4話 執事の極意
アリア王女の専属執事になる一月前、王の謁見の後にセバスの執務室に呼ばれたアウル。
「では、アウル君。君に一つ聞きたいことがある。」
先ほどまでの温厚な表情から考えられないほどの鋭い表情をアウルに向ける。細い目を見開き強い眼力を向ける。
「君は元『皇族の専属執事』だね?」
その言葉で勢いよく座っていた椅子から立ち上がりセバスから距離を取る。厳戒態勢を取りいつ襲われていもいいように攻撃魔法の準備をする。
「そう警戒しなくてもいいよ。ただ、どうして君が解雇されたのか知りたいだけさ。」
アウルとは真逆に先ほどまでの鋭い表情から温厚な表情と口調に戻るセバス。
「どうしてそれを。」
「『皇族』の元執事ならわかるだろう?」
王族や皇族の執事は、政務にもかかわることが多い。主人の代わりに外交に出向いたり。表立ってできない裏の仕事に手を回したり、自ら行ったりすることがある。
「それで、答えを聞かせてもらえるかな?」
この人に嘘は通じない。本当のことを話すしかないか。
そうしてアウルはここに来るまでの経緯をすべてセバスに包み隠さず話した。
「はっはっは!解雇された理由がお茶がまずいからか。」
「信じるんですか?」
自分でも思う。長く使えてきた主にそんな理由で解雇されたことがだ。
「信じるとも。はじめは帝国が送ってきた密偵だと思ったが杞憂だったな。嘘をつく理由としてそれはあまりにもセンスがなさすぎる。」
ははは。笑いたきゃ笑え。どうせ俺は無能執事ですよ。
「でも、それを知っていながらなぜ私を王女の専属執事に指名したんですか?」
「あの場で言ったことがすべてさ。それにもし密偵だったとしてもその時は私が対応すればいい。」
そういうことか――。それだけの力がこの人にはあるんだ。
「私も老い先短い。いつまでも姫様のそばにいることはできないからね。君のような若者が姫様のそばにいてくれれば私も安心できる。」
「私としてもとても複雑な気分です。」
「そうだろうね。それで君はこれから姫様に仕える意思はあるかい?」
「はい。一度了承したことを曲げる気はありません。」
「それはよかった。では、さっそく訓練を始めるとしよう。まずはクビになった原因のお茶を入れてもらおうかな。」
それからセバスさんとの専属執事になるための訓練が始まった。
今まで執事として働いてきたからほとんどの訓練は一発合格できた。立ち振る舞いや言葉遣い、ダンスや音楽。算術に生活術、戦闘や魔法。王族の執事としてあらゆることを完璧にこなさなくてはならない。ただ、政治や歴史など王国の知識を持たない帝国国民だった俺には学ぶべきことも多かった。
そして、何よりセバスさんとの執事としてのレベルが違いすぎる。
セバスさんは、先代の国王から仕えてきた行ってしまえば執事のエリートだ。現国王を子供のころから支え、国王の娘であるアリアの執事兼教育係も任されている。執事としての経験の差が大きい。この人から学ぶべきことはたくさんあった。そして何より俺自身それを楽しんでいた。執事としての自分を磨けることに喜びを感じているのだ。
それから一月がたちセバスから正式に王女専属執事としての任を受け継いだのだ。
「ここまでよく頑張りましたねアウル君。」
「これもすべて師匠のおかげです!」
「君の執事に対する熱意あってこそです。ですが、これで終わりではありません。むしろここからがスタート。執事道に終わりはありません。培ってきた力を姫様と国のために使うのです。」
「はい!この命に代えても姫様をお守りいたします!」
―現在―
「と、このような感じで師匠から専属執事の任を受け継ぎました。」
アリアは専属執事になるまでの経緯を聞いて顔を赤く染め上げた。
「どうされました?お嬢様。」
最後の言葉で嬉恥ずかし気持ちになってしまったアリアだった。
「なんでもありません。」
アウルが入れた紅茶に口をつけると驚いた表情を見せるアリア。
「これが紅茶?」
「お口に合いませんでしたか!?」
やっぱり俺が入れたお茶ってまずいのか!?
前の主にだめだしされた記憶がふとよみがえり慌てだしてしまうアウル。
「いえ、こんなにおいしい紅茶を飲んだのは初めてで。何か珍しい茶葉を使ってるの?」
その言葉に安堵した表情を浮かべるアウル。そして、箱に入った茶葉を取り出した。
「茶葉はこれまでお嬢様が好んで飲んでいらしたものと変わりありません。ただ、入れ方を少し変えただけです。師匠...セバスさんにも褒めていただいたのでお嬢様に喜んでもらえて何よりです。」
「そお、あのセバスが。本当においしいわ。ありがとうアウル。」
「私ごときにもったいないお言葉。ありがとう存じます。お嬢様。」
―帝国王城 ソフィアの部屋―
「まずい!こんなお茶飲めるわけないでしょ!もう一度入れなおしてきて!」
「申し訳ありませんお嬢様!」
ソフィアの自室で紅茶のカップを投げつかられたメイドはしぶしぶと部屋を去っていった。
「どいつもこいつも使えない!アウルでももっとまともなお茶を入れるわよ!」
ソフィアはアウルが去ってからというもの今までの生活が一変し、怒りを従者にぶつける毎日。そんなソフィアを見て従者たちは。
「姫様ってあんな感じだったっけ?」
「もっと優しくて落ち着いてらっしゃったわよね。」
「アウル君がいなくなってから荒れている見たよ。自分から追い出したのに。」
今までソフィアのわがままや怒りのはけ口はすべてアウルが受け持ち、ソフィアがやるべき仕事などはすべて手を回し姫であるソフィアの仕事を最小限まで減らしていたため苦労をあまりしてこなかった。
しかし、そんなことをつゆ知らずソフィアはこれまで以上の仕事量とわがままを肩代わりしてくれる人がいなくなり怒りは次第にたまり従者に吐き出すようになってしまった。
「どれもこれも全部アウルのせいよ!そうよ!あいつを連れ戻して、いなかった間のこといっぱい押し付けてやるわ!どうせ私が帰って来いって言ったら尻尾振って帰ってくるに違いないわ!」
「待ってなさいよアウル。」
そんなことを知らないアウルだったが寒気を感じ震えあがった。
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