1話 追放執事
「アウル。あんたは今日でクビよ。」
その日主であるミルトディア帝国第2皇女ソフィア・エル・ミルトディアエから解雇された。
「姫様どうしてですか!?」
「当然でしょ?満足にお茶も出せない無能執事に用はないわ。」
持っていた紅茶のカップをアウルめがけて投げつけた。何の抵抗もせず暗い表情を見せるアウルを見て微笑むソフィア。
「しかし、先代様より仰せつかった命で...。」
「おじいさまがあなたになっていったか知らないけど、孤児のあんたが高貴な私のそばにいること自体おかしいのよ。今までそばに置いてあげたこと感謝しなさい?」
そう。俺はこの皇女の祖父、元皇帝に拾われたのだ。森に捨てられていた赤ん坊だった俺を自分の孫であるソフィアの専属執事として教育を受けた。
その元皇帝との約束は「ソフィアを立派な皇女にし、隣で支え続けろ。」だった。
命の恩人である元皇帝の約束を果たすためありとあらゆる教育を受け、ある時は皇女に害を及ぼすものを影で人に言えないこともしてきた。そして、皇帝が亡くなってからもこうして今日までソフィアを支え続けてきた。
「今のあたしにはあんたみたいな無能はいらないの。わかったらさっさと出て行ってくれる?」
そうか。たしかにこの国の国民からも愛されて公務まで任されるようになった姫様にはもう俺は必要ないのかもしれないな。
「わかりました。それでは今日をもってアウル・アストリアお暇を頂戴いたします。」
ソフィアの部屋を出た後、素早く身支度を済ませたアウルは城をあとにした。
「これからどうしようか。」
帝都中央通りにある広間の噴水の前で呆然と座り込むアウル。
今まで物心ついたころから姫様の執事として教育を受けてきたから自分のやりたいこともないし、これからの生活を考えると仕事も探さないとな。
「でも姫様の役に立てない俺がつける仕事なんてあるか?」
今後のことを考えていると風で飛ばされてきたい1枚のビラが足にしかっかった。それを取ってみると。
『入村者募集』
入村者募集のチラシ?村暮らしか。やりたいこともないし田舎で畑でも耕しながらのんびりと暮らすのもありだな。
チラシを片手に記載されていた馬車の乗り合い所に向かうと募集していた村行の馬車があった。その馬車にはすでに2人が乗っていたが老人だけだった。
「あの、このチラシに乗っている村行の馬車ってここですか?」
「んだ。あんちゃん入村希望者かい?」
「はい。仕事をクビになったので田舎でのんびり暮らそうかなと。」
「そうかい。あんちゃんみたいな若もんが来るなら村人たちも喜ぶで。」
その後、馬車の準備が進み村へと出発し始めた。城門をくぐり帝都を離れると思い出が込みあがってきた。
(先代様。姫様は立派な皇女になられました。隣で支え続けるという約束を守れませんでしたが。これからは俺がいなくてもきっと大丈夫です。)
今まで暮らしてきた帝都を離れるのは名残惜しいけど、これからは自分のために生きていこう。
決意とともに帝都を後にした。
帝都を後にして数日、目的地の村に向けて町や村で休憩を取りながら今も馬車に揺られていた。
「ご老人は元鍛冶師だったんですか?」
「そうだ!俺が打った武器はどれもすげんだ。20年前なんて皇帝に宝剣を献上したんだぜ。」
20年前の皇帝って先代様か。もしかしたら宝物庫にあったりするのかな?
「何が宝剣だい。あんたが送ったのなんて兵士が使う剣じゃないかい。」
「お、おい!それを言うな!」
おじいさんの隣に座っていたおばあさんがネタ晴らしをすると顔を赤く染めて慌てだすおじいさん。それを横目におばあさんはニコニコと笑いだす。
「それにしてもあんたそんなに若いのに村暮らしするなんてなんかあったのかい?」
「えっと。前に仕えていた主にクビにされちゃいまして。やりたいこともないし村でのんびり暮らそうかなと。」
「そうだったのかい。身なりが整っていて礼儀正しいしどこかのお屋敷の使用人とかだったんかい?」
「まあそんなとこです。」
「若いもんが何言ってんだ!男ならどんと大きな夢を持って働かんかい!」
おばあさんと会話していると横からおじいさんが大声で活を入れてきた。おばあさんはそんなおじいさんに説教している光景を見て苦笑いを浮かべた。
夢。夢か。たしかに俺には夢がない。与えられたことをただ黙々とこなす日々。姫様のわがままに振り回されて休む暇もなかったし。でも、あえていうなら先代様に拾ってもらった恩を返すために姫様を立派な王女にすることが夢だったかな。まあ、その本人にクビにされてしまったけど。
そして、さらに2日たったころ隣国との国境付近に差し掛かり行先の村まであと数時間というところで来ていた。
このまま、何事もなく無事に村に着くというところで帝都からずっと使っていた索敵魔法に何か引っかかった。
だれか襲われている!?
探索魔法には中央に青色の点(人)が7とそれを囲むように赤色の点(敵)が10個あった。そして、7つあった青い点が一つ消え、次々と青い点が小さくなってきている。
(まずい!)
「この先で誰かが魔物に襲われています!巻き込まれると大変なので迂回して進んでください!」
「魔物だって!?おい!あんちゃん何する気だ!?」
アウルの慌てた声と馬車から勢いよく飛び降りたことに驚いた御者のおじさんが声を上げる。
「俺は襲われている人たちを助けに行ってきます!後で追いつくので先に向かっていてください!」
『身体強化』
すると、アウルは疾風のように目的地へとかけていった。
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