武者修行-群馬領-編.22
都筑は淡々と、時に思い出しながら話し始めた。
「今朝ここに来る途中、また侵食者の襲撃をうけました」
ガタッ
「何だって!」
港北は驚いて立ち上がり、大きな声を出してしまった。これには、テーブルを囲む皆も一瞬止まった。どちらが多く餃子を食べられるか競い合っていた、前橋と高崎さえも。
「…先ずは聞いて差し上げましょう」
足利がそう言うと、港北は「しまった」という表情になり、掌を顔の前で合わせ、皆に軽く頭を下げた。
「すまん都筑、続けてくれ」
「はい!えっと、突然馬車が横転したんですけど、その、スローモーションでゆっくり体が浮き上がって、でも頭の中の意識は普通のままで、倒れるまで10秒くらい浮いてる感じでした」
都筑は、身振り手振り説明した。
「そして、倒れた後、誰かが話しかけてきたんです。スローモーションは皆も感じた事みたいなんですけど、声は私しか聞こえていなかったみたいで、ひょっとしたら夢とか勘違いなのかもなのですが、ハッキリと意識があったので、現実だったと思うんです」
「話の内容は、この星が昔は緑に溢れていて、動物とか虫とかもたくさんいたって。でも人間が争って今の姿になっちゃって、侵食者がいなくなったら、また争うだろうって。全部は憶えていないのですが、そんな感じの話でした」
都筑は思い出しながら話しているうちに、つい頭の中で会話の意味と目的を考え込んでしまい、間が大きく空いた。
足利は、そんな都筑の表情を見て、優しく確認した。
「…以上かな?」
「あ、えっと、それで、特に攻撃とかはされずに、皆も無事だったんですが、その後に夢を見たんです」
1つの嫌な推測が、港北の頭にふとよぎり考え込んでしまう。
港北は思う。そんなに立て続けに襲撃に遭うものだろうか。都筑は今回また襲撃にあった。前回は神奈川領を出発した日。都筑が領外へ出た時は、必ず襲撃に遭っている。その前もだ。東京領への研修の時。あの時は、緑と一緒に討伐する事が出来た。
そしてその前、あの時もだ…。
都筑はつゆ知らず話を続けた。
「これは言っていなかったんですが、前に襲われた時にも、襲われた後に夢を見ました。それで、今日見たのは、その夢の続きだったのだと思います」
「夢の中では、2人の男性が会話をしているんです。話の内容は、よく聞き取れない部分が多すぎて、わかりませんでした。でも、そのうちの1人の声が、襲撃の時の声と同じだったんです。これはどういう事なのでしょうか」
港北は、つい考え込んでしまい、話が耳に入らなかった。
足利は、反芻するように繰り返し、質問を加えた。容姿は見ていないのか。男性か女性か。会話をしたのか。都筑の説明で漏れていた部分を補足した。
「…なるほど、ありがとうございます。最後に、夢の中の会話は聞き取れなかった、という事ですが、文脈はわからなくとも単語でも良いので、聞き取れて憶えている順に教えて頂けますか?時間を掛けても構わないので、頭の中で整理が出来たらお話ください」
都筑は目を瞑り、記憶を辿った。足利達に伝わりやすいよう、出来る限りの構築をして、口を開いた。
「最初の夢です。先ず聞こえてきたのが、『覚悟を決めた』、それに対し『本気ですか?』。『本気だ。色々考えたうんたらかんたら』、それに対し『わかりました。私は必要データをうんたらかんたら』。最後に『頼む』といった内容でした」
「今朝の夢は、『皆がうんたらかんたらを聞くか?』、それに対しては聞き取れなかったのですが、多分『聞きたいです』のような感じです。そこからしばらくあまり聞こえず、『曖昧はうんたらかんたらの恐れがあります』。『任せる』、それに対し『かしこまりました。私はうんたらかんたらを登録します』。これでおしまいです」
足利は、目を閉じ少し考えている。
「足利さん、ちょっとだけ失礼する。都筑、ちょっとこっち良いか?」
港北は、足利に断りを入れ、都筑と席を立ち、少し離れた。
「なあ都筑、ご両親の事足利さんに話しても大丈夫か?あの時の事も話した方が、足利さんの推察に幅が出ると思うんだ」
「…はい、大丈夫です!」
「席外すか?」
「いえ…、一緒に聞きたいです!」
港北は都筑の頭をポンポンし、席に戻る。
「すいません足利さん。もう1つ、俺が気になっている事を話しても良いか?」
