ハロウィン黙示録~妖怪菓子よこせ襲来!~
10月31日、それはハロウィン! すっかり日本にもハロウィンが定着した感があり、子供たちもハロウィンらしくモンスターとかアニメキャラとかの扮装をして町を練り歩く日になっていた。
上杉龍也も今日もハロウィンらしくドラキュラ伯爵の扮装(衣装づくりが趣味のクラスメイトから押し付け……譲ってもらったのだ)をしてハロウィンを楽しんでいたのだ。
「いや、周囲の人に見られたら結構恥ずかしいな」
そう言いながら妹の美那のいる小学校に向かっていた。龍也の手にはセール品のお菓子がいっぱい詰まった袋があり、小学校の児童にお菓子を配るボランティアに駆り出されたのだ。
「別にいいじゃん、ハロウィンだから楽しまないとね」
そう言いながらミ〇ーマウス……いやミ〇ーマウス風の扮装をした錫川若菜が笑いながら龍也に返答した。ハロウィンは一年に一度のお祭りだ。楽しまないと損なのだ。
「ところで俺はともかく、錫川さんもなんで一緒に小学校でお菓子を配ることになったのだろう……」
龍也は若菜に疑問に思っていたことをつぶやいていた。
「今日、姉さんたちが不在で暇だっただよね。そんな時に上杉君が小学校にお菓子を配るっていうから便乗しようかなっと思ってね」
「まぁ、ウチは母さんが教育委員会のお偉いさんだから、ハロウィンイベントの応援に駆り出されただけなんだけどさ」
龍也はやれやれ、と思った。
そんな他愛のない会話をしているうちに二人は美那の小学校に到着した。視聴覚室に集まっていたハロウィンの扮装をしていたボランティアの人々と会釈し静かに待機する。ボランティアの人に「えっ、ミ〇ーマウス? 肖像権の侵害とかにならないザマスか?」的なことは特に言われなかった。暇だったので、龍也スマホでヨットゲームをして時間をつぶしていた。やがて先生から体育館のステージ上に向かうように言い渡されボランティアのハロウィン軍団はいそいそと壇上に移動していった。
「ステージの上に立つのって久しぶりのような気がする……中学の文化祭の時の合唱コンクール以来か?」
龍也は中学時代の記憶を懐かしんでいた。
「上杉くんは、合唱コンクールで何を歌ったの?」
若菜が合唱コンクールで何を歌ったか尋ねてきた。
「内緒」
「なんだつまんないな~」
「そこ、私語を慎むように」
そんな会話をしていたら先生に叱られてしまった。おとなしく無言になる龍也と若菜。そのうちに体育館に子供たちがやってきたようだ。
『皆さん、今日はハロウィンなので、おばけの皆さんが小学校に遊びに来てくださいました!おばけの皆さんは子供たちにハロウィンを楽しんでもらうためにお菓子を持ってきてくれましたのでありがたくもらっていきましょう!』
小学校の先生の簡単な説明の後、ステージの幕がゆっくりと上がっていった。拍手とともに、ゆっくりと体育館にぎっちり詰まった小学生の姿があらわになっていった。そして幕が完全に上がった瞬間のことである。
「trick or treet!」
小学生の元気な挨拶とともにハロウィンのおばけめがけて押しかけてきた!
(うわっ! これは大変だぞ!)
龍也は心の中で慌てた。そう思いながら龍也は有り余る体力を持つ小学生にもみくちゃにしながらお菓子を配っていった。
◆◆◆◆◆
小学校でのハロウィンイベント終了後、ドラキュラ伯爵の扮装をした上杉龍也と上杉美那は仲良く家路についていた。
「ハロウィンのお菓子配りがここまで大変な仕事だとは思っていなかった」
「でもお兄ちゃんのドラキュラ伯爵のコスプレはかっこよかったよ」
「お世辞をどうもありがとう」
「お兄ちゃん、これはお世辞じゃないよ」そうして二人は笑いあった。
「ところで、全校児童の分は配り終えてもお菓子は余るはずだったんだけど……一人分だけバケツに残ったお菓子が足りないんだ。美那、転校生でもいたのか!?」
「えっ、そんな話聞いてないよ……お兄ちゃん」
「あれ?」
上杉龍也のハロウィンは最後に奇妙な謎が現れながらも過ぎていったのであった。