武者修行-群馬領-編.16
周囲には、都筑の声と風の音だけ。何者かによる襲撃であったが、その姿は既に見えない。
3人の名を呼び続けるうち、青葉が、そして伊勢崎が目を覚ました。すぐに現状を把握した2人は周囲を確認する。
「緑さんがいないの!」
伊勢崎は即座に馬車の外を確認した。緑は少し離れた場所に倒れていた。御者台の近くにいたため、襲撃の際に放り出されたのだろう。伊勢崎が駆け寄り声を掛けると、緑もすぐに目を覚ました。全員かすり傷程度で、大きな怪我等は無いようだ。
伊勢崎は思った。どのような相手に、どのように攻撃をされたのか。全く理解出来ないが、最悪の事態は免れたと言って良いだろうか。いや、攻撃は終わっていない可能性だってある。
この場に留まるのは危険と判断した伊勢崎は、安全を第一に考え、馬車を起こし、先ずは走らせた。
「皆さん、一旦この場を離れます。コズミックエキスプレスを発動させるので、しっかり捕まっていてください!」
すると、馬車の前方にレールのような物が敷かれ、カタカタカタ…と機械音が聞こえてきた。
「行きますよ!」
次の瞬間、馬車は一気に加速した。揺れが激しい。時に右に傾き、時に左に。更に驚いたのは、天に向かって昇り、弧を描くように一回転したのだ。
「キャー!」
伊勢崎も一緒になって悲鳴をあげている。この回転は計算外か?と青葉は頭をよぎったが、敷かれたレール自体が弧を描くようになっていたため、何らかの意図があるのだろう、と自己解決した。
「止まりまーす!」
伊勢崎が大きい声で皆に告げた。するとカタカタカタという音と共に、一気に減速し、ピタッと止まった。伊勢崎は、怪我人がいないか、酔った人はいないかを確認すると、都筑が馬車内で粗相をしていた。怪我は無いようだ。
「大丈夫か?」
青葉は都筑に肩を貸し、外で背中をさすってあげている。
どれくらい進んだのだろうか。コズミックエキスプレスは、右に左に、時に上に。方向が定まっていなかったため、結構な距離を進んだのだとは思うが、栃木領はまだ見えなかった。
「コズミックなんとかってすごいね…。次は出来れば真っ直ぐ走らせて欲しいなー…」
青葉の介抱と、緑のスキルにより少し回復した都筑は、切実な表情を浮かべた。
「それは出来ないんです。あれがコズミックエキスプレスですから!あ、でももう今日は使わないので安心してください!」
使わないのではなく、使えないのであった。一定の距離を移動したら、インターバルが必要なのである。伊勢崎は緑にアイスとクリンの操縦を依頼した。
大分具合は良くなってきた都筑であったが、青葉の膝を借り横になっている。伊勢崎は、都筑と青葉の代わりに後方の確認もしながら、ふと先程の襲撃者の話を口にした。
「さっきの事なんですが、私の警戒網に反応がありました。でも侵食者かどうかはわからなかったんです」
身に起こったことを共有する。
「そしたら突然馬車が横転しました。ゆっくりと時間が進んでいて、でも意識は正常のままで。そのまま意識が飛んでしまいました」
どうやら、青葉と緑も同じような事が身に起きていたようだ。都筑の身に起きた事。誰かが話しかけてきた事。それは他の誰にも起こっていなかった。
都筑は自分の身に起きた事を、皆に話した。
「姿は全く見えなかったのか?」
「その声は知ってる人?男性?女性?」
「匂いとか、なんか特徴は無かったんですか?」
色々と質問を受けたが、それが男性の声で、聞いた事がある気はするが、誰かは分からない。それくらいしか返答出来なかった。
(最初は、武者修行に出た日にあった時と同じような感じがした。でも、今日はあの時感じた、背筋が凍るような嫌な感じがしなかった。話し掛けて来た人は、姿は全然見えなかった。匂いも分からない。男の人で、声は聞いた事があるような気がするんだよね。質問?話の内容?は難しくてよく分からなかった。あ、でも制限地帯に緑があったって初めて知った。今はこんなに荒れているのに…)
都筑は心の中で色々と考えているうちに、眠りについた。
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zzz...
「皆と○▲□●△■果、聞くか?」
「是○▲□たいです」
「日○▲□●△■とする!」
「かしこ○▲□した」
「カタ○▲□●△■いうのか?ま○▲□は有りだ」
「曖昧は○▲□●△■く恐れがあります」
「そこは完○▲□前に任せる」
「かしこまりました。私は早○▲□●△■てを登録します」
zzz...
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(またあの夢だ、ノイズ混じりで聞き取れなかったりするけど、ハッキリとしている誰かの会話の夢。前に見た時は意識して無かったけど、木が沢山ある綺麗な場所だった。そして、さっきの襲撃の人の声に、似てた)
ハッと目を覚ました時には、栃木領に到着しようとしていた。
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