武者修行-激動の初日-編.4
「ごちそうさまでした!」
「シウマイは出なかったけど、"おっきりこみ"ってやつうまかったな!」
「ねー!私は釜飯にハマっちゃいそうだよ!」
「がっはっは。この釜飯の器は持って行っていいらしいぞ!俺はこのラスクを緑に持っていってやろう、甘い物好きだからな、あいつ」
群馬領の食事を堪能した3人は、明日の予定を簡単に確認し解散した。
都筑と青葉は、探検と称し、あたりを散策する事にした。季節は夏に差し掛かろうとしている頃、程良い温かさの風が通り過ぎる。
道端には色とりどりの、綺麗な花がたくさん咲いている。
2人は、お互いに髪飾りを作ってプレゼントする事にした。
「見て、大人な感じでしょ?着けてあげる」
白をメインに、アクセントとして青と紫が入った小振りな髪飾りだ。青葉は獅子舞をかぶる為、やむ無く小さめのサイズに拵えた。
「私のはこれだ!優雅なピンク!」
ピンク1色の大振りな髪飾り。なんとも青葉らしい豪快さだ。
魔力を操作して形取り、仕上げに魔力を定着させた髪飾りは、見た目に反してとても丈夫だ。2人は互いにニンマリし、側にあったベンチに腰を下ろした。
「なんとも可愛らしい髪飾りが出来ましたな」
突然話し掛けられた2人は一瞬ドキッとした。一連の流れを見ていた老人が、話しかけてきたのだ。顔を向けると、白い立派な鬚髯を貯えた老人が、凜としてベンチに腰掛けているのが見えた。
「びっくりしたぜ、驚かせるなよな、じいちゃん」
「ふぉふぉふぉ、これはかたじけない。睦まじいそなた達を見ていたら、つい声を掛けてしまっての」
「こんなところで何してるんだ?」
「ここはこのあたりでは星が良く見えてのう、湯浴み帰りには、ここで星に祈りを捧げるのじゃよ」
「ホントだー、すっごい綺麗!横浜領では見られない星空だね!」
「確かに!あんま意識して見た事無かったけど、キラキラしてるなー!」
「ふぉふぉふぉ、お主達は他所から来たのか。この群馬領には吾妻という所があってのう、ここよりも更に綺麗に見えるのじゃ。もし時宜が整えば、冬に1度見てみて欲しいのう」
領内の空は実際の空ではない。作り出された物だ。これは学園でも教える事で、ほぼ全ての人が知っている。それが認識されている上で、無味乾燥に耐えられない誰かが、魔力で風情を演出したのが始まりだ。
今では多くの独立団体が、そういった地域の特色を演出している。それを領の運営のメインとし、観光業で成り立っている独立団体もあるくらいだ。
※独立団体の補足
基本的にこの国は、徒導不剣という47人の領地にわかれ、包括的に管理されている。
徒導不剣の下には志煦長存及び群が居る。志は煦長存を、煦は長存をそれぞれ内包している。
志煦長存及び群は自治の義務と権利を持つ。これを独立団体と言う。
尚、煦においては精霊指定志と言って、例外を除き精霊によって指定された志のみに存在する。
「えー!空に違いがあるんだ!」
「まじかよ、空は1つじゃないのかよ!」
ちなみに、2人はまだ学園で"感応型防壁"、つまりは"作り出された空"を習っていない。
「ふぉふぉふぉ」
おじいさんとの穏やかなひと時を終えた2人は、少し冷えた体を温めるため、薬湯へと向かった。
-港北の部屋-
食事を終えた港北は、八塩に頼み込み、空いている部屋を急遽用意してもらえる事になった。
用意してもらっている間に、緑の様子を見に元の港北の部屋へ立ち寄った。
「みどりー、ねてるかー」
寝ているとまずいと思い、囁き声で確認してみるが、返事が無い。ひょっとしたら小さ過ぎて聞こえていないのかも、と思い、少し声量を上げてみる。
「おーい、みどりー、ねてるのかー」
少しすると横開きのドアが開いた。腫れた目を隠すように手で覆っている。口元は緩んでいるように見える。
「寝てるかーって何ー?寝てたら返事できないよー」
港北の確認の仕方が可笑しかったようで、笑みが溢れた。港北は意図していなかったが、緑の少し復調した様子に、安堵した。
「起きてたか、良かった良かった。ホイ、これお土産」
ホワイトチョコレートでコーティングされたラスクを渡す。
「ありがとー、美味しそうだねー」
「ちょっとは気分良くなったか?」
「うん、もう大丈夫だよー」
「がっはっは。安心安心。明日はちょっと遅めの9時集合にしたから、ゆっくり休め」
「うん」
こうして激動の初日がようやく終わりを迎えた。
「青葉ちゃん、お風呂で泳いじゃダメだよ!」
「そうなのか?」




