武者修行-栃木領-編.1
第4章 武者修行-栃木領編-
別れの時。都筑、青葉、緑がお見送りをする。港北は、宿泊の荷物を取りに席を外していた。
「サッキーちゃん、今日はありがとね!気をつけてね、皆さんも!」
「そのうち遊びに行くぜ!暇だったらこっちに来てもいいからな!」
「またねー」
「寂しいです…。遊びに来てください…」
食事会は、結局8時過ぎにお開きとなった。前橋と高崎の餃子大食い対決は、互いに一歩も引かずに決着を見ず。緑は、桐生と伊勢崎特製の着物を頂くまでに、打ち解けていた。
都筑達はあの後も、足利と色々と話をした。神奈川領の重鎮である、鎌倉と親交がある事もわかったりした。何より驚いたのは、まだ18歳だという事だ。10歳の時に啓示を受けたそうだから、立派なベテランであった。
「行っちゃったな…。トミーと藤岡さんとの勝負は、しばらくお預けになるかもな」
「そうだね…。次会うまでにもっと強くなろう!」
本来であれば、明後日に富岡との訓練をする予定だった。富岡とは早い段階から顔を合わせていたため、ちょっと残念に思う2人であった。
やがて港北が戻り、一行は足利領へと出発した。街道は、まだ賑わいを見せている。侵食者に怯えて暮らす日々の中、今だけはそれを忘れ楽しむように。
港北は結構飲んだようで、馬車を走らせてすぐに爆睡した。港北のいびきが響く中、都筑なりの疑問を足利にぶつけていた。
「あの、足利さん。侵食者って捕まえることは出来ないんですか?」
「出来ますよ。研究機関には今も数体いると思います」
研究機関がある事は知っていたが、捕獲もしていたとは初めて知った都筑。
「それは、縄とかで捕まえるんですか?」
「都筑さんを狙っている侵食者を、捕らえたいのですね?」
来ると分かっているのであれば、罠を仕掛ければ捕獲も可能なのではないか、と都筑は思ったのである。
「ええと、はい。そんな事出来るのかなって」
「侵食者は電気が弱点という事は知っていると思うのですが、電磁波を用いて捕獲しています。特危相手に試した事もあるのですが、その時は効果が無かったと記憶しています。ただ、それが10年くらい前の出来事で、それ以降はタイミングも合わず、試せてもいないと思います」
「それは、ひょっとしたらいけるかも?ってことですかね」
「なんとも言えませんが、10年前よりは捕獲者もレベルは向上していると思うので、試す価値はあると思います。そうですね、こちらも併せて調べてみましょう」
都筑は、自分が話題を振り、それによって調べ物を増やしてしまった事に、申し訳なく思った。
「う、なんかすみません。私に出来る事は何かありませんか?」
「いえいえ、僕も気になる事なのでお気になさらず。お願いしたいという事も、今はまだ大丈夫です。何かあれば、その時に言いますね」
「わかりました」
ジュンとチュンと戯れ、しばらく黙って聞いていた青葉であったが、何かひらめいたように口を開いた。
「なあ足利、逆に遠ざける物とかはないのか?」
都筑はなるほどなと思う。捕える事は難しくとも、近付けなければ良いのだ。
ただ、心のどこかでは、夢の続きを見たいとも思っている。
「僕も今それを思っていました。観光業の方達が使用している物を強化。または捕獲者の同行が考えられますね」
「やっぱ既にあるんだな」
「捕獲者に同行して頂ければ、少なくとも不意打ちは避けられるのでは、と思います」
「マジかよ、捕獲者って何処にいるんだ?」
「この辺りだと、東京領と長野領ですね。今日いらしてた港さんも得意分野です」
結構いるのか、しかも自分も知っている港もその一人だとは。侵食者との戦い。それは倒すという事だけではないのだ。侵食者という存在を研究する者がいる。当然捕える者もいるし、逆に遠ざける手段も存在する。今まで漠然と強くなろう、侵食者を倒そう、と頭にあった都筑であったが、視野が拡がったようだ。
「うわー、すれ違いか!」
都筑は闇の中に光を見出したようだった。都筑の中で、何かが鼓動し始めた。
足利領に近付くにつれ人も疎らになり、領に入ると出店や露店も無くなった。やがて馬車は目的地に到着した。
「到着しました」
立派な門扉より馬車ごと敷地内へと入る。敷地内は木々に覆われ、歴史を感じさせる建物や小池の水面が、月光に照らされている。ただの宿ではなさそうだなと都筑達が思っていると、足利が説明を始めた。
「ここは私設学校のような物で、宿泊スペースも少数ながら備えてあります。宿は空いていなかったので、今日はこちらでお休みください。明日皆様の朝食を持ってまた伺います。だって、ここで調べ物するもの」
足利はそう言い残し、徒歩で去っていった。色々な疑問が発生し、未解決のまま頭にある。そんな微妙な表情をしている都筑を見て、小池に小石を投げ込みながら青葉は言った。
「今は何を考えてもモヤッとするだけだ。魔力変化の訓練でもして今日は寝ようぜ!」
「そうだね、うん!」
中に入ると、難しそうな書籍がそこら中にあった。緑は書籍を手に取り月明かりで読む。
都筑と青葉は苦手分野なため、そそくさと庭へ出て、魔力変化の訓練を始めた。
こうして長かった1日が終わった。
「あー、荷物全部八塩さんのところだー」
荷物の存在をすっかり忘れていた。緑は八塩に連絡し、魔送サービスで送って頂く依頼をした。
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