武者修行-群馬領-編.9
餃子の中には、桐生の精製した、強い回復効果のある肌襦袢を纏った鶴見が眠っていた。鶴見は囚われる前に衝撃波を受けていたが、既のところでガードをしていた。それでも全ての衝撃を受けきれず、両手を中心に深い切り傷は見られるが、欠損は見当たらなかった。港北はゴクリと唾を飲み、もう1つの餃子を覗いた。
中は…、右腕が無くなっていた。中は右手で掴まれるようにして囚われた。その時に《探求の竜》の爪が食い込み、失ってしまったのだろう。
港北にとって、鶴見は共に修行をした仲間で、誰よりも親しい友人であった。男勝りで勝ち気な性格は、長所でもあり短所でもあると知っていた。だから、藤岡から栃木領が大変になっているという事を聞いた時、真っ先に鶴見の顔が浮かんだ。
中は誰よりも強く頼もしく、武者修行で引率もしてくれた。その強さを肌で感じ、間近で見ていたから、太田から2人が重体という話を聞くまで、中の事は全く心配していなかった。佐野が討ち死にしたと聞いた時にさえ。
港北は思った。この2人に加え、佐野、宇都宮という2人の"志"がいても叶わないのか。それ程までに差があるのか。怒りに任せ突っ込むか?…否。では逃げるのか?否、否!
「あなた達がこんな目に合う程の敵など信じられない。だがこれが現実だ。必ず倒す方法を見つけて殺してやる」
港北は、怒気の中に冷静さを保ち、1つの誓いを立てた。
桐生曰く、目覚めるのには後1〜2時間程要するという事であったため、先ずは許しを得て緑に一報を入れた後、日光の下へと向かった。
「大丈夫か?」
「大丈夫です!」
「では共有だ。宇都宮さんの行方は全くわかっていない。あの2人が起きたら話を聞こう。戦況については、やはり《暗魂》は俺たちが来る少し前に撤退したようだ。後方は約1時間前に収束してて、今は高崎と前橋の2人で事足りてるみたいだな」
「皆さんここ1週間、ほぼ戦い続けていますからね、他の3人には休んでもらっています。ウキッ」
侵食者には、"疲れ"といった概念が無いと考えられている。魔力があるうちは、その残量に係わらず一定の動きを見せるが、無くなった瞬間に消滅してしまう。
《暗魂》が、どのような目的で栃木領周辺に現れたのかはわかっていないが、約1週間に亘り、休まず侵攻を続けた。
一方、人間には"疲れ"もあれば、"睡眠"も必要だ。故に、各場所に最低2名は配置し、交代で休みを取って対応していた。
「じゃあ高崎さんと前橋さんにも休んでもらいましょうか」
「そりゃあ無理だな。あいつらは仲が良いのか悪いのか、いつも競い合っててな、交代するって言っても絶対どっちも代わらん」
「でも流石に1週間ともなると…」
「あいつらは共にエコだから心配にゃ及ばんだろう。今の侵食者レベルであれば、1年でも戦い続けられるさ。ただ、佐野さんを破ったやつがいつ襲ってくるかはわからない。今日1日は警戒が必要だろう」
日光も桐生も同様な筈なのに、それを表に出さない。港北は、回復スキルが使えない自分を恨むのであった。
それから約1時間が経過した頃、中が目を覚ました。
「くっ、こ…ここは?」
「中さん!港北です。ここは安全な場所です!日光さんや他の方も一緒です!」
「他の3人は?」
「鶴見さんは隣で寝ています。佐野さんは逝去され、宇都宮さんは行方がわかっていません」
「なんて事だ。佐野さんは僕の盾に入ってくれたせいで、大きな傷を負ったんだ…」
「中くん、実はこちらは全く何が起こったか把握できていないの。お聞きしたいのだけれど、話せる?ウキッ」
中は《探求の竜》が現れた事、連絡する暇も無い間にやられてしまった事を説明した。中は《探求の竜》に囚われた際、気を失ってしまったようで、他の3人がどのようにして捕らえられたのかはわからなかった。
「目を覚ますと、ヤツの住処にいた。僕の考えでは、あれは禁域のどこかだと思う。ヤツは大きな玉座に寝ていて、僕達はドロッとした液体に首ぐらいまで浸かっていたんだ。首から下は動かせなかった。他の3人もすぐ横に並べられてたから、ヤツが起きないように、必死に起こした。皆起きたんだけど、どうやら魔力を吸い取る液体だったみたいで…。その後は気付いたらここに居た」
何という事だ。気になるワードが幾つも出てきた。皆表情がこわばっていて、言葉がすぐに出てこない。
《探求の竜》にさらわれた者は誰一人戻っていない。そうだ。予想はしていたが、高い魔力を持つ者を養分にしていたのだ。
餌だ。人間はヤツの餌なのだ。しかも上等な餌を選り好みする。
「くそったれが、人間を舐めやがって!」
太田は怒りを露わにした。
「その住処の特徴や、場所が分かる目印等があったかは分かりますか?ウキッ」
日光が問いかけたその時、ガバッと鶴見が半身を起こした。




