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ヘルトリガーズ  作者: じゅんくん
Part1 異世界トラベラー
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第四話後半 異世界クエストの礼儀作法

 目が覚めたらそこは草原……

 まるでオープンワールドゲームのような、見たことのない世界の広大さに加藤は興奮した。


 しくじって殺されてしまったがまだ友を救うことができるのだ。アタッシュケースを片手に黒スーツを着たヤクザは歩いて歩いて歩いた。

 やっと最寄りの町にたどり着くものの、町の人々から嫌な目で見られ、飲まず食わずで歩き続けた結果倒れてしまう。また俺は死んでしまうのか?ここで死んだらやり直しはきくのか?

 せっかくの機会(チャンス)を……


 憂鬱(ヘビー)だ。目を開けたくない。大きく深呼吸をすると何者かに口に水を無理矢理飲まされた! んごっぼごうぇっと情けない声を出して目覚めた男を笑う女の声が聞こえた。


「おはよう。生きててよかった。その服、旦那が言ってた……んーー。サラリーマンってやつかしらね。それにしても変な格好ね。あ、ごめん。私カオル。この宿屋『安眠屋(リラックス)』をやってるの」


 なぜ異世界の人間がサラリーマンなどという言葉を知っているのか? 俺はどうしてここに? と加藤が聞くと、どうやら店の裏の路地で倒れてるのを見かけたらしく、身なりから旦那と同じ異世界から来た人間だと思い、拾ったのだと言う。

 旦那が異世界人?

 カオルは満面の笑みで話を続けた。


「ウチ、異世界出身の旦那が死んで、娘とバイトの娘3人で店をやってきたんだけどさー。バイトの娘が突然行方不明になっちゃってね。ウチ、いろんな町から来る冒険者やら騎士やらが泊まるから忙しかったのよ。アンタ、この世界で一度死んだようなものなんだから、ここで働いてもらうわ!」


 断ろうと思ったが、相手の勢いに押され、承諾してしまった。もう、どうにでもなれと加藤は思った。後日、ギルドに登録してない不審者は雇えないからと大きな建物に連れていかれた。


 言われるがままに登録をやらされた。職業は適当に冒険者を選ぶと、分厚い本とカードを渡された。

 本はポイントを使うと習得できる便利なスキルが書かれている。中には、相性が合わず使えないスキルもあるとか。

 カードにはレベル、ステータスなどが書かれていた。レベルは上がるとステータスが上がって強くなるそうだ。この世界でレベルが30を超える者は羨望の的だそう。ステータスは平凡……


(俺が平凡?)


