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廃嫡を避けるためには実力を証明せねばなりません

 加護は、神に与えられた特別な力だ。通常ではあり得ない様な魔力量、戦況を一撃でひっくり返す超高出力の魔法、視界全てを埋め尽くす攻撃範囲など、常人とは一線を画す能力をえられる。


 当然、この戦略級兵器は厚遇される。そう、ほとんどの場合、加護持ちはその家の家督を継ぐことになるのだ。まあ貴族の象徴ともいうべき魔法を人外級に放てるのだ、建前的にも、国内戦略兵器に気分を害されて出ていく様なことになっては困るという実利的にも、家督を継ぐことになるのは当然の話だ。


 勿論例外はある。

 戦争中ならともかく実際現代にそこまでの武力が求められているわけではない。大貴族なら領地を分割し、加護持ちに家を立てさせることで血縁に強い勢力を作りつつ己の家を保つこともある。それほどの領地がない場合は、友好派閥の跡取りの不在の貴族の家に婿として入れることもある。

 

 だが、義弟の母、父の第二夫人の実家の男爵家は、義弟アルナードを伯爵家の後継者にする事を選んだ。


 まず前提として、伯爵家に分割するほどの広い領土はない。

 そして、今更他家に婿に行ったとしても実権を握れるかはわからない。そもそも、当主が若い場合、次期当主の座を与えられてはいるが実権は握れない場合も勿論ある。それよりは、確実に掌握できそうなうちで確実な次期当主を狙った方がいいと言う事だ。


 父の年齢的にも実権を握る日はそれほど遠くない。伯爵家程度の規模であれば、内政にも食い込みやすい。


 実際に領民にとってもいいことはある。加護持ちが領主の場合、加護持ちが軍役に従事することでその領地の民の軍役は免除される。一騎当千の魔法使いだからこそ許される事であり、その為に加護持ちの領地は基本的に富む。加護持ちが領主というのは民にとっても喜ばしいことなのだ。


 俺の廃嫡は時間の問題かと思われた。しかし、弟に宿った加護は、魔法が使えない代わりに身体能力を向上させるというひどく微妙な物だった。


 魔法至上主義のこの国で魔法が使えない加護、魔法庁も困ったのだろう、ひとまず、廃嫡は保留となった。


 そうして俺は、弟より優れているということを証明し続けなければならなくなった。


 去年と一昨年、天覧試合に参加できる十四から参加した俺は、二年連続天覧試合に優勝して王国最強の魔法使いと呼ばれる様になった。


 種明かしは集団戦を想定した大火力・広範囲の魔法を使う貴族たち相手に、対人戦を基本とする傭兵や冒険者の技術を取り入れて、魔力の吸収による防御と継戦能力の獲得、魔力の収束による攻撃力の向上を行い、最小の魔力消費で戦っていたからだ。


 弟の様な化け物に一対一で勝つためにはそれくらいしか選択肢がなかった。通常の貴族には全く必要のない技術だ。だから、別に俺が強いわけじゃない。言ってみれば皆が正々堂々魔法の打ち合いをしているなか、俺だけがズルをしている様な物だ。


 実際、市民や下位貴族からはともかく、上位貴族や魔法庁のお偉いさんには俺の戦い方に眉を顰める人もいるそうだ。


 しかし、弟に勝つためにはこの戦い方を磨くしかない、魔力の消費を抑え、最小の魔力消費で勝ち抜き、全力で加護を抜く、アホみたいに魔力量の多い弟の加護をぶち抜くためには、広範囲魔法では不可能だということを8歳の頃に嫌というほど思い知った。


 後継問題は天覧試合の優勝によってかろうじて留保されているが、加護持ちを後継者にという声はやはり強い。今年はついにアルナードが十四歳で天覧試合に参加できる年になった。


 陛下の目の前で直接対決で勝てば、後継者と認められるが、負ければ廃嫡一直線だ。今年の天覧試合が盛り上がってるのはこの後継をかけた兄弟対決、王国最強の魔法使い対魔法を使えない加護持ちが目玉になっているのもある。

 他人事だと思って気楽なものだ。


「研鑽した加護持ちさえいなければ決勝までは大丈夫だと思うんですけど、3年目ですからねえ。そろそろ対策されててもおかしくないですよね」


「まったく、冒険者ギルドAランクの私があっという間に置いて行かれた才能を持ちながら相変わらず謙虚というか、気弱というか……。もっと自信をお持ちくださいな。貴方は本当に天才なんですから」


 困った様な、でも少し揶揄う様な調子でハッパをかけてくれるティアさん。


「そうですね。師匠との六年が無駄じゃなかった事を証明しないとですね」


「そうですよ。十歳の貴族のお坊ちゃんに呼ばれて、冒険者やめた後は変わり者の貴族のお妾さんでもいいかなって思ってたら、希望は技術指南ですよ。何の冗談かと思いました。あれからもう六年です。成果を見せてください。あと、レスティ様が廃嫡されると、伯爵家のお妾さんから辺境に追放された落ちぶれ貴族の愛人になって私の人生設計が狂うのでなんとしても勝ってください」


 片目を瞑っておどけた調子でプレッシャーをかけてくるティアさん。


「まあ、妾の話はともかくできる限り頑張りますよ」


「私だけじゃありませんよ。レスティ様と領地経営やってる文官も、技術開発に協力している工房連中も、他領の作物を実験栽培している農家もみんなレスティ様が追放されたら詰むんですからね! 妹君のアルミア様も、伯爵家後取りの同腹の兄妹から辺境に追い払われた厄介者の妹になれば、適当な相手を見繕って政略結婚どころか、引き受けてくれる相手を探すような事になりかねませんよ」


「ぐ、わかってますよ。最善は尽くします。あ、そろそろ二回戦だ。行ってきます」


 わかってはいるんだが、後取りとして十六年も生きれば色々なしがらみもついてくる、自分が辺境送りになるのはともかく妹を不幸にするわけにはいかないし、領地をよくするために協力してくれた文官や技術者、農家に割を食わせるわけにも行かない。


「重いなあ。まあ、やるしかないか」


 闘技場の舞台に進む。防御結界で守られた観客席の先に俺の身長くらいの高さの円形の舞台が設置されている。魔法で強化された石で、少々の魔法ではびくともしない。幅は三十歩といったところ。その中央で濃い緑の宮廷魔術師の正装をした相手が俺を待っていた。


「レスティ殿、この度は胸をかりさせていただきますぞ。」

「若輩者ですが、よろしくお願いいたします。」


 どうやら一回戦の相手とは違い性格的には真っ当な人みたいだ。こちらも無難に挨拶を交わす。


「はじめ!」


 開始の掛け声がかかった。

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