3話 王国の執事
王女救出から数日王都に向かう馬車の中。
「それでアウル様の前のご職業は何ですか?」
びくりと体を浮かせるアリアの一言に冷や汗を流すアウル。以前は皇女の執事だったと言えるわけもなく迷っていた。
「い、以前はホテルの給仕をしていました。」
「まあ、そうなのですね。あんなにお強かったので兵士か何かだと思いました。」
「ホテルの用心棒も兼ねていましたので。」
こんな嘘さすがに無理があるか..?
「そんなアウル様をクビにするなんて支配人も見る目がありませんね!」
自分のことのように怒っている彼女を見てまた心に少し痛みを感じる。というか納得したことに対して驚いている。それに加え、その隣で顔色一つ変えない執事に少し違和感を覚える。
「見えてきましたよ。あれがノイシュタイン王国王都『モンスタット』です。」
窓の外には大きな城壁に囲まれ中央には城壁からも見える大きな城がたっていた。そして、驚いたことはもう一つ。都内に入ると人族だけでなく多くの種族がいた。
「王国には多くの種族が暮らしているのですね。」
「アウル様は帝国出身なのでこの光景は珍しいですよね。」
この世界には人族以外にも多くの種族が存在する。森の民族エルフ。地の民族ドワーフ。獣の民族獣人種。ほかにもたくさんいるが人族と他種族が共存している国はノイシュタイン王国ぐらいだろう。
帝国は人族国家だったため他種族を見る機会はほとんどない。そう。奴隷以外は。
「とても活気があってよい国ですね。」
「はい!自慢の国です。」
この表情。この人は本当にこの国や国民が大好きなのだろう。それに比べると姫様はどうだ。いかんいかん!自分の主を比べるなんて。....いや元主か。
どうしてかソフィアのことを考えると少し暗い気持ちになってしまうアウル。自分を捨てた主をまだ引きずってしまっているのだ。
「どうかされましたか?」
「い、いえ!なにも。」
暗い表情を見せるアウルを心配して顔を覗き込むアリア。その表情に少しぞきっとするが平常を取り戻した。
その後、王都内を通り王宮へたどり着いたアウルは一度アリアと別れ別室に通された。
「まさか。休戦中とはいえ敵国の城に入ることになるなんてな。まあ、そう賞金をもらったら帝国に戻るし別にいいか。それに俺にはもう何の関係もないしな。」
王国と帝国は過去に何度も戦をしているが50年近く前から未期限の休戦協定を結んでいる。今や王国と帝国間での交流もある。しかし、裏で様々な暗躍があることも知っている。休戦協定を結んだと言ってこれまでのいさかいが亡くなったわけではないのだ。
部屋でそんなことを考えていると扉の向こうからノックする音が聞こえた。
「アウル様準備が整いました。謁見の間へお連れします。」
謁見!?聞いてないぞ!褒賞をもらったら帰るはずじゃあ...。いや、そうも言われていないか。俺としたことがここ数日の気のゆるみで思考がおろそかになっている。
ここまで来たら断ることも出ず、重い足を動かし謁見の間へ通された。そして、部屋の扉が開くと正面には国王が玉座に座り、その隣には期先と思われる女性と正装に着替えたアリアの姿があった。
アリアはこちらを見てニコリと微笑んでくれたがそんな余裕のない俺は緊張した表情で王の前に膝をついた。
「我は国王ダイアン・バッハ・ノイシュタイン。面を上げよ。此度はわが娘を魔物の手から救出してくれたこと大儀であった。」
「もったいないお言葉。ありがとう存じます。」
「ほお。娘から聞いていたが..。名を申せ。」
「アウル・アストリアと申します。」
「では、アウルよ。褒美として何を望む。我にできることならなんでもしよう。」
褒美。褒美かこれからのことを考えると金が必要になってくるな。せっかく王都に来たんだし村に戻る前に生活に必要なものを揃えていこう。
「それでしたら..。」
「お父様!」
アウルの言葉を遮りダイアン王の横に立っていたアリアが口を開いた。
「どうした?我が娘よ。」
「アウル様をこの国の騎士として迎えられないでしょうか!アウル様はとても武勇に秀でていますし、魔法も二属性も扱えます。これほどの逸材を逃す手はありません!」
ちょっと何言ってるんですか姫様!
「それは真か?」
「は、はい。ですが私のような平民ごときが騎士など恐れ多いです。」
「確かに惜しいが本人もこう言っていることだし、無理にというわけにもいかんだろ。」
すると、悲しそうにアウルを見つめるアリアに少しドキッとするが平常心を保とうとするアウル。
「でしたら姫様の『執事』にするのはどうですかな?」
アリアの後方に控えていた執事が突然とんでもない発言をし始めた。
「ほお、セバスよ。その心は?」
「はい。アウル殿は現在求職の身と聞き及びました。そして、お母上のことやこれまでの道中の立ち振る舞いや言動からして十分な基礎能力は備わっていると思われます。それに加え、戦闘面でも十分な力がございます。護衛を任せても十分な活躍をするでしょう。」
「それに私ももう年です。そろそろ後継者を探していたところなので丁度いいかと。」
「セバスめ。最後に本音を出しおったな。」
「ほっほっほ。何のことでしょう?とはいえ、最後の仕事(教育)はきっちりこなしますのでご安心を。」
「まったく。それでアウルよ。セバスはこう言っているがどうする?」
どうするじゃないだろ。けど、さすがにこれも断るとなると不敬あたる。気分を害されてしまう恐れもある。それに、あんな顔をされたらな。
セバスの提案に喜んでいたアリアだがトオルの悩む表情を見て悲しそうに少し涙を浮かべている。それが本当の涙かどうかは知らないがここまで求められたら元執事として断ることはできない。
「私ごときにはもったいないお誘い、ありがとう存じます。では、不肖の身ではありますが謹んでお受けいたします。」
暗い表情を浮かべていたアリアの表情はアウルの言葉でぱあーっと明るくなった。
「それではアウルよ。お前にこの国の永住権並びに身分証を発行し、我が娘の専属執事見習いとしての職を与える。」
その後、月日は流れ一月が過ぎた。
王城の一室に朝日が差し込み外では鳥のさえずりが響き渡る。そして、扉の向こうからノックする音が聞こえた。
「失礼します。おはようございます、お嬢様。」
眠たい目をこする重たい体を起こして顔を上げるとそこにはきれいな黒髪を後ろで結んだ執事姿の少年が立っていた。
「おはよう。アウル。今日から改めてよろしくね。」
「はい。これからお嬢様の専属執事として不肖のみではありますが精一杯務めさせていただきます。」
この日からアウル・アストリアは聖女の執事としての人生が始まった。
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