武者修行-激動の初日-編.1
---旅立ちの朝---
(忘れ物無し、戸締まり良し、天気良し!えへへ、永年樹様ありがとうございます)
晴れ渡った青天は、旅立ちの門出を祝福している様に思えた。広く一般的に、天候は永年樹が操作していると伝えられている為、都筑は永年樹に感謝の念を抱いた。
都筑の家の回りには、朝早くにも関わらず、見送りに来た人々で溢れていた。
「みんな、お見送りありがとうございます!行ってきますね!」
「おねえさま、これ…。皆の魔力を少しずつ注いで作ったお守り」
魔力糸を紡いで作られた、質素だが精良な腕飾りだ。左手首に着けてくれた。
「茅ヶ崎ちゃん、みん…な゛…。あ゛り゛か゛と゛う゛〜」
「「「いってらっしゃい!!!」」」
皆の優しさに触れた都筑は、流れる涙を手で受け止めながら、集合場所へと向かった。
集合場所に着くと、青葉が居た。青葉の目の回りも、都筑と同様赤くなっている。同じ様な事があったのだろうと思いつつ、挨拶する。
「青葉ちゃん、おはよ!」
「おはー!」
青葉は眠たそうに欠伸をしている。自分の体の3倍はあろうかというリュックサックに座っている。
「荷物大きいね、そんなに何入ってるの?」
「秘密だよ、ヒ・ミ・ツ!」
「えー、教えてよー!私荷物少ないから忘れてる物とかあるかも…」
都筑は火の元確認したっけ?とか、家の鍵締めたっけ?とか心配になってしまうタイプだ。
「大丈夫だって!現地調達しようぜ!」
そんなこんな、2人で話していると、やがて港北と緑が一緒にやってきた。
「すまんな遅くなって。出がけに旦那から連絡があってな」
「いえいえ、青葉ちゃんとお話ししてたので全然大丈夫ですよ!」
「横浜さんからの連絡って、この旅の事ですか?まさか延期とか?中止とか?」
「がっはっは。そんなわけないだろう。俺が委任申請した鶴見が急遽出張になったようでな。緑が依頼した旭さんに、一緒にお願いしたって内容だ」
「そっかー、一瞬焦ったよー!」
「こうさん、鶴見さんの出張って討伐の?」
「その通りだ。昨日栃木領から要請があったらしく、鶴見と中さんが今日発つらしい」
「い、行きたい!私も行きたい!」
「な!栃木領なら北だし丁度良いじゃん!」
「経験も積めるから賛成してやりたいんだが、今回はダメだ」
「えー、何でよー?」
「最初から危険過ぎるって事ですか?」
「そうだな、お前達がそこいらの侵食者に後れを取るとは思わない。だが、どうやら特定危険指定の名持ち侵食者、所謂"特危"が対象らしくてな」
「ヒーラーもいないしねー」
「特危か…」
「それなら仕方ないか…な」
侵食者の中には、稀に高い戦闘能力や知能を持つ者が確認されている。それらは特定危険指定侵食者として分類され、名前が付けられる。
現時点でこの国に公式登録されている特危は5体に上る。
特危には、これまで多くの人々が被害にあっていて、緑が懇意にしていた先代の西も、その内の1人だった。
緑の内心はわからない。だが察してしまう都筑と青葉。若干の重たい空気を払拭するように、港北が口を開く。
「がっはっは。という訳で、俺達は栃木領を避け、北を目指す」
「よし、じゃあ少し離れててくれ。サプラーイズ」
港北がそう言うと、魔力によって馬車が現れた。2頭立ての四輪で、8人位は乗れるサイズだ。風雨を凌げる幌もついている。
「わー!」
「かっくいー!」
早速反応する都筑と青葉。
「旦那から拝借した、共に旅をしてくれる"アイス"と"クリン"だ」
芦毛のアイスと栗毛のクリンは「ヒヒーン!」と元気良く嘶いた。挨拶をしている様に思える。
「アイス!クリン!都筑です、宜しくね!」
都筑が恐る恐る撫で撫ですると、アイスとクリンはニカッと歯を見せた。
「かわいいな!私は青葉、よろしくな!」
荷物を荷台に載せ乗り込む4人。何故か都筑が御者台に座る。
「よーし、出発進行!」
「がっはっは。アイスとクリンは魔力で作られている。だから操縦も魔力でやるんだよ、その紐とかはただの飾りだ。今度教えてやろう」
一同はいよいよ領門を出る。ここからは、いつ侵食者に出くわしてもおかしく無い危険地帯だ。
領土外、通称"制限地帯"。制限地帯では景色は一変する。風の音が煩い静寂、荒れた大地、昼でも薄暗い風景。
天辺の見えない永年樹。光が入りにくく薄暗いのは、永年樹の広大に広がっていると思われる、枝葉が原因と考えられている。
領内は"感応型防壁"という目に見えない特殊な壁が、全体を包み込んでいる。魔力の供給源は永年樹だ。その感応型防壁が天候を再現している為、領内で薄暗さを感じずに済んでいた。
領地は少しずつ拡げられているのだが、大部分は制限地帯が締めている。
「がっはっは。さて、ここから先は俺と緑が順番に周囲警戒を行う。お前達には全てが新鮮に映るだろうから、色々観察したり、五感で感じたりしてみてくれ。疑問に思った事があれば俺達に聞いてくれ。分かる範囲で答えよう」
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