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決着 その名は氷龍

 布石が生きた。


 この「試しの儀」の話を聞いた時、俺は雷神の魔力波長と同調することを考えていた。加護持ちの無限の魔力に勝つためには、相手からの魔力の補給を可能にするしかないと、アルナード相手に思い知っていたからだ。


 だが、小さい頃から共に過ごしてきたアルナードと違い、初対面の雷神の魔力波長と同調するのは不可能に近い。


 そこで、不戦敗不戦勝禁止のルールを追加して魔力を観察する時間を確保し、試合を最後に回して試練毎の日程を空けることで波長を調整する時間をつくった。中でも持続時間の試練、隣で魔力を放出し続ける雷神を見ながら半日波長を調整し続けられたのは大きかった。

 

 それでも波長を合わせて吸収するところまで持っていけたのは、実戦で何発も雷撃を受けて魔力が切れる寸前になってようやくだった。危ないところだったのだ。


 波長を掴んでからは即座に魔力を吸収して回復。広範囲な分、限定範囲あたりの魔力量ならそれほど大きくない五節雷撃呪文を自分の周囲の範囲だけ分解吸収してすり抜け高速で接近。至近距離から六節魔法を打ち込むフリで、逆の手で魔力障壁を吸収無効化。障壁のなくなった剥き出しのマーカーに六節魔法を撃ち込んだ。


 吸魔の発展型、「吸魔・同調・分解・無効化」限定範囲型魔力吸収無効化呪文。

 ギリギリで間に合った。


「しょ、勝者、レスティ・ウォーディアス殿!」


 審査官の声が上擦っている。なにしろ20年間無敗の男、王国の生きた伝説、「雷神」を倒したのだ。俺だって信じられない。


「まいったな。最後のは魔力の無効化呪文か、そんな隠し玉があるとはな」


 雷神、ガンドローン候が首を振る。


「ガンドローン候の魔力を無効化するのに21日かかりましたよ。まあ、初見相手には使えないんですが強力な敵と何度も戦えば使えるようになる奥の手です。これがダメなら七節魔法が通じるか賭けるしか無かったですね」


「ダクタロスでいい。まがいなりにも生死をかけて戦ったんだ。俺たちは戦友だ。名前でよべ、レスティ」


 そう言って、ニカリといい笑顔をこちらに向ける。軍人に人気があるはずだ。なんとも気持ちよく人を魅了してくれる。


「わかりました。ダクタロス卿。何度も敗北を覚悟しました。お手合わせ、ありがとうございました」


 そう言って頭を下げる。


「ハハッ、勝者が頭を下げるな。お前は強い。『雷神』相手にギャンブルをしないで確実に勝ちに行こうだと? ふざけたやつだ。認めよう。今後レスティ・ウォーディアスは『雷神』の盟友。王国の守備、魔法のあり方、思うことをいつでも述べよ。俺が後押しする」


「ありがたく承ります」


 しかし、そうは言っても結局この人はピンピンしているのだ。アルナードでさえ天覧試合の時はそれなりにボロボロになったというのに。攻撃センス、一撃の重さ、障壁の硬さ、魔力量からの継戦能力。やはり恐ろしくスペックが高い。魔獣退治にしろ戦争にしろ、この人にかなう魔法使いはいないだろう。試合で勝ったからと言って慢心しないでおこう。俺は所詮タイマン特化の歪な魔法使いだ。


 それはそれとして雷神の後ろ盾はありがたい。他家のことまで口出しする気はないが国家命令の出動に関しては大いに頼らせてもらおう。


 エブレム殿が近づいてきた。


「『試しの儀』三勝二敗一引き分けにて、レスティ・ウォーディアス卿の勝利。おめでとうございます。『雷神』に勝ったのだ。魔法庁もレスティ卿を支持させてもらう。驚くべき結果だが、よくやってくれた。今後、『雷神』に比肩する魔法使いとして『氷龍』レスティ・ウォーディアスと呼ばせていただく」


