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ウォーディアス領主会議

 アルミア・ウォーディアスです。


 お兄様が再び北に赴いて一月ほどになります。

 北はなかなか大変なことになっているようです。社交界でも北を護った兄様の功績は凄いと言う声から、たまたま運良く大規模攻勢が無かっただけだと言う声、兄様の任期終了と共に砦が落ちたのだから守り切ったお兄様を評価するべきと言う声など、意見が割れています。


 例年と比べた数字だけを評価すればいいですのに、誉めない言い訳を考える人がいるくらいにはまだまだお兄様にもウォーディアスにも敵がいるようです。アル兄様の実家の男爵家・ポートランド家も、天覧試合のことでウォーディアスへの介入を禁止すると父よりキツく言い渡されていましたが、社交界での噂を聞く限りではまだ諦めていない様子です。

 懲りない方達です。


 心配なのは、父が体調を崩して寝込んでしまったことです。元々それほど体が強い方ではない父ですが、ここ数年の兄様とアル兄様の後継争いはかなりの心労だったのでしょう。心配です。

 母は父に付き添って療養に行ってしまいましたから、今、家は家令のフォードに任せてあります。両親が療養、レスティ兄様が北方へ任務で出向、アルナード兄様が西部の武道大会、我が家がすっかり寂しくなってしまいました。


 さて、食事をすませ、今日の予定を確認していると、フォードが手紙を持ってきてくれました。レスティ兄様からです。あら、これは……。

 ティアが生死不明の行方不明。リンドブルムの実質の権力者であるマグナガル殿の死亡。リュドミーラ様による再編成。大変ですわ! ティア大丈夫でしょうか……。手紙ではお兄様を護ってくださったようです。ああ、もう、ティアったら。あなたは自分が幸せになることを考えてもいいんですのよ。無事で居てくれればいいんですけど。


 お兄様もよほど急いでいたのでしょうか、手紙の文章が簡潔で、筆致も乱れています。これは、手を打ったほうが良さそうですね。連絡をしておきましょう。最速で手配をします。


 北の物流もしばらくは滞りそうです。魔獣問題が出てから多めに産物を買い溜めはしてありますが、他の経路も考えておかないと。ここはフォードと相談ですわね。


 次に。これの手紙は……、領主会議の招集。父上が倒れている以上領主会議はできないはずですが、日付は5日後? 差出人はランギルス・メイビア。保守派の領主の一人ですわ。一体どういうことかしら、一応父様に確認と、フローレンス姉様に連絡しておきましょう。それからフォードに伝えてランギルス様に書簡を送ってみませんと。



 五日が経ちました。北方の様子を知るのは、フローレンス様の情報網があってさえタイムラグがあります。大丈夫でしょうか。心配な日々を送っているとその日、訪問者がありました。


 フォードが対応していますが、様子がおかしいです。あれは、ランギルス様に、ニコラオス様、ヘラルト様、レアンドロ様、マグナス様、ペッカ様、ターレス様、ウォーディアス領内の地方領主の方々です。勢揃いですが、まさか、領主会議? ランギルス様に父の療養のことは伝えたはずなのですが。


「お客様なのでしょう? どうしたのですか、フォード?」


 フォードに何があったかを問いましたら横から返事がありました。ランギルス殿です。


「おお、アルミア嬢ちゃんか。領主会議を行うので訪問したのだがな。連絡は入れておいたのだが話が通っていないようなので困っていたところだ。皆揃っているのだがな」


 大袈裟な身振りで、両手をあげて頭を振り、困惑をアピールしておりますが、どういうこと? 全員揃っている? こちらには領主会議を行う旨の告知以外は特に連絡が来ておりません。返信もありませんでした。


「その件であれば、父上が療養中のため後日にしていただきたいとお返事を出しましたが届いてはいなかったでしょうか?」


 念の為に確認をします。ランギルス様は平然と返答しました。


「当主不在でも領主会議はできる。王国法27条19項、当主が負傷または病気のため執務できない場合、領主の過半数が賛成すれば合議制による領主会議による領地運営を認める。フォード、間違い無いな? 書簡はうけとったが、だからあえて返信は出していないな」


「当主が不在?」

「どういうことだ?」


 領主の方々も後ろでざわめいていますが、こちらが受けた衝撃はそんなもんではありませんでした。


 戦時特例! そんなものまでは引っ張り出してきたとは! これは、クーデターです。

 

 この法律は、戦争中に当主が不在の場合に判断の遅れが出ないように作られた法律。本来大昔の戦争中に適応されるものです。確かに廃法にはなっていないですが、現在では当主が回復して後に領主会議を開くのが一般的です。連絡が取れる病気療養中に適応するようなものではありません。それを相談もなしに不意打ちで行うとは! 


 過半数が賛成したという事は根回しは終わっている? まずい、まずいですわ。このまま進めさせてはいけません。全員がクーデターに回っているはずはありません。加護持ちを信奉する保守派が業を煮やしたか? それにしても強引で、計画的です。父様が倒れたこのタイミング、ここしか無いというところで、こちらに気取られずに根回しまで終えて仕掛けてくるとは。 


 誰かが裏にいるのでしょうか。ランギルス殿もここまで強引ではなかったはずです。来客を見回します。見知った顔の中に、アル兄様の実家、ポートランド男爵家の方が見えました。父様の第二夫人シャビナ様の実兄、パッカーノ・ポートランド様です。あの方の差し金でしょうか。なりふり構っていられないやり方は後がない男爵家のものでおかしくはないですが、あのお粗末な男爵家にこんな事を水面下で進める力量があったとは。侮っていました。

 いや、天覧試合の民間の加護使いの時も動きを気取らせませんでした。ひどく能力がアンバランスですが、とてつもなく優秀な配下がいるのでしょうか。

 

 今はそんな事を考えている場合ではありません。なんとかしなければ。頭を高速回転します。


「わかりました。それでは、その会議私も参加させていただきます。王国法27条25項、当主が病床、負傷、戦争中虜囚となった場合、行方不明となった場合、王家の認可を受けずとも子女の当主代理を認める。でしたわね」


そちらがそうくるならこちらも戦時特例で対抗です。本来はこれも戦争中の混乱を避けるための一時的な当主代理を手続きなしに認める制度ですが、条件には適合します。


 ランギルス様はフォードに確認を取った後、不承不承認めました。


「では、フォード、皆様を会議室に案内してお茶を出してください」


「よろしいのです?」

 フォードが、戸惑ったように確認します。


「体裁は整っているのでしょう? 仕方ありません」


 できるだけ時間をかけるように耳打ちして案内をフォードに任せ部屋に戻ります。できるだけのことはしなくては。資料を引っ張り出して準備を行い、間に合わないでしょうが父様と、念の為にフローレンス様に緊急の連絡を送ります。


 反応を見る限り改革派の領主全員が取り込まれていることはないはずです。なんとか穏便に収めなくては。領地経営のための資料、フローレンス様に依頼された情報収集、総動員で対策を練ります。フローレンス様に鍛えられていて良かった。初めてあのエキセントリックな義理の姉上に感謝いたしました。


 レスティお兄様の帰ってくる場所は、私が守ります。

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