「もちろんですとも。だって、情報は多い方がいいもの」
「都筑はこれまでに、4回領を出ているんだ。そして、4回とも襲撃を受けている。今回と前回、正体は明らかではないが、特危クラスの侵食者だろう。そして、約2年前。この時は侵食者が10体程現れ、俺と緑で討伐する事が出来た。で、最初に領を出たのが6歳の時。この時は、護衛2人とご両親と一緒だった」
青葉は、都筑が少し震えている事に気付き、餃子を食べる箸を止め、都筑の肩を抱き優しくさすった。
「ほら、餃子食え、美味いぞ」
「あびばぼ」
青葉は都筑の口に、半ば強引に押し込んだ。港北の話は続いている。
「だが、護衛1人と都筑を残し、命を落とした。100%遭遇って…、狙われてると思うんだが、どう思う?」
足利は都筑を見た。両親の命を目の前で奪われている。完全にその悲劇を乗り越えた訳ではないのだろうが、しっかりと足利を見るその眼差しは、未来に向けて歩いているのだろうと思った。話を続けて問題なさそうだ、と判断し足りない情報を埋めていく。
「そうですね、確かに色々と普通では無いですね。因みに、前回の襲撃はどのような物だったのですか?」
港北が先に口を開く。
「前回は、俺も緑も襲撃に気付けなくて、都筑が何かを感じ取った。それが何なのかはわかっていないが、都筑をひどく怯えさせた」
「誰かに肩を掴まれたような感覚だったり、見られている感じがしました。でも、それだけでした。気のせいかもしれません」
都筑は自身が感じた事。ひょっとしたら気のせいなのではないか、と未だに思えるため、それも付け加えた。
「ありがとうございます。では所見を。過去に特定の人物が狙われる、という前例を知りませんが、話を聞く限りは狙われていると思えます。だって、僕なんて不意の遭遇は1回しかないもの」
やはりそうだよな。港北は思った。なぜ前回の時点で気付いてやれなかったのか、と悔やむ港北。
足利の話は続く。
「最初の2回は完全に襲撃と言えますね。ただ、後半の2回は襲撃ではなく、接触といった方が良さそうです。何かを伝えたいのかな。都筑さんが領からでる時をひたすら待ち、その機会を全て捉えている。近くに居て見張っているのか、遠方に居てもわかるのかはわかりませんが、執念を感じます。また、これはそうあっては欲しくありませんが、侵食者を用いた何者かが黒幕かもしれませんね」
港北も都筑も、青葉も目を見開いた。そんな事はあろうはずもない、考えた事すら無かったからだ。
「可能性としてあるというだけの事です。いずれにせよ、この件は持ち帰り、色々と調べたいです。あと、夢について。これが大きなポイントだと思います。このような夢を見たのはその時だけですか?」
「…はい、普段は見ていないです。もし見ていたとしても憶えてないです」
都筑は普段もなんらかの夢は見ているが、そんなものは起きてしばらくすると忘れてしまう。もしこの謎の夢なら憶えているだろうと思った。
「わかりました。もしまた思い出した事があれば、教えてください。僕は、聞き取れなかった箇所に当てはまりそうな言葉を、色々と考えてみます」
「足利さん、ありがとうございます!」
話が一段落したところで、今日このまま領外へ出すのは如何なものかと思った足利は、そのまま話を続けた。
「ところで、今日群馬領に戻られる予定ですよね?襲撃がある可能性は、非常に高いと思います。危害を加えられるかはわかりません。ですが、僕としては、今日頂いたお話を色々と調べてからの方が良いのではと思います」
「俺もそう思う。藤岡さんには俺から連絡するから、しばらく栃木領に居た方が良いな、ただ…」
港北も同じ意見だ。ただ、今は式典の客で栃木領内に人が溢れている。宿をどうしようかと頭を悩ませる。
「では、宿泊場所は、我が領内で手配させて頂きますね」
「何から何まで悪いな、ありがとう足利さん!」
港北は、足利に心からの感謝の念がこみ上げた。
「いえ、これは僕の知識欲を掻き立てる案件です。こちらが感謝したいくらいです」
こうして、急遽栃木領に留まることとなった。
武者修行-群馬領-編 -完-
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