第六話 雉が鳴くのは獲物を呼ぶため
「雉も泣かずば撃たれまい。馬鹿な男だ」
「撃てるもんなら撃ってみろ。死ぬのはお前だ!」
雉爪組幹部、本名不明。
名付けられたコードネームは
「flesh (フレッシュ)」肉のことを指す。
騒がねば撃たれることはないというのに、東京で暴れ、東京のヤクザに目を付けられ、めった撃ちにされた。そんな男を気に入って、雉爪組は一度肉塊になりかけた男に肉の名前をやった。今度は肉塊になるまで暴れてこい。そんな意味だろう。
純は刀を持ったまま無理矢理アサルトライフルを構えて乱射する。当たらない。当たらない。当たらない。全く当たらない……
フレッシュは素早い動きで間合いを詰めていく。純は相手の強さを確信した。
なんと銃弾に襲われているのに奴が投げナイフを投げてきたのだ。そんなことをする余裕があるとは。
純はナイフを避けて銃を捨てた。
奴は日本刀じゃないと倒せない。そんな気がした。
「銃の扱いもろくにできないのに刀なんて使いこなせるのかい?ヒーッヒッヒ……」
純は笑いながら間合いに入ってきたフレッシュの喉笛に、この前女を斬った時の素早い技を仕掛ける。居合は油断して間合いに入ってきた者に一番効く。一瞬で相手の命を奪う刹那の技だ!
しかし、フレッシュというこの男、笑ってはいたものの全く油断などしていない。首を後ろに倒して喉笛スレスレの所でうまく刀をかわした。
そして爪のような刃物が純の左肩に食い込んだ。この武器、斬るのではなく、肉をえぐる武器だ。ゆっくりと刃物が深く刺さっていき純に激痛が走る。フレッシュはニヤけている。しかし純は痛みを堪えて左手で奴の右手を強く掴んだ。離さない。
「!?」
「捕まえたぜ」
純はとっさに右手に持った刀を持ち直して思いっきりフレッシュの左脇腹に貫通するまで突き刺した! フレッシュは今までこんなにはやく反撃する者に会ったことがなかったので反応できなかった。フレッシュは純の手をふり払い、とっさに後ろに下がって距離をとる。
純の左肩に食い込んだ刃は首にも及んでいる。致命傷だ。フレッシュは左脇腹から右脇腹間にトンネルを開通させられた。もちろんこれも致命傷だ。
どちらも致命傷。だが引き下がれない。純は常備しているタオルを首に巻いた。応急処置としては十分と言えないが、やらないよりマシだ。フレッシュは両足を肩幅まで広げ踏ん張り出す。なんと傷口からの出血が止まったのだ!
「フッ……心臓に刺さなかったことを後悔しな!」
フレッシュは間合いをつめ攻撃を再開する。純も反応して攻撃を防ぐ。フレッシュの激しい攻撃に純は少しずつ押されて行く。純は攻撃を弾いて突きを仕掛ける。しかし、見切られてフレッシュの左手に受け流される。フレッシュは足で刀を踏み、押さえつけ、純の胸から腹までのあたりに数回攻撃を入れた。
純は続けて強力な突き攻撃を食らう。その勢いに押され、背中と壁が衝突。出血が激しい……刃物を抜き、フレッシュは少し離れる。純は膝を崩して壁に寄りかかった。
フレッシュは勝ちを確信して笑う。そして提案する。
「もう終わりかい……このまま殺すのもつまらねえ。最後にゲームをやろう。俺実はお前が好きだっていう拳銃持ってきたんだ。早撃ちだ。ナイフを上に投げて地面に落ちたら銃を抜け。それじゃあ始め!」
問答無用でいきなりナイフを投げた! 純は気を失いそうだがお構いなし。フレッシュはニヤけている。
カーン。ナイフが落ちた。
ドキュイーーーーーーン!
高い銃声の音が鳴った。
純が立ち上がり、彼が握るリボルバーの銃口から煙が昇る。撃たれたのはフレッシュだ!
「悪いな。早撃ちだけは譲れねえ。マカロニウェスタン何回観たと思ってるんだ?」
フレッシュは撃たれた腹部を抑える……そして初めて怯える目をして純を見た。ナイフが落ちたと気付いたら腹に穴が空いていたのだから恐怖でしかない……
「てめえ、その怪我でどうやって……」
純は立ち上がって銃口をフレッシュに向ける。そして何も答えずに残りの弾、全弾フレッシュに撃った。フレッシュは地面に背をつけた……
フレッシュの体から血が流れ落ち、床に血が広がっていく。終わった。そう思った……
そう思ったのもつかの間……フレッシュの血は突然止まり、フレッシュは勢いよく飛び上がり斬りかかってきた!
純はなんとか刀で攻撃を防ぐ。意識のほとんどない2人による激しい剣戟が始まった。フレッシュの刃物と日本刀が激しくぶつかり合う!
