武者修行-群馬領-編.10
起き上がった拍子に、完治していない傷口が痛み、顔が歪んだ。
「鶴見!」
港北はすぐさま駆け寄り、背中に手をあてがい、ゆっくりと餃子の中に寝かせ、温かな表情で話し掛ける。
「まだ傷だらけだ。この餃子には癒やし効果があるらしいぞ。横になってろ」
何故か港北がいる。ここは何処なのだろう。いや、今はそんな事はどうでも良いのだ。
「一緒にいた3人も、ここに居るか?」
「中くんはあなたと同じ様に餃子に入っているわ、先程無事目覚めました。宇都宮さんの姿は無いの。中くんが気を失うところまでは把握しているのだけど、ゆっくりとで構わないから、分かっている事を聞かせて頂けませんか?ウキッ」
日光は、総指揮を任された者として、心苦しさを殺し、聞くべき事を聞いた。
「私も中さんが気を失った数秒後には意識が飛びました。微かに憶えているのは、佐野さんが眩しく発光されている姿でした」
「耳か…。自分を犠牲にしたという事なのか…。宇都宮さんに全てを託したのかもな…」
太田が2人の話を聞き、ポツリと口にした。
佐野の耳。以前太田が話していた通り、佐野の耳は食べられるのだ。味も美味しいのだが、その本質はバフである。様々な効果を付与出来るのだ。
「中くん、鶴見さん。その場所を特定出来そうな事って何かありませんか?ウキッ」
「木がたくさんあったから、禁域だとは思うんだ。後は目立つ物と言ったら玉座しかなかったな。空は木で見えなかった」
「すみません。中さんのおっしゃった事以外は私もわかりません。その他の情報を挙げるとすれば、《探求の竜》は玉座で寝ていたので、《暗魂》と連携して襲ってきた訳じゃ無さそうと言う事。私達はドロドロの液体が入った大きな木の虚に入れられていました。後は…、これはそう感じただけなのですが、《探求の竜》以外には侵食者の気配はしませんでした。」
制限地帯は荒廃し、木々が繁茂する場所は限られ、疎らにしか存在していない。木々がたくさんが存在する場所は、禁域と考えるに足る条件の1つだ。現時点で、禁域は12箇所確認されていて、その全ては木々に覆われている。
「2人とも、どうもありがとう。無理させて申し訳無かったわ。もう十分よ。ウキッ」
2人を休ませた日光は、桐生と太田と、これからどうするのかを相談している。宇都宮の救援に向かいたいが、今ある情報だけでは場所の特定には至らない。運否天賦で突撃しようにも、《探求の竜》の広い行動範囲から推測すると、4箇所も候補が挙がってしまう。また、《暗魂》との戦闘による疲弊も大きな要因だ。
最終的に出された結論は、自領に戻り、情報収集、及び共有をし、立て直す。といった内容だった。言わば宇都宮を見捨てたと同意だった。
皆が何も出来ない悔しさに唇を噛み締めていると、日光に魔話が入った。
宇都宮散る…
宇都宮領に、啓示を受けた者が現れたのだ。日光は涙を落とし、皆にそれを伝えた。
宇都宮の残した2つの大きな餃子は、その後魔力定着による保管がなされ、佐野の活躍と共に"徒道不剣指定重要有形財"として栃木領に保管された。
その後は、前橋、高崎の尽きぬ体力により、午後7時、《暗魂》の完全撃退に成功。英雄達は自領へと戻っていったのだった。
中と鶴見は、回復までの間は栃木領で世話をする事が決まり、港北も付き添った。
-藤岡領-
港北と太田の出発を見送った都筑達は、本来相手をするはずだった太田が不在となった為、戦闘訓練は延期とし、藤岡の下で魔力変化の訓練をする事になった。
都筑と青葉の大幅な成長に刮目した藤岡であったが、魔力変化の指南を受けた2人もまた、藤岡の素晴らしさを再認識したのであった。
「青葉ちゃん、都筑ちゃん」
お風呂から出た2人が、いつものように魔力変化の自主トレをしていると、緑から声が掛かった。港北から魔話が入ったみたいだ。
特危《暗魂》の撃退に成功。鶴見、中も無事だが、完治まで栃木領にいる事、そして、宇都宮の死と詳細、を知る事となった。
「宇都宮さんって人は、名前も顔も分からないけど、中さんと鶴見さんを助けてくれたんだよね」
「そうだな」
「私達も人をいっぱい助けてあげよう」
「そうだな」
青葉は都筑の肩を寄せ、軽く2回撫でた。
翌日から修行プログラムを少し変えた。と言っても、魔力変化のみに特化していた修行に、操作を加えたのだ。昨日の藤岡の指南が効果覿面だった。亀の甲より年の功とはよく言ったものだ。
港北と緑の教えが悪いという訳では決して無い。2人は気付きを大切にした訓練を行っていた為である。1週間で、藤岡が驚く程に魔力変化が上達した事は、2人の導きの賜である。




