武者修行-激動の初日-編.3
午後6時を回った頃、都筑達は無事群馬領に到着した。道中に起こった不可解な事件。侵食者による襲撃か、または違う何かによるものなのか。都筑は気のせいかもと言っていたが、あの取り乱しようは、何らかの実害があった故と判断が出来る。
最終的に港北は、特危クラスの侵食者が襲撃して来た。と判断した。この事は緑にも伝えた。
その襲撃以降は、群馬領到着までの間、魔力の量が膨大な港北が遠方を、魔力の操作に長けた緑が近辺を。それぞれ分担して警戒を続けた。直感的に、また襲撃があると感じていた港北であったが、杞憂に終わり胸をなで下ろしていた。
「ふぅー、なんとか無事に到着出来たな、ずっと警戒にあたらせてしまって悪かった」
「いいのよー」
笑顔で答える緑であったが、魔力の継続操作によるためか、ぐったりとしている。
「今日はこのまま宿に直行だな」
港北は通行人に声を掛け、宿の情報などを聞き出している。案内所はあるのだが、彼はいつもこのやり方のようだ。
生の声を聞きたいらしい。
「お待たせ、バッチリ情報ゲットして、魔話予約もしてきたぜ!朝食無しのお泊りプランになっちまったが!」
さすが、新鋭18星に数えられているのは伊達じゃない。出来る男のようだ。
港北のスキル、"こだまブースト"によって速度を上げた一行は、10分程で目的地に到着した。
ちなみに"こだまブースト"は、港北の使える速度アップのスキルの中では、最も下位のスキルだ。
街中のため、安全性を考慮した上での選択であった。
グッスリと寝ている2人を起こす事に抵抗はあったが、馬車も収納しなくてはいけなかったため、優しく起こす事にした。
「…い、お〜い、着いたわよー」
(うーん、むにゃむにゃ)
「お前達ー、着いたぞー」
寝ぼけ眼で、むくりと半身を起こした都筑。
「ぉはようございまぁーす…。ここはぁ?」
「今日の宿だ。薬湯だぞー!」
目を擦りながら、ゆっくり馬車を下りる。うっすら開けた目の前には、初老の男性が出迎えてくれているように、立っていた。
「ご一行様、本日はよくぞお越しくださいました。私は八塩と申します。」
「おぉ、じぃさんがここの薬湯の?」
荷台の荷物を下ろしながら、港北が八塩に問い掛ける。
「左様でございます。本日も丹精込めて魔力を練り込んでおりますれば。どうぞごゆっくり疲れをお癒やしください」
つんつんつん…
「ねー、見てー、この鼻提灯割れないよー」
グガーッグガーッ…
青葉はまだ寝ていた。
「アイスとクリン、今日はありがとね!お疲れ様!」
目を覚ました都筑が2頭を労うと、港北が魔力を解きフッと馬車ごと消え去った。八塩に案内され部屋に着いた。
部屋は質素ではあるが趣があり、ゆったりと時が流れているように感じる。4人用の部屋らしく、広々と使えるのも良い。もちろん港北だけは別の部屋だ。
「飯は1時間後、それまでは自由行動だ!風呂に入って来ても良いし、ここでのんびり過ごしてもいいぞ!」
「青葉ちゃん、どうする?」
「決まってんだろ、風呂!緑さんも行きますか?」
「私はご飯食べてからにするー」
「オッケー、じゃあ行ってきまーす!」
「青葉ちゃん!待ってよー」
「ふふふ、ごゆっくりー」
2人を見送った後、緑は1人思い耽る。
(何故気付けなかったのだろう。ご飯を食べていたとはいえ、だからこそ余計に警戒にも気を配った。)
(私の力不足?侵食者の力量?能力?もしまた同じ状況になったら?気付ける?)
(否、同じ方法では、また警戒網を潜られてしまう。魔力の量を変えてみる?張り方を変えてみる?)
(それでもダメだったら?………。)
脳裏には特危に討たれた先代の西の姿が浮かぶ。
(…。もう嫌だよ。あんな思いはしたくないよ…。)
緑の瞳から、大粒の涙が零れる。
どこからともなく現れた港北は、耐え切れずに嗚咽を漏らす緑を、優しく抱いた。
緑は堰を切ったように泣いた。
-1時間後 大広間-
テーブルは半数程埋まっていた。食事中の家族、食事を終えて会話する男女、これから食事を始める初老の夫婦。そして都筑達。
その中に緑は居なかった。
「緑はつかれちゃったみたいでな、寝ちゃったよ!…実はな…」
港北はあらましを説明した。
「という訳で、"目がお化けみたいに腫れてるから恥ずかしい"らしい。俺の部屋を代わりに使ってもらってるよ!ゆっくり寝かせてあげよう」
「私のせ」
「それは違う」
港北が口を開くより先に、青葉が都筑の言葉を遮った。
「たまたまお前が狙われた。緑さんでも気付かないレベルの侵食者にな。ひょっとしたら私だったかもしれないし、港北さんだったかもしれない」
「…」
「私達はさ、ラッキーだったんだよ。ひょっとしたら特危クラスかもしれない侵食者に出くわしながら、生きてるんだからな!いや待てよ、恐れをなして逃げ出したのかも。それならラッキーじゃなくて誇れる事だな!」
「青葉ちゃん…」
「まあ今のは冗談にせよ、お前が気にするなら、もっと強くなるって事だ。もちろん私もな。後ろ向きになったってしょうがないからさ、一緒に前を向こうぜ!特訓特訓!」
「…うん、そうだね…。ウジウジしてても始まらないし、緑さんも気にしちゃうもんね!」
「ぐっ」
港北は目頭を押さえた。熱い友情…。相手を思いやる心。港北はそういった友情物に弱かったのだ。
「港北さん、泣いてんのか?」
「お前らは良いなあ、最高だよ。おじさんになると涙腺が緩くなってたまらんなあ」
「おじさんって…、まだ26とかだろ!」