 自分のステータスを見て暗い気持ちになった加藤の背中をさすり、励ます少女がいた。

 彼女はミャンといい、内気な性格だが加藤に優しく接してくれる。カオルは加藤より10歳以上は歳上で、ミャンと加藤はほぼ同い年だ。ミャンは突然背筋をピンと伸ばして、


「大丈夫ですよ。春樹くんは顔が怖いから。きっと魔物は逃げちゃいますよー」


 と言った。励ましているのか分からない。可愛い女の子だから許すが、高道純にこれを言われたら間違いなく斬っていただろう。

 カオルは笑いながらまた面倒なことを言い出す。


「せっかくだから2人でクエストを受注してきなさい。お仕事よー。加藤さん、あの娘内気で臆病だからその根性叩き直して欲しいの」


 この母親、娘をクエストに連れ出せば内気で臆病な性格が治ると思っているのか。かえってトラウマを植え付けられるだけだと加藤は思ったが、黙って言うことを聞いた。

 それより、宿屋の仕事はいいのか? と思いながら加藤は掲示板を見ていた。


 どれもこの世界の専門用語、モンスターの名前やらが書いてあって何が何だか分からん。しかも、報酬金の上に、契約金と書いてある。

 ミャンによると支給品のために金を用意しないといけないらしい。俺らが払うのかよ。と加藤は思い、悩んだ。ミャンは口をもごもごさせていたが、ようやく喋った。


「あの……お金はミャンが用意したから。春樹くんは、好きなのを選んで……私、どのクエストでも役立たずだから、春樹くんは好きなのを選んで」


 と、言われてもだな〜と悩む加藤の肩を怪しい老人が叩いた。


「ギルドが貼ったつまんねえクエストばっかで退屈じゃろー。ワシが各地から集めた裏クエストはいかがかな? ほとんど個人からの依頼で、契約金なんて存在しねえ。何しろ危険なんでね。ホッホッホ」


「なるほど、とりあえず見せてみろ」


 と言う加藤をミャンは止めるが、見るだけだと言って加藤はリストをながめて、


「ミャン、これにしよう」

 と選んだクエストを指差してミャンに見せた。


「借金の取り立て?」


「そうさ、昔よくやったんだ。金を返さねえやつから高額な利子と一緒に金を返してもらうんだ……」


「危険だよ。それに依頼主のブラックマンバって、とっても危険な悪の組織なんだよ。やめようよ」


「ミャンがそう言うなら」


 考え直そうとした加藤に老人が、


「おい、一度目をつけたってことは、運命に導かれたってことだ。ビビってんのかい? 運命に逆らうのは愚かじゃよ」


 こういうのを無視するのが賢い人間だが加藤は無視できなかった。


「ミャン、俺はいずれ魔王を倒すんだ。こんなクエストにビビってられるか」


 と言って、ミャンが戸惑ってる中、クエストを受注してしまった。


「頑張れよ。ワシは用事があるのでな。クエストが達成されたら別のやつが報酬を渡しに来るだろ。取り立ての際は、ブラックマンバの名前を使うといい。ただし、彼らの名前を汚すようなことだけはするんじゃねえぞ。ハイリスク、ハイリターンだ。しくじった時は死んでると思え」


 早速、加藤は腰に刀を差し、リボルバーの入ったガンホルダーを身につけ、第一の債務者がいるという酒場に向かった。どうやらドラゴン退治の長いクエストを終え、宴をやってるそうだ。

 クエストを成功させた後なのだからあっさり返してくれるだろうと思った加藤と不安と緊張で怯えているミャンの2人は、酒場に入った。


 騒がしい。ガタイの良い男達が加藤ら2人をにらみつける。気に入らない顔だ。加藤は近くにいた男の顔をいきなり酒の入った瓶で殴りつける!

 ガシャンと瓶の割れる音、男が床に倒れる音と共に酒場が静かになった。ミャンは泣きそうだ。


「これは失礼、俺はブラックマンバの者だ。ゲキという勇者様はどこかな?」


 加藤は慣れた口調で優しく言う。みんなすぐにでも飛びかかろうとしていたが、ブラックマンバと聞いておとなしくなる。ここらでは恐れられているようだ。


「ここだ! こっちに来い! 話を聞いた後俺の連れを殴った分の代償は払ってもらうぞ! 何の用だ?」


 加藤はゆっくりとゲキに近づく。ミャンは全く動けない。

 酒場の客の中に、無礼者に恥をかかせようと足をかけようとした者がいた。加藤は思いっ切りその男の足を踏みつけリボルバーを取り出し、そいつの足を撃った!


「ギャアアアアアア!」


 そいつは悲鳴をあげながら転げ回る。

 酒場の緊張は沸点に達した。

 加藤はゲキの目の前に立ち、目を合わせる。酒場の客達はゲキがなんとかしてくれるだろうと見守っている。加藤は借用書を広げて、


「ゲキ、あんたはドラゴン退治のクエスト受注の計画を立て、20人の男女を雇う金と彼らの装備、生活必需品などの購入のためにブラックマンバから金を借りた。あんたは2ヶ月で合計3体もの凶悪なドラゴンを討伐した。すごいじゃないか! 大成功だな! 俺は金を返してもらったらすぐに出ていく」


