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弟から見た兄 憧れにケリをつける時

十四歳、天覧試合に出られる歳になった。レスティ兄上は一昨年、昨年と連続で優勝した。


 領内の統治も完璧に手伝っているのでもう兄上が領主でいいと思う。決ま 今更僕が勝っても混乱するだけだろうが、実家の人達はまだ諦めてないようで、この天覧試合で兄上に勝てと散々はっぱをかけられた。


 兄上と当たるのは決勝だ。身体強化特化の加護使いなど僕以外いないので、詠唱を聞けば魔法の防御に集中し、詠唱後の隙に近接戦を仕掛ければほぼ僕に負けはない。


 負けるとしたら兄上にだけだ。


 その兄上の試合を見る。三回戦まで加護持ちも含めて余裕の勝利だった。準決勝、兄上と互角に五節魔法を撃ち合う相手を見て驚いた。


 五節魔法自体は宮廷魔術師の上位なら打てるものはそこそこいるのだ。というよりも五節が一流の証と言ってもいい。


 だが、兄上の魔法は練度が違う。それと相殺できるとは。凄いな、名の知れた貴族以外にも人材はいるものだ。おっ、相殺した魔法を隠れ蓑して氷像のダミーを囮に兄上が懐に飛び込んだ。近距離からのマーカー狙い撃ち、兄上の勝ちだ。


 違う、魔力の壁で塞いだ。兄上の魔法を。

 こんなことができるなんて。

 こいつ、加護持ちだ。


 たまたま無名の加護持ちが見つかって養子として登録されたなんて話があるわけがない。そもそも加護持ちとして登録されていないし、兄上と相殺する魔法の練度なら数年以上の鍛錬を積んでいる。間違いなく僕の実家の差金だ。天覧試合で無名の魔法使いに負けさせて兄上を廃嫡。

 叔父上達の考えそうなことだ。

 

 しかし、こんなところでこける兄上ではない。高い練度で加護持ちの魔力から速射される炎魔法を後退せずに前に出ながらかわし距離を詰める。身体強化してるとはいえ紙一重だ。この辺りの見切り、魔法をあてるセンス、これが兄上の強みだ。


 そうして回避不可能な間合いから当代では兄上にしかできない六節魔法をぶち込む。相手も加護持ちの魔力をフルに活かしてガードしたがガードの上から左腕で二発目の六節魔法を制御して放ち押し切った。


 凄い凄い! 

 加護を隠した相手に不意を突かれながら身体能力の高さで巻き返し最後は伝説級の魔法の二連発だ。やはり兄上はモノが違う。


 次が決勝だ。僕もそろそろ自分の気持ちにケリをつけるべきだろう。子供の頃から兄上を見てきた。


 とてもかなわないと思っていた。前世の記憶と経験をコミにしても、追いつかないほどの天才。魔法の才能、領地の運営のこまやかさ、記憶力、やる気、積み重ねた努力、性格の良さ、人の使い方のうまさ、何をとってみてもかなわない。


 兄上は僕を受け入れてくれる暖かい家族で、尊敬に値する保護者で、いつか追いつきたい目標で、認めてもらいたいライバルで、この世界の憧れだった。一度くらい全力でぶつかって、認めさせたい。


 模擬戦で何度となく機会はあった。死力を尽くしてぶつかればどうだろうかと思った事も一度やニ度ではない、


 その度に、もし勝ってしまったらどうすると、本心を打ち消してギブアップしてきた。


 今ならわかる。あれは、怖かったんだ。全身全霊を出して、兄上の全力すら引き出せずに負けてしまったら、何一つ叶わない兄上に加護を持った上での戦闘でさえも手も足も出なかったら、兄上にとって取るに足らない人間になってしまわないかと。


 勝てなくてもいい、全力で戦って、認めさせる。その事を告げに兄上の控室に向かうと、当の兄上はソファーに座って三人の美女に囲まれていた。


「何をやっているんですか」


 思わず声が硬くなる。この才能に、顔面の良さに、王国最強の魔法使いの名声に、加護持ち二人を倒して決勝進出、決勝では加護持ちの義弟と因縁の対決で、更にハーレムってどこの主人公だよ、本当にこの人は!


 気分を切り替えて兄上に決勝では全力でぶつかるからその上で自分を叩き潰すようにと宣言する。実際それが1番うまくいく方法だ。しゃべっている間に兄上の表情がどんどん困惑に染まっていったが、これくらいの意趣返しは勘弁してもらおう。言い切って部屋を出る。


 胸がドキドキする。

言ってしまった。全力を出すと。

 後には引けない。兄上と今後も対等な関係でいるために死力を尽くそう。これは二回目の人生をきちんと送るための、僕に必要な儀式だ。


 さて、当たって砕けよう。

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