコツだったのと、まぐれで名をうったからかろうじて廃嫡されてないが、この天覧試合でボロ負けして王国最強が偽りの看板とわかれば廃嫡される。つまり次の試合で廃嫡確定。辺境送りのゴミになるんだよ! そしたらお前もゴミの妹だ! まあ、お前は見た目はいいから泣いて頼むなら私の妾にしてやってもかまわんぞ。フハハハッ」


 貴族の男は尊大に笑いながら、侮辱を続ける。


「どうだ今のうちに媚を売っておけば、口添えしてやらんでもないぞ。レスティ・ウォーディアスは未熟ではあるが彼なりに精一杯頑張っていました。魔法庁の最下級役人くらいなら務まると思いますってなぁ!」


 下びた笑い声をあげ、アルミア様にいやらしい視線を這わせる男はどうやら今回唯一の加護持ち魔法使い、デュランダル公爵家の一人息子のようだ。

 確か、アレクセイ・デュランダルとかいったはずだ。


 アルミア様は震えている。いや、恐怖ではない、怒りで震えている。まずいまずい公爵家の跡取りにめったなこと言っちゃまずいですよ。お兄様のことになるとほんとすぐ熱くなるんだから!


「どうした? ほら、跪いて私の靴にキスをするがいい。お前の無能兄上を次の試合で殺したくなかったらなあ」


 跪いて靴にキスは奴隷の作法だ。よく公衆の面前で仮にも伯爵家の令嬢にこんなことを言えたものだ。


 ブチッ

 あ、アルミア様が切れた音が聞こえた。スナップを効かせた平手打ちを振りかぶるアルミア様を急いでとめに入る。


「ダメです! 気持ちはわかりますけど落ち着いてください、アルミア様」


 腕を止め、声を抑えて話しかける。いや、淑女の力加減じゃないですよ、これ。


「ティア⁉︎ 止めないでくださいっ! この方っ! お兄様を言うに事欠いて無能呼ばわりしたんですよっ! 一撃だけでも食らわせないとっ!」


「公爵家相手に何しようとしてるんですかっ!」


「騒がしいですね。アレクセイ殿、当家の者が何かしましたかな?」


 揉みあっていると聞き慣れた声が背後から聞こえてきた。アルミア様も気がついたのか体から力が抜ける。レスティ様がきてくれた。


「なあに、次の試合で貴様が負けるから、今のうちに身の振り方を考えておいた方がいいと親切に忠告してあっただけよ。」


「それはご親切に。しかし、家中のことはこちらで決めますゆえお気遣いなさらなくても結構。それに……」


「勝負はやってみなくてはわかりますまい」


 静かに告げるレスティ様。あー、これ怒ってる。多分奴隷の作法をやらせようとしたところから居たわね。普段は温厚を絵に描いたようなレスティ様だが、廃嫡になった場合アルミア様を巻き込むことになることを気にしているので、アルミア様には激甘なのだ。


「ふん! 加護持ちの私になんの加護もない貴様が勝てるとでも? 世迷いごとを! 加護のいない天覧試合で優勝して調子に乗っているようだな。次の試合で身の程を教えてやる。もう手心を加えてなぞやらんぞ。手足を丸焼けにして辺境にも行けない芋虫のようにしてやる。貴様が無能で廃嫡されたら行く当てのない貴様の妹を買い取って先程の無礼を毎日土下座して謝らせてくれるわ!」


 馬鹿公爵家の加護持ちの様は、言い捨てて、ドスドスと肩を怒らせて控室にむかって去っていった。大事にならなくてよかった。


「ほら、アルミア様。あまり無茶をしないでくださいね。寿命が縮まりましたよ」


「私、間違ったことはしてないわ」


 俯いたアルミア様は、目を潤ませて唇を噛んでいる。


「アルミア、気持ちはありがたいけど、危険な事は避けてくれ。世の中信じられないくらい愚かで粗野な人間がいるんだ」


 レスティ様も流石に宥めてくださるが、アルミア様は余程腹に据えかねたようだ。左右に下ろした手を白くなるまで握り締めて震えている。


「……私、間違ってないわ!」


 震える声を絞り出すようにあげる。


「加護がなんだっていうんですの! お兄様は努力してきましたわ。王国最強と言われるまでにどれほどの試行錯誤をしたのか。私は見てきました。その努力をしながら領地経営を考え、地理を、歴史を、政治を学び、実績を作り、己の力を示してきたではありませんか! あんな何もわかっていない男に私の大事な兄様を馬鹿にされるいわれはございません!」


 レスティ様が目を丸くしている。珍しい事。

 すぐに、くすぐったそうな顔で、アルミア様の頭を撫でながら優しく語りかける。


「ありがとう。俺の代わりに怒ってくれて。でも、加護はこの国を守る為に重要な力だ。無論加護だけが全てではないけれど、そんなふうに言ってはいけないよ。アレクセイ殿の態度はかんしんできないが、加護持ちで国のために尽力している方たちもいるんだからね。」


「わかっております。失言でした」


 小さくなってあたまを下げるアルミア様。


「大丈夫。僕も怒ってるからね。次の試合はアルミアの為に本気で戦ってくるよ」


 ぽんぽんと頭を叩き、穏やかな笑顔をむけて行ってくると告げるレスティ様。アルナード様以外に本気を出すなんていつ以来でしょうか。 

 よほど腹に据えかねたのね。


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