 と全く恐れることなく金を要求した。


 ゲキは笑いながら

「フッ……お前俺達がドラゴン3体も殺したのを知っててここに来たのか。本当に命知らずがいた者だな! お前レベルは何だ?」 


 加藤が1だと答えると酒場にいた者みんな笑い始めた。しばらく笑い声は止まず、ゲキが手を叩くまで続いた。ゲキはまるで子供が自分のテストの点数を自慢するかのような自信にあふれた顔で、


「俺はレベル84だ。この町にはレベル50を超える人間は指で数えるくらいしかいねえ。俺はドラゴン倒して、町の英雄(ヒーロー)になったんだ。お前ら悪の組織に払う金なんてねえ。何なら、今からでもブラックマンバを潰しに行ってもいい。レベル84の俺とここにいる猛者達ならそれが可能だ!てめえみたいな雑魚、それになんだその格好?変な服に黄色い肌、痩せ細っているし、どう見てもカスだなヘッヘッヘッ。まずはその黄色い肌をどうにかしてからだ。まずは」


 ゲキの話を遮って加藤が、



「御免!」


 

 取り立ては失敗した。


 債務者の首が飛んでしまっては回収することはできない。生意気にも黄色人種を馬鹿にした男はレベル1の加藤に首をハネられてしまった! ゲキを殺した後の加藤は冷静でそのまま堂々とミャンを連れて店を出た。ゲキの仲間は動揺していた。

 そして3人ほどの男達が店から出て来て、


「待ちやがれ!」


 加藤は何も言わずに振り返って、


 ジュバ! ジュバ! ジュバーン!


 加藤は躊躇なく3人を射殺した。


「ヒィーー」


 ミャンは怖くなって手で目を抑えている。



 最初の取り立ては失敗したが加藤の悪名はすぐに広まり、他の取り立ては順調に進んだ。それでも生意気な態度を取る者がいた。そいつは腕を組んで笑いながら加藤とミャンを家に入れた。


「さあさあ座って座って。暖かい紅茶がございますよ」


 ミャンは座ったが、加藤は座らずに紅茶を手に取って匂いを嗅ぐ。そしてズルズルっと飲む。


「どうだい? 美味しいだろ?」


 加藤は途中まで飲んで紅茶をテーブルに置く。


「菓子も出しますよ」


「菓子? ダメだ。俺達は待っているんだ」


「何を?」


「金だ」


「金? フフフッ。私はみんなの英雄。レベル100です。悪に屈したことはないんですよ。あなたも金を稼ぎたいのであれば私の元で働けばいいのですよ。私は優しいので待遇もいいです」


 加藤は黙って紅茶を全部飲んだ。そしてカップを男に渡して、


「おかわりだ」


「ハッハー。いいでしょう。みんなこの紅茶の虜になってる間、私の虜になってることに気付かないんですよ。なんてね」


 加藤は黙ってキッチンまで男についていく。それなりに広いキッチンで紅茶道具がずらり。


「あ、あの、テーブルで待っていればいいのでは?」


 加藤は男の目を見る。そして沸騰したお湯の入ったやかんを手に取る。


「あの、私がやるんで。テーブルに」


 加藤は一呼吸おいて、


「テーブルに金があったらな」


 と言って沸騰したお湯を男にぶっかける。そしてすかさず腹に蹴りを入れる。


「グハァ! な、なにを!」


「レベル100って言ってたな。あれはハッタリか? 楽しませてくれよ!」


 加藤は男に馬乗りになって顔をこれでもかとぶん殴る。ミャンは怯えている。


 男が何か唱えた! すると加藤はみえない力に吹き飛ばされた! スキルか? 魔法か?

 男は立ち上がって包丁を取った。加藤はすぐに起き上がって日本刀を抜く。


 そして一瞬!


