第五話 魔王の遊戯
「なるほど……あんな内容のクエストを達成した者がいるとは…面白い新人もいたものだ。ところで、その者について詳しく知りたい」
自分の出したほぼ不可能なクエストを達成した者がいるとの情報を聞き、耳を疑ったのは悪の組織ブラックマンバのリーダー、
「スネーククイーン」だ。
美しい紫色のロングヘアの美しい顔とは異なり、恐ろしい即死級の毒スキルを扱うため、彼女に一騎打ちを申し込む者はいない。みんな集団で彼女の首を狙い、死んでいった。
彼女の言葉に部下の男が答える。
「その男、名は加藤春樹というそうです。変わった身なりで肌は黄色いのだとか。レベルは……1!」
「ほう、レベル1か。レベル1の男にレベル100の猛者が平伏し、金を返したとは信じ難い。だが、この世界は魔王亡き後、大きく変わった。魔王を殺した男は魔力欲しさに新魔王となった。新魔王誕生という青天の霹靂……新魔王もこの男も突然現れた。何かが起こるぞ。興奮してきた! よいか! その男には報酬金は3倍の300万ドス。スキルポイントは20ポイント。ポイントは私のから引いておく」
部下は戸惑う。
「よいのですか? スキルポイントなど渡して? 金だけ渡せば十分なのでは?」
「その男、レベル1で私のクエストに手を出すとはこの世界を舐めておる。スキルも持たずにクエストを受け続ければいずれ死ぬだろう。死ぬにはもったいない男だ」
報酬は後日、加藤に渡されるだろう。加藤が後日生きていればの話だが。
日が沈むと宿屋に泊まりに来る客は増える。カオルはやってくる客に名簿を渡す。
「ここに、名前とチェックアウトの時間を……だいたいでいいからお願いね」
おそらく40を過ぎてるのかもしれないが、これほどかわいらしい笑顔を全ての客に振りまけるのはすごい。ある意味色っぽい。
「俺たちの仕事ってなくないですか?」
「そうね。ないわ。クエストでたんまり稼いでこればそれで十分。もしかしたら指名されるかもしれないけど、男の子はまずないかー。フフッ」
自分の存在価値を疑いつつも暇な時を過ごした。
ミャンは何やら本を読んでいる。帰り道のこともあり、話しづらい。でもこのまま気まずい状態が続いても悪いので加藤は話しかけてみる。
「今日は嫌なものばっか見せて悪かったな。最後は怒らせちまったし」
ミャンは口を開けたままこちらを見上げて返答する。
「いいんですよ。むしろミャンが取り乱してしまって。春樹くんを困らせて…気にしないで。今日の仕事、危険だったんだから」
気まずい。本当に気まずい。でもこれ以上話してもどうしようもない。派手な女としか遊んだことのない加藤は戸惑った。困った顔を見てミャンが笑顔で、
「怖い人の前で……堂々としてた春樹くんカッコよかったよ! イジメはよくないけど」
百点満点の笑顔に加藤は思わず照れてしまった!
加藤は自分を女性経験豊富な男と思っていたが純粋無垢な少女の笑顔を見て少年の頃の心を思い出した。加藤はニヤッと笑って、
「これから忙しくなるからなー。もう、泣くんじゃねえぞ。笑った顔かわいいじゃねえか」
「それは、春樹くん次第です!」
ミャンは顔を赤くしている。嬉しそうだ。ミャンは振り向いて部屋に戻っていった。後ろ姿もかわいいのは黒髪のポニーテールのせいだろうか。ミャンとの気まずい空気を修正した加藤はカオルに呼び出された。指名を受けたという。指名?
高い泡風呂の部屋を頼んだ客がいるという。しかも接待付きだ。
泡風呂接待は、まず客が泡風呂に入り、その部屋に指名されたスタッフが入る。泡風呂なのでもちろん男の陰部は見えない。スタッフが客の背中や手足を洗ってやる。それだけだ。
大事なところは自分で洗えという健全なサービスだ。いつもカオルがやっている人気なこの店の売りだ。大事な娘にはやらせていない。
それより、なぜ加藤が指名を? もしかしたらびっじょびじょの美女が指名してくれたのか?
