武者修行-群馬領-編.1
第3章 武者修行-群馬領-編
-朝の9時 宿のフロント前-
武者修行は2日目の朝を迎えた。初日は正体不明の予期せぬ襲撃を受けたり、それが元で緑が参ってしまったりと大変な1日となった。
港北は不安を抱えつつ、部屋を後にした。
集合場所のフロントに着くと、笑顔で会話している都筑と緑が見えた。青葉は隣でテーブルに突っ伏して寝ているようだ。
「おはよう、皆早いな」
「おはようございます!」
「おはよー」
緑の表情も声色も回復している。最悪緑は引率から外し、帰さなきゃいけないとまで考えた港北は、気持ちをリセットした。
「がっはっは。よし、じゃあ早速行くか」
八塩に別れの挨拶をし、アイスとクリンの引く馬車に、寝ている青葉と荷物を詰め込む。状況によっては連泊、或いはしばらくの間滞在する事になるかもしれないのだが、藤岡と話をしてみなければ、明日以降の計画も立てられない為、荷物を置いていくわけにはいかなかった。
地図を取り出し、藤岡が居るであろう役所を目指す。
「お前達、頭に可愛いもん着けてるじゃないか」
「昨日の夜、作り合いっこしたんだ!」
「むにゃむにゃ」
「凄いなー、売れるぜそれ」
青葉が寝ていると言う事もあり、馬車は静かに歩みを進めた。
パカパカ…。アイスとクリンのリズム良い蹄音に添えるように、横を流れる神流川のせせらぎが心地よい。
港北は操縦を自動モードに変え、目を瞑り、ひと時の安寧に身を委ねた。
走らせる事30分程、目的地に到着した。
グッスリ眠っている青葉を、半ば強引に起こし、役所に足を踏み入れた。
受付の人に事情を説明したところ、藤岡は現在来客対応中とのことだった。日を改める選択もあったが、待合室を使わせてくれるらしいので、そのまま待合室で待たせてもらう事にした。
都筑と青葉の、中身があるようで無い、はたまた無いようである会話を温かく見守る港北と緑。そんないつもの光景が暫く続いた。
程なくして扉がノックされた。準備が出来たようだ。
執務室に案内されると、扉の前に人影があった。
「ようこそおいでくださった。儂が藤岡ですじゃ」
「あー!昨日のおじいちゃん!」
「星のじいちゃんじゃん!」
「ほ、星のじいちゃん?」
港北は頭にはてなマークが灯ったが、昨晩都筑と青葉は邂逅していた。
きちっとした和装スタイルで、服装は昨晩の浴衣姿と大きく異なるのだが、港北と並んでも遜色の無いがっしりとした体躯、スラッと伸びた背筋、何より立派な鬚髯ですぐに気付く事が出来た。
違和感があるとすれば、高さだ。港北が180ちょっとあるのに対し、更に大きい。昨日は座っていたので気付かなかった。
「これはこれは、紫陽花の髪飾りのお嬢さん方ではありませんか」
「なんだ、お前達既に知り合っていたのか。初めまして、藤岡さん。武者修行の旅で横浜領から来ました。俺は引率の港北です」
「引率の緑ですー」
「武者修行の都筑です!」
「同じく青葉です!」
「武者修行であったか。これはこれは。我が領にお立ち寄り頂けるとは有り難い。出来得る限りのおもてなしをさせて頂きますぞ」
ここでいうおもてなしとは、宴席を設けたりといった話ではない。
"武者修行の一行を迎えた領主は、成長の一助とならなければならない。"
このような文言が、全国武者修行協会のガイドラインに記されている。同協会には、ほぼ全ての領が加盟している。加盟していないのは、致し方の無い事情により加盟の出来ない領のみだ。
よってこの発言は、「戦いましょう」と同意である。
港北は、ひょっとしたら、栃木領の特危の対応で手が回らない、等の理由で、領の移動をせざるを得ない状況が起こるのではないか。と危惧していたが、杞憂に終わった。
「ありがとうございます、宜しくお願い致します」
「してそなた。港北とは新鋭18星の港北で間違いないかな?」
新鋭18星、それはこれからの活躍が期待される18人に与えられし称号である。
「ええ…、はい…、一応」
「誠か!お会い出来て光栄ですぞ、手合わせ願いたいものじゃ」
「がっは…、ありがたい申し出なんですが、今回はこの子達がメインなので…」
「ふぉふぉふぉ、手合わせは冗談じゃ。儂はデバッファーじゃからな、個対個は苦手なんじゃ」
(え?その体で?)
4人は心の中でそう思った。
「じゃからの、個対個向きの者にも声を掛けておこう。じゃが…。お主らも既に耳に入っているかもしれぬが、栃木領周辺に特危が現れたようでの。群馬領から3名が出張しておる。故に力になれんかったらすまんのう」
「いえ、大変な時だと言うのにありがとうございます」
「ふぉふぉふぉ、よし、じゃあ今日より早速始めるかの。諸用を済ませる必要があるから、午後1時、場所は"総合運動公園"にて。場所は受付で確認しておいてくだされ」




