第四話前半 葬式
純はやけにはやく目が覚めた。
ホテルではこの前の襲撃の反省から日本刀を常に手の届く位置に置いている。
嫌な予感は的中し、部屋の中にはまるで異世界から来たかのような変なコスプレみたいのをした女がいた。全身ピンクで白の模様が可愛らしくデザインされた服で、フードには動物の耳のような物も付いている。女の顔は色白でかわいらしい。
目は左が黄色、右が緑色と色が異なる。純は目の前にいる謎の女を警戒して上半身を起こして刀を抜く。
女はキャハハハと笑いながら襲いかかってきた! 女が手を振ると強力な斬撃が放たれた。しかも速い。連続攻撃だ。
純は上手く防ぎながらなんとか立ち上がり、横に回避し、広いスペースのある場所まで移動した。女の猛攻は止まらない。日本刀の達人でもこれを全てさばくのには苦戦し、純は2、3箇所切り傷を負う。
純は大きく一歩下がって距離をとり、右手でリボルバーを取り出して撃ったが簡単に避けられてしまう。
「ヘルメットヤクザといい、この女といい、変わったやつとの相手は本当に面倒だぜ。」
と文句を言いながら女の攻撃を防ぎ続けている。
反撃の機会はまだなのか? 次の瞬間純は反撃どころか重い一撃を脇腹に食らってしまって吹き飛ばされ、背中を壁に激突させた。壁がヒビ割れる。脇腹には深い切り傷が出来ており、血が流れている。
女がゆっくりと近づいてくる。殺される……純は最後の手段を取った。刀を鞘にしまい、手をかける。膝を曲げて右足を前に、左足を後ろに深く沈める。
居合の姿勢だ! 女は全く警戒することもなく近づく。純は痛みと恐怖を堪え、深呼吸して平常心を保つ。
女は純の間合いに入った瞬間、攻撃を繰り出そうとしたが、純の素早い居合に反応できず、喉笛を斬られてしまった!
ギャアアアア!
女は冷静さを欠き、驚いた顔で涙を流しながら必死に首を抑えるが、もう間に合わない。立っているのも苦しくなり体勢を崩し、そのまま死んだ。
全く、今日は親友の大事な葬式があるってのに、純の1日は朝っぱらから忙しく、憂鬱だ。
葬式開場は東京でやるそうで、向こうまでの道は刺客が来ることはなく、会場には何事もなく到着できた。純は警戒しながらも駐車場で煙草を吸った。
久しぶりの煙は非常にうまい。本当はワインも飲みたい所だがワインは林くんにプレゼントしてしまったので飲むことはできない。
会場に向かう前、しばらく仕事はできないだろうと思い、勤務先の塾に電話し、塾長にしばらく休むと伝えた。塾長には、夏期講習までには戻ってこいと言われたが、おそらくもう戻ってくることはないだろう。
会場はもちろん黒いスーツのヤクザだらけで、全員が自分を狙ってるのではないかと疑いながら純は会場に入った。純が会場に入った時、少しざわついたが純は気にせず席に着いた。
純が気になったのはざわつくヤクザではなく、ずっとこっちを見ながらニヤけているどう見ても危ない男だ。奴は、何か変わった形の刃物を布で磨きながら純を見ている。
刃物は鉤爪のような形をした刃が何本もついている。まるで鳥の爪、いや、雉の爪のような武器だ。
純は流石に武器を持って入場してはまずいと思っていたので日本刀、銃を収納したガンホルダー等の武器は鞄の奥にしまっている。周りを見て武器を持っているのはその危なそうな目をした男くらいだ。
組の幹部の葬式で堂々と武器を持っているということは、雉爪組の中でもかなりの権力者なのだろうか。
そいつに警戒しつつ、純は何事もなく親友の葬式を終えた。親友の死を悲しむ気持ちよりもいつ殺されてもおかしくないという恐怖の方が大きかった。さっさと帰ってしまおうと思った時、後藤に話しかけられた。
彼は、加藤の次によく知っている雉爪組の組員だ。
「兄貴の死の謎についてとあなたを今後どう守るかなど、話したいことがたくさんあります。上の方に聞かれてはまずいので」
と言って純を一目のつかないところへ連れて行った。外に出て砂利道を歩く途中、純はちょっといいかと後藤を呼び止め、両手で後藤の顔をがしっと掴み、勢いよく顔面に膝蹴りを3発食らわせた!
後藤の鼻は折れ、血が出ている。
「吠えろ……」
純はそれだけを静かに言って後藤を突き飛ばす。
「しくじった! しくじった!」
と後藤は大声で必死に叫ぶ。向こうで待ち伏せしてた男2人が自動小銃を持って向かってきた。相手はマシンガンさえあればと慢心していたが、問題はどちらが速いかだ。
会場を出た後、ガンホルダーを腰に付け、刀を腰に差している純は、いつでも得意の早撃ちができると思い、射程距離まで引きつけ、あっけなく男2人を射殺した。
するとすぐに銃声を聞いてきたのか4人の男が現れた。黒スーツを着て、腰には立派な日本刀を差している。
「拳銃はしまって刀で勝負や!」
と彼らは怒鳴り、それを聞いて頷いた純は、一瞬で4人に囲まれてしまう。純も刀を抜き、構える。
その瞬間4人が一斉に斬りかかる。しかし純は身体を低くすることで全ての攻撃をかわして1人の片足を切り落とし、そのままの勢いで胸を突き刺す!
突き刺した刀を抜き、包囲網から抜けた純は上段の構えをとる! 上段の構えは、刀を振りかぶったような体勢を維持した攻撃のための構え。一見強そうだが、腹はガラ空きだ。
純は構えたまま近づく最寄りの男の構えを上段からの一撃で崩し、無防備な首を突き刺す。
残りの2人の男は冷静で、1人は防御の構え、もう1人は中段の構えを維持し、純の喉を狙って鋭い突きを繰り出す。純は右斜め前に大きく移動し、突きを避け、そのまま相手の背中を斬る。
もう1人がカバーに入り、純は攻撃する。刀と刀の激しい音が鳴る。純は自分の攻撃を防がれてもなお、連続攻撃を繰り出し続けたが全て防がれてしまった。
しかし、上段からの攻撃は重く、相手は体幹を大きく崩した。純の一撃が決まり、相手は倒れた。
刀に付いた血を拭い、鞘に収める。後藤を見つめた純は、これから彼を始末するのかと思いきや、背中を向け、何も話さず帰っていった。
その背中を見ていた後藤が選べる選択肢は2つ。
1つはこのまま何もせず自分の生存を喜ぶこと。
2つは背中を見せた獲物に一撃入れること。
後藤に後者を選ぶ度胸などなく、前者を選びホッと息をついた。
親友の葬式を済ませ、帰る場所のない男は車に乗って煙草を吸いながら決心した。このまま暗殺者に怯え、ホテル暮らしを続けてもジリ貧だ。帰る場所も仕事もないが、殺す相手は決まっている。したがって、これから向かうべき場所は一つしかない。