期待した加藤だが風呂部屋に入った加藤が見たのは筋肉のついたおっさんだ。
まつ毛がながく、かなりハンサムだ。
「こんばんは。フフッいい男ね。私、ノンケもOKなんだけど。あなたはどう?」
「な、ここはそういうお店じゃございませんよ!」
「冷酷な男って聞いたけど意外とかわいいのね」
いくら加藤が冷酷だろうと戸惑うものは戸惑う。怖いものは怖い。でも、現実世界にいたオカマはみんないい奴だった。ノンケを喰うやつなんていない。
そう加藤は思い、目の前の男の手足を丁寧に洗ってやる。すると男がニヤけながら、
「まず自己紹介させて。私は魔王。正しく言えば異世界移動を可能にする魂を持った人間。最近魔力も手に入れて強なったの!」
不思議なテンションだ。加藤は戸惑いながらも人相を変えて怖い声で言う。
「お客さん、いくら冗談でも魔王だって言うのなら今すぐ風呂に顔、沈めますよ?」
「フッフッフ」
と笑って魔王は泡風呂から右手に握ったリボルバーを取り出して銃口を加藤に向ける。
普通は銃口とにらめっこするのに慣れた加藤は迷わず奴を風呂に沈めるとこだが魔王の目を見て躊躇った。
人殺しに慣れた目だ。
いつでも引き金を引ける。
「無理矢理でも話を聞いてもらうわ。あなた、裏クエストを見事にクリアしたそうじゃない! すごいじゃない! 本来ならあなたなんてすぐ殺した方がいいんだろうけど、そんなあっけなかったら楽しくないじゃない! 実際カオルちゃんの旦那だって子供産ませてから殺した方が感動的で美しかったわ!」
「テメェ……!」
加藤の堪忍袋は爆発しそうだった。
「少しでも手を動かしたら撃つわよ! そうだ! 楽しいことしましょう♪ 私が魔物を召喚するから闘ってよ! 負けたらカオルちゃんのこと今度こそ殺すわよ! いやっ、娘を殺した方が悲劇的で美しいかも!アハっ最高な私! 我ながら惚れてしまうわ!」
魔王は銃口を向けながら風呂を上がり、左手を動かしながら何かを呟くと体が一瞬で乾燥され、着替えも一瞬で完了した。
産業革命時のイギリス紳士のような格好だ。
シルクハットを深く被って、
「出てきて魔物ちゃん、そこの、爪の長いあなたでいいわ! 長い爪が魅力的だからネイルゴブリンでいいかしら!」
魔王は引き金をカチッと引く。
火薬が湿気っている。笑いながら魔王は消え、突然大柄な緑の怪物が現れた!
ネイルゴブリンと名付けられたそいつは2メートルほどの大きさで天井に頭がぶつかっている。
鋭くて長い爪を振りかぶり加藤に攻撃し始めた! 加藤は刀を抜いて、即座に対応する! 加藤は力強く速い攻撃に押されていく。そしてついには右手の突きを腹に食らってしまう! 加藤は口から血を吐く。これは勝ったなと魔物はニヤけた。
しかし、加藤も笑っていることに魔物は不審に思い、自分の手を確認する。
爪が綺麗に斬られている。
加藤はただ攻撃を防いでいたのではなく、しっかりと爪を少しずつ切っていたのだ!
日本刀の達人にしかできない芸当だ!
加藤は魔物の腹パンを食らったわけだが、なんとか耐えて苦しい顔をしながらも笑っている。
動揺した魔物は両手を一瞬で斬られた! 加藤はそのまま魔物の首を突き刺し、壁にぶつかるまで突きを続けた!
「グオオオオオッ」
と魔物は叫ぶ。
断末魔かと思ったがそれは違った。
魔物は大きく口を開けて衝撃波を放った! 加藤は刀を離して吹き飛ばされた! 衝撃波によって壁は破壊され、安眠屋の隣3軒ほどの建物も吹き飛ばされた!
加藤は瓦礫の中で倒れている。意識を保つのがやっとだ。そんな彼の元に首に日本刀の刺さった魔物がやってくる!
町の人々は怯えている。
魔物は加藤を踏みつけて苦しめる。加藤は抵抗してリボルバーで奴の右目を撃ち抜く! 魔物は悲鳴をあげた後、激怒して足を高く上げる!