 長い日本刀に包丁は何もできずはねのけられ、男は首に刀をあてられる。男はこの一瞬、何もできなかった。


「なっなに!? はやすぎる」


 加藤は笑って


「お兄さん、これが踏み込みだぜ。次何か呪文でも言ってみろ。舌抜くぜ!」


「アノサラ………」


 男が口を開け、何かを言おうとしたので加藤は右手で刀を持ちつつ、左手でやかんを持ち上げ、沸騰する湯を男の口に注いだ!


「うっ! おごぇあ! おぇあ!!!」


 男は体を崩してもがき苦しむ。加藤はすぐに包丁を取り上げ、倒れる男の顔を蹴る。男は後頭部を壁にぶつけ、その衝撃で気絶した!


 男が目覚めた時、自分が縄で椅子に結び付けられていることに気づき、男はすぐに泣き出して金を返すと叫んだ! 加藤は金を回収し、確認しながら、


「レベル100っていうが実力は自称レベル100だな。今まで甘やかされて来たからこんだけ腐ってんだ。第1、人から借りた金を返さないじてんでクズだ! しかもこんないい家持って。いい紅茶飲んで」


 男はただ泣くだけ。加藤とミャンは縄をほどかずに出て行ってしまった。



 全ての取り立てを終えた加藤は帰り道、心配そうな顔をして泣きそうになっているミャンに声をかける。


「大丈夫か? トラウマになったんじゃないかって心配してたんだ」


 ミャンは加藤の顔を見て、


「怖くないんですか? あんな大勢の人達にいつ殺されるか分からない中で……」


「覚悟だよ。いつ死んでもいいように覚悟を持っておけばなんだってできる。死ぬ覚悟を持った奴を笑う奴は必ず死ぬ。俺はそう思う」


「私……怖い。ピンクちゃんみたいに春樹くんが突然いなくなるんじゃないかって」


 ピンクちゃんとは行方不明になったバイトの娘のあだ名だ。


「魔法の言葉を教えてやろう」


「えっ」


「もし敵に囲まれ恐怖のどん底に落ちた時、敵の顔を見てこう言うんだ。私のプリケツにキスしやがれクソ野郎! こう言って相手の顔面を殴ってやれ。スカッとしてなんだってできるようになる……」


 悪気はないのだろうがこれが話題のジャパニーズセクハラ? ミャンはうつむいている。なんだか少し怒っている気もする。彼女は突然顔を上げて加藤に向かって何かが爆発したかのように言い出した!



「もう! あなた最低ですね! いきなり何を言い出すことかと思えば何が魔法の言葉ですか! どうして平気な顔して人をいじめられるのですか? 本当に怖いです! パパと同じ異世界から来た人だっていうから優しい人だと思ってたの! こんなに悪い人だったなんて!」


 本当に気まずい沈黙が続く。

 これは完全に嫌われてしまったな……全く。まあどうでもいい。異世界で女を作る気は最初からないし、とりあえず謝っておこうと加藤は悪かったなと言った。するとミャンは元の優しい顔に戻るもすぐ青ざめて、


「あっあっごめんなさい……ミャンはなんてこと言ってしまったの!」


「おっおい!」


 ミャンは泣きながら走って帰ってしまった。加藤はどうにかしないとカオルに追い出されてしまうと考えながらゆっくりと嫌々宿屋に戻った。加藤春樹はこれからあの泣き虫と魔王討伐までやっていかなければならないのかと思うと不安でいっぱいになった。


 加藤が宿屋に入った時、加藤を尾行してた男が宿屋を見ながら独り言を言った。


「ここが新たな転生者の寝床ねー。それにしても不幸だわ。また私に転生者のお友達を殺されるなんて、カオルちゃんは本当ついてない……とりあえずどんな男なのか見てみないと。殺すかはその時決めるとして、いい男だといいんだけど」


 魔王が宿屋に入った! いらっしゃい、お疲れ様。とカオルは元気のいい声を出す。


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