武者修行-群馬領-編.14
※誤字を修正しました
太田の言った式典。これについては港北から聞いていた件だった。先の栃木領の襲来防衛戦の褒章だ。基本的には参加者全員に授与され、特に活躍を見せた者には特別な物もある。尚、太田、富岡は追加応援で参加はしたが、戦闘する事がなかったため除外となっている。
今回は大規模な防衛戦となった為、徒導不剣筆頭の東京が栃木領に赴くようだ。
都筑と青葉は、港北から話を聞いた時から、実は気になっていた。今回東京が姿を見せるという事で、"東京23柱"が護衛として随伴するのだ。生ける伝説の千代田に会えるかもしれない。
「行きたいなー…」
青葉はちらっと緑を見る。緑はそっぽを向く。
「行きたいなー…」
そっぽを向く緑の方に移動した都筑も、顔を見てつぶやく。
「いいんじゃねえか?中くんと鶴見さんもだいぶ回復したみたいだし、そのまま港北を連れて帰って来ちゃえば?」
「…でもー、私だけだと道中がちょっとー」
緑一人でも、特危級が現れなければ問題はない。だが、港北のような物体を加速させるスキル、つまりは緊急退避系のスキルが無いため、不安にさせた。アイスとクリンでは追いつかれてしまうだろう。
「そうか。行ってやりたいんだけど、来客があって外せないからなー。伊勢崎は暇なのか?」
太田は、隣で幸せそうに焼きそばを頬張る伊勢崎に振った。突然振られた伊勢崎は、焼きそばを詰めたままモゴモゴ言っていたが、きちんと咀嚼し焼きそばを飲み込み、お茶を啜ってから改めて返答した。
「えー!私じゃ不安ですー!ここは富ちゃんに…」
「生ける伝説が来るかも…」
「万夫不当も来るかも…」
ごくり。
「よーし、…じゃあ行きますかー!」
伊勢崎は、青葉と都筑にまんまと乗せられ、引率者として栃木領へ向かうことになった。
ただ、あくまで都筑と青葉の所属は横浜で、引率は港北と緑なので、港北の許可が必要だった。緑は早速連絡した。緑とて生ける伝説には会ってみたいのだ。
港北は少し考えたが、危険な特危は襲ってきたばかりで次の襲来は当分先だろう、伊勢崎という"志"による引率、移動距離の短さの3点から許可をした。逆に港北は、引率の役目を果たせていない現状なので、都筑と青葉が側に来てくれることはありがたかった為、伊勢崎、太田にお礼をした。
「ふぉふぉふぉ、伊勢崎が引率なら安心じゃろう。ただし油断してはならんぞ」
「えー!やっぱり不安になってきたー…」
伊勢崎のコンピは、相手を小間切れにしてしまう為、模擬戦等、対人では刃を外している。故に懐に入られて負けてしまう事が多いのだ。なので負け癖がついてしまい、自分に自信が持てなくなっていた。
その後は、覚醒した青葉のジュンとチュンを踏まえた連携等の訓練を中心に行い、戦闘訓練は次週に持ち越された。太田は結局攻撃を受けたのみで終わってしまったのだった。
---3日後の夜---
いよいよ明日は式典の日だ。10時から始まる為、朝早く、7時に待ち合わせて出発する予定だ。因みに、今回群馬領から褒章を授与されるのは、高崎、前橋、桐生の3名だ。
なんとその3名は、約3日前に既に現地入りしていた。高崎と前橋の競い合いが始まった事から始まり、どっちが先に前入りできるかを争っているうちに、無駄に早く栃木領に入ってしまったのだ。桐生はそれに付き合わされてしまった形だ。
実は、式典の話を受けた当日に現地入りしようとしたが、そこは流石に群馬からお咎めを受けた。
本日の訓練プログラムを終え、夕食を食べ終わった頃だった。
「ハハッ、遊びに来たぞ!」
富岡が遊びに来たのだ。富岡と会うのは10日ぶりくらいだろうか。本当はもっと早く来たかったようなのだが、来客があり時間が空いてしまった。都筑と青葉のように、武者修行の旅の者が富岡領に立ち寄ったようだ。
「そうだったんだ!もう大丈夫なの?」
青葉は、富岡の連れの獅子クリスに、ジュンとチャンを紹介しているようだ。少し離れたところでワチャワチャしている様子が見える。
「ハハッ、明日また訓練に立ち会うぞ!」
富岡も、藤岡同様に1週間ごとに訓練をつけてあげているようだ。
「忙しいのに来てくれて、ありがとね!」
「ハハッ、実は相談もあって来た!4日後の訓練の日に、連れて来ても良いか?」
都筑と青葉と同じ、武者修行中の人。しかも"煦"の位らしいから、ほぼ同じ環境の人だ。都筑はもちろん快諾した。
武者修行は"煦長存"の位の者が行うが、圧倒的に"長存"の者が多いのだ。それは、精霊により指定された"精霊指定志"が、全国的に少ないからだ。
結局富岡は、9時頃まで遊んでいった。青葉は何度も泊まっていけと懇願していた。
そして夜が明けた。
一行は、待ち合わせ場所である、伊勢崎領入口へと向かった。アイスとクリンの操縦は、都筑がしている。だいぶ慣れてきたようで、今のところ暴走はしていない。
青葉はやはり寝ていた。
朝7時少し前に、無事伊勢崎領入口に到着した。伊勢崎はまだ来ていないようだ。
領内から食欲を唆る香りが漏れてくる。