2人とも限界を超えている。純は冷静にフレッシュの攻撃の勢いが弱まるタイミングを見計らい、奴の攻撃を受け流し、奴の右腕を斬り落とした!
フレッシュはまだ攻撃をやめようとせずすぐに左手にナイフを握り、純の胸を刺す! 純は胸にナイフが刺さったまま、フレッシュを蹴り飛ばして奴の左手首も斬り落とした!
「うぐっまだだまだ………」
フレッシュは倒れた。切断面から血が噴き出る。もう止まらない。フレッシュはもがき続けるが、すぐに身動きとれなくなる。勝負は終わった。純は一息ついて胸に刺さったナイフを抜いた。
「聞きたいことが山程あったってのによお……フッ」
純は再び壁に寄りかかって呼吸を安定させようとする。なんとか頑張って勝ったんだ。
死ぬ訳にはいかない。立ち上がって傷口を塞ぎながら店の中を物色する。なんでもいいから応急処置のできる物は……
あった! 救急箱だ。バーでは何かしら喧嘩などが起きて怪我人が出るので、必要な消毒薬やガーゼ、包帯なんかもあった。
「今度こそ、うまいワインが飲みてえな」
「だけどよ。瓶をクソ野郎にぶつける感覚がたまらないんだなーーー」
「ヘッ……俺ってサドなのかな。加藤にもよく言われた。アイツにだけは言われたくねえがな。アイツも同じようなもんだし」
独り言をブツブツと呟いて自分の生存を確認した。手当を終え、店を出ようとしたその時、純は首に冷たい刃物の感触を感じた。
横を見ると口にナイフを咥えた血塗れのフレッシュがいた。
「お、おれもて、手当がししゃい。じょいてくれ」
ナイフを咥えながら喋る。
「しょうびゅはおみゃえの勝ちだ。だから……」
苛立ったのかナイフをペッと吐き出す。
「約束は守る。青烏団の本拠地教えてやる……だから手当てを……」
純は奴の生命力に驚きつつも頷き、手当てをさせてやった。それから目的地の場所も教えてもらった。
「いいのかい、喋っちまって?」
純は尋ねる。
「いいさ、お前は俺を倒したんだ。それに、青烏団の奴らは俺達をこき使い、自分達は危険な事をしねえ。少しは命を危険に晒してもらわねえと俺達と釣り合わないだろ?」
「そうか…感謝する。腕を斬っちまったが頑張れよ」
「フッ……これで二度殺されかけたんだ。またお前を襲いに行くだろう。油断はするんじゃねえよ。それに、俺が来るまで死ぬな……」
その言葉を聞いて純はバーを後にした。とりあえず怪我をすぐに治して機会を見て青烏団に突撃するだけだ!純に恐れなどない。
「ミン、すぐ助けに行くからな」
彼の心にあるのは大切な人を救うことのみ。
バーでは取り残された1人のの敗北者が壁に寄りかかって腰を下ろしていた。彼はクスクスと笑っていた。負けはしたものの、あれほど興奮したのは久しぶりだった。あんなに恐ろしい男はいない。男がたそがれる中、バーに1人、また別の男がやってきた。
「おい、今日は閉店だ……堅気は帰ってくれ」
フレッシュの忠告を無視して入ってきた男は話を始める。
「あなたがフレッシュを名乗る方ですよね?」
「そうだが……それがなんだってんだあ」
フレッシュは頷くもとても警戒していた。
殺される……
根拠などないが、こんなタイミングでやってくる奴はだいたい殺し屋だ。
「実は手紙と箱を持ってきましてね。郵便です。受け取ってください。あなた宛です」
男は手紙と箱を差し出す。しかしフレッシュには受け取る手がない。
「悪いが、読んでくれないか?」
「ええ! いいのですか!」
男は興奮している。普通の配達員とは様子が明らかに違う。
「なんか嬉しそうだな。この手紙はなんなんだ。それに、今時重要事項も携帯電話で伝えられるだろ? 何を隠している? その箱も怪しい!」
男は嬉しそうに笑いながら
「何しろこの手紙と箱は1885年、アメリカのウエスタンユニオンに出された届け物でして…136年後、2021 年、日本の東京銀座のとある高級バー。ここにいる両手のないフレッシュという男に届けろと言われましてね。しっかり住所も書いてありました。どう考えても悪戯としか思えないこの配達物をアメリカの郵便局は保管してましてね。100年以上の時を経て、アメリカからこのバーに渡って今ここにあるんです。我々からしたら不思議でしかない手紙と箱でして。真相が知れると思うとドキドキしてしまって。箱には何が入っているのか気になります!」
なんかそういう映画があったようなと思いながらフレッシュはニヤけて言った。
「ヒッヒー。なるほど。俺は事実両手はない。それにフレッシュと名乗っていてさらにこのバーにいる。間違いなく俺への物だな。面白い、まずは手紙を読め!」
その手紙は時を繋いだ!