その時、何者かが魔物の背中を突いた! すると魔物の右膝が破裂し、魔物は倒れて死んだ。
加藤は倒れる魔物の体を避けて、助けてくれた者の顔を見る。
「カ、カオルさん! つ、強いんですね!」
カオルはやってやったぜという顔をして加藤の顔を見て笑いながら、
「弱点特攻よ! 指定されたポイントを突けば相手の弱点を破壊できるのよ!」
「俺も欲しいです! 姉さん!」
加藤のテンションは上がっている!
できた怪我が嘘のようだ。
「10ポイントもいるスキルよ。ちょっとオススメしないかも……でも加藤さん、いや、加藤くんなら銃とスキルを組み合わせればとても強いかもね」
「ポイント?」
「スキルを獲得するのにいるの。魔物を倒したりするともらえるわよ。今回コイツを倒してもらったスキルは加藤くんにプレゼントするわ! 15ポイントだって! このモンスターかなり強いわね。それにしても、今の衝撃波で誰も死ななくてよかったわ。全く、魔物が入り込むなんて、騎士は何をやっているのかしら。魔物が壊した物はギルドが直すのよ! 魔物を侵入させたギルドが悪いんだから当然よ!」
ギルドは全く悪くないのだがと加藤は思いながらすぐ駆け寄ってきたミャンに肩を貨りてもらった。
ミャンは俺をベッドに乗せて、
「完全回復」
と唱えた。
数分後、
ミャンのおかげで何本か折れてたはずの骨も治った。ミャンは優しく笑ってくれる。
「ミャン、最高回復魔法使えるの! 凄いでしょ!」
「へっ泣き虫のクセにやるじゃねえか!」
加藤はなんだかミャンに惚れそうになっていた。
ミャンの方は加藤のこと大嫌いだろうがなと加藤は思った。
一部始終を終えた魔王は何かを唱え、壊れた建物を修復した。周りの人は驚いて拍手した。魔王は帽子を外し、聴衆に一礼して歩いて行った。
魔王は独り言をつぶやいた。
「まさかあんな頑丈なネイルゴブリンの肉体をあんな棒きれで貫いてしまうなんて。その割にはステータスも低いし、何か特別な才能がある訳でもない。全くあの男は謎でしかないわ。フッフッフ……神や魔王以上に面白い相手と出会えたかもね。ここは最盛期になるまで放っておくのが一番」
その頃現実世界ではあるバーで悲鳴と怒鳴り声がこだましていた。暴れていたのだ!
高道純が! 日本刀を持って青烏団相手に。
酒の入ったヤクザ達は純の相手にならない。次々と悲鳴をあげて斬られていく。銃を撃つヤクザもいたが簡単には当たらない……純もリボルバー………ではなく背中にかけていたアサルトライフルを取り出し乱射した!
最初からこうすればはやく片が付いたものを……
純は残った敵を日本刀で華麗に捌き、青烏団幹部の目に刀を向ける!
「青烏団、団長の居場所である本拠地の住所を教えろ! さもないと……」
「ヒック、ヒック。なんだね君は。騒がしいな。はや く酒をつがんか!」
純は幹部の右腕を刀で思いっきり叩いた!
峰打ちだ!
刃物でないとはいえ重い鉄の棒で殴られたら相当痛い! ギャア! と幹部は悲鳴をあげる。
「青烏団、団長の居場所である本拠地はどこだ! 次は峰打ちじゃ済まんぞ!」
幹部は怯えて、
「分かった。行ったところで殺されるだけだぞ」
「それを決めるのは俺だ。いいからはやく言え!」
「分かった分かった。じゃあまず」
殺気! 右からだ!
鋭い殺気を感じて純は刀で身を守る!
ナイフが大量に投げ込まれたのだ! 純の体は数カ所ナイフで刺されてしまった!隣を見ると幹部が死んでいた。
「口止め成功! ヤクザのくせして素人に怯えやがってヒッヒッヒッヒ。お久しぶりです。生きて会えるとはねえーアンタも頑丈なお人だ」
葬式の時出会った危険な目をした男がそこにいた。
初めて会った時に持っていた雉の爪のような武器を右手に持ち、左手には小型のナイフを数本持っている。投げナイフだろう。
「素人に怯えるような奴はヤクザじゃねえって言いたいんだな。お前はどうなんだ。サディスティックに目覚めた俺は怖いぞ。耐えられるかな」
「悪いが、そんな奴全員殺してきた。俺は生涯無敗、すぐ殺しちまうから拷問の経験はない。安心しろ。すぐに加藤の元に送ってやる!」
危険な2人の戦いが今始まる!