 雷神並みの二つ名とは、ちょっと恥ずかしいな。だが、ハッタリは効きそうだ。


「こんな時に悪いが、軍部からレスティ卿宛に使者が来ているから会ってやってくれ。控え室に待たせてある。我らはこの結果を王家に報告に行く」


 エブレム殿は頭を下げ、審査官を引き連れて去っていった。


「じゃあ、俺も領地に帰る。魔獣討伐の後この『試しの儀』に呼ばれて長く領地を空けているさすがにそろそろ帰らねえとな。できればお前とは一杯やりたかったが仕方ない次の機会だ」


 ダクタロス卿もぼやきながら帰っていった。俺も控え室へ戻る。扉を開けると、心配そうなティアさんが待っていた。


「お待たせしましたティアさん。勝てましたよ」


 ティアさんは、華が綻ぶような笑顔で言った。


「おめでとうございます。私が言った通りでしょう。貴方はなんだかんだ言いながらどうにかしてしまうんですよ」


「ま、まあ、師匠がいいからですね」


 思わず見惚れてしまった。不自然にならない程度に軽口で返すとクスクスと笑われてしまった。


「フフフ、自慢の弟子です」


 和やかにティアさんと話していると、横から声がかかった。軍人だ。先ほどエブレム殿が話していた軍部からの使者か。


「失礼致します。レスティ・ウォーディアス卿でよろしいでしょうか。自分はリンドブルム領より当主、リュドミーラ・リンドブルムの命でやってきました。こちらは当主からの書簡です。お受け取りください」


 北方で何かあったか。急いで書簡に目を通す。

 これは……。


「恥ずかしながら、レスティ卿が任地を去ってから五つの砦が落ちました。なんとか持たせられたのはレスティ卿の薫陶を受けたサバ殿、ロローダ殿、ナブドラ殿のいた辺境の砦のみ。カザロフ殿をはじめとして今までの魔獣退治に慣れていた中隊はあっけなく壊滅しました。当主がいる砦は落ちはしませんが、魔獣どもは巧妙に当主のいない砦を狙って攻めてきます。このままでは北方の盾が抜かれてしまいます。失礼があったとは聞いていますが、王国の為を思い、どうかご助力下さい」


 使者が地につかんばかりに頭を下げて懇願する。


 書簡には、リンドプルム公より、任期中援軍を出さなかった非礼、カザロフ殿をはじめとしたリンドブルム家の軍人の俺を侮った者たちの態度を詫びる言葉とそれを把握していなかった当主としての不明を謝罪する言葉から始まり、予想外の魔獣の数と、連携をとっているとしか思えない行動、それにより砦が落とされたこと。守れたものがサバ達元俺の配下だったものだけだったこと。その指導力と見識を持って今一度北方で魔獣対策を手伝ってほしいこと。礼として、王家に収める租税の来年度分の半分をリンドブルムが持つ事などが書いてあった。


「縁のない身ではない。助けに行くのは構わないが当家にも事情がある。準備をするので数日待っていただきたい。この件、王家と魔法庁にも連絡はしてあるな? こちらからも伝えておく。宿は魔法庁にも聞けばわかるか、明日にでも返事を取りにきてくれ」


「ハッ。ありがとうございます! リンドブルム家を代表して礼を申し上げます」


 礼をして使者は下がった。だが、あの様子では書簡より情勢は厳しいかもしれない。


「北方に戻るのですね」


 ティアさんが真剣な顔で問いかけてきた。


「ええ、初めての任地を魔獣に荒らされて終わりでは寝覚めが悪い。サバ達のことも気にかかりますし、俺たちのことを馬鹿にしてくれたリンドブルムの上にガツンと言っておきたいところです。幸い当主はそこまで頑迷ではないようですし、雷神に勝った男というハクもついた。リンドブルムに貸しをつくり、魔法のあり方を実戦で変えるいい機会でもあります」


「当然私もついていきますよ」


「ええ、ティアさんがいなければ現地の魔法使いにレクチャーするものがいなくなります。よろしく頼みますよ」


「お任せ下さい。レスティ様の隣で戦うのが私の仕事です」


 頼もしい。何よりもティアさんがともにいてくれるのは安心感がある。


それから俺たちは宿に戻り、領地、魔法庁、王家に連絡を入れたのち北にむかった。

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