第三話 異世界転生と世界の崩壊
古くから死は人の隣人。されど人は死を知らない。
純が加藤の死を知ったのは後藤からの電話でだ。後藤は加藤の弟分みたいな者で、いつも本当の兄弟のように一緒にいた。純は後藤と何度か一緒に飲んだことがあるので昔からの知り合いだ。
後藤によると加藤は後頭部から拳銃で一発で、葬儀は明日だそうだ。裏社会では楽な死に方だが、タイミングが悪い。それに、純は1番の親友を失った怒りで我を忘れかけていた。
純がグラスを叩き割ろうとしたその時、外で男の苦しむ声が聞こえた。
見張りがやられた? 襲撃か?
玄関を警戒してると後ろの窓から飛び込んできた刺客に羽交い締めにされた。相手は急いでナイフで喉元をかっ切ろうとする。
純は急いで連続で頭を何度も相手の顔面にぶつけ、怯んだところを馬鹿力で羽交い締めから抜け出す。そしてすかさずリボルバーを取り出し、2発相手の腹に鉛玉をぶち込んだ。
高道純に遠慮などない。
玄関から入った男らを早撃ちで仕留める。強力なリボルバーだが装弾数はたったの6発だ。したがって、リロード時を狙ってナイフ使いが襲ってきた!
とっさにテーブルにあったグラスを手に持ち、そのまま相手の顔面を殴った! 相手の顔に破片が飛び散り、純の拳で押し込まれる。ナイフに恐れず、割れたガラスの破片による切り傷なども気にせず躊躇なく純は殴り続けた。
相手の顔面と純の手の甲は血塗れだ。
「はっはっはっはぁー」
呼吸が乱れる。後ろから2人また来る、リロードがまだできてない。
「丸腰だ! 切り刻んでやれ!」
2人はナイフを構えて近づいてくる。純は振り返ってナイフ使いの1人を撃った! まだ一発残っていたのだ。純はリボルバーを構えたまま不適な笑みを浮かべながらもう1人に歩み寄る。
「賭けるか? もう一発入ってるか?」
ナイフ使いは、
「い、いえ〜っひっ」
と怯えながらナイフを床に落とし、両手を上げる。恐怖と殺意が混じり合う狂気の雰囲気の中、純はジロジロ相手の顔を見て怒鳴った。
「てめえ顔知ってるぞ。加藤と飲みに行った時一緒にいたよな? お前らひょっとして青烏団じゃなくて雉爪組か? 加藤を殺したのはお前らなのか? 裏切り者!」
ナイフ使いは必死に否定した。ずっとおどおどして怯えている……純は加藤が裏切られたのではないかと疑った。純は相手を思いっきりぶん殴って、
「てめえ名前はなんだ?」
と簡単な質問をした。相手が答えないので純はガラスの散らばった床に投げ飛ばして蹴りを入れた。
相手は苦しみながら林と言った。
「林くん、お前どこの組の人? 正直に言えば何もしねえよ」
今日の純は何かが外れてるサドだ。
「雉……」
なるほど。林は雉爪組の組員。つまり裏切り者。
純はうずくまる佐藤の頭を優しく撫でて、部屋のソファまで運んでやった。林は何やらボソボソ言っている。
「感謝ならいらねえよ。お前は正直に答えた。裏切り者だと認めてくれた。感謝するのはむしろこっちの方だ」
純は気分が良くなったのか、新しいグラスとワインを取り出した。林は深呼吸して、体についたガラスの破片を払い、なんとか立ち上がった。
純は満面の笑みで林の右肩に左手をのせて、
「お前帰れるんだぞ。笑えよ」
そう言って顔を鬼のように豹変させ、右手に持ってたワインの入った瓶を林の顔に強く叩きつけた! 瓶の割れる音と男の悲鳴が同時に鳴り、純はそのハーモニーで気分を和らげた。林はソファでうずくまって唸っている。
林の顔は赤い液体で真っ赤になっており、その液体が血なのかワインなのかさっぱり見分けがつかなかった。
こうして純は刺客を撃退し、ついでに加藤が裏切られたことを知った。純はシャワーを浴び、家を後にして、襲撃者の所持していた金で今晩はホテルに泊まった。
そういえば死んだ加藤春樹はと言うと、目覚めてしばらくしても自分が死んだことに気づかず、死者を担当する女神とやらは、説明に多くの時間を要した。
不意をつかれ、自らの死にも気付けないのは余りにも虚しい。
ところで、加藤がまず驚いたのが自分のいる場所が洋室っぽい内装にベッドや机、椅子、最低限の物しか置かれてないホテルを拡張したようなただ広い空間だということだ。死と言われたが今まで加藤が想像してきた物とは大きく異なっていた。
そして、目の前の女神もイメージとは大きく違う。
神秘的な雰囲気はなく、美人だが裸マネキンのような白いだけの服を着ている。
ただただ広いこの空間で女神は笑うこともなくただ機械的に加藤に死んだことを説明した。加藤は自分が死んだことをようやく自覚し、なんとも言えない感覚に浸った。最後に乗ってた車には信頼できる奴しか乗せてない……なら、爆弾でも仕掛けられていたのか?
加藤は死んで初めて言葉を発した。
「女神様、アイツらは、後藤達は生きてますか? 無事なんですか? ここにいないってことはアイツら無事なんですよね?」
女神は無表情で答える。
「みなさん無事ですよ。あなたは……死因は今聞かない方がいいですよね……」
「教えてくださいよ! あんな道で生きた以上、どんな死に方でも恥ずかしくはありません」
死因を聞いて加藤は固まった。あの車の中の人間が全員共犯だと? 兄弟のように接していた彼らが裏切り者だなんて。女神は心を読んだかのように、
「全員じゃありません。1人……あなたが死んだ後、あの車の中のメンバーに逆らって、なんとか生き延びて今も生きている人がいますよ……たった一人で、でももうじき駄目でしょう……」
「後藤、まさかあいつ……なあ女神さん……」
加藤の話を遮って女神が、
「本題からずれてしまいました。前の世界のことなんて今はどうでもいいんです。あなたには異世界に行ってもらいますから」
突然話を変えられて加藤は怒る。
「はあ? いくらなんでも舐めんじゃねえぞ! 女神なら大人しく地獄にぶち込め!」
「これは神々の選びしこと。それに、お友達の石井ミンさん、彼女を助けたいなら異世界へ行くべき……」
「言ってることが分からない! 可能な限りでまとめて説明してくれ!」
「長くなりますが。よろしいでしょうか?」
女神はふうっと一呼吸おいて話し始めた。
「言語で伝えるには限界がありますが、分かりやすくまとめてお伝えしましょう。まず、この世には魂があります。魂は、時に虫、魚、人、神、になり得る命そのもの。その力は凄まじく、人間の科学力がどれほど発展しようと理解するのは困難でしょう。魂が無数にあるのと同じで世界という魂が生きる大地もまた無数にあります」
加藤はうなずきながらなんとなく黙って聞いている。
「世界は一つ一つが果てしなく広く、膨大な情報量も持つため、例え神々でも異世界へ移動するには特別な力を必要とするため、かなり困難です。そんな異世界への移動を魂は死を介して異世界転生という形で可能にします。そしてここ最近、と言ってもあなた方の星が誕生する前の話ですが……この魂と異世界の関係を破壊する存在が誕生しました。なんとその魂は、死を介さずに異世界移動を簡単にこなす恐ろしい存在です」
「おい、自由に移動するだけの物がそんなに恐ろしいのかい? それと、ミンちゃんと関係あるのか?」
「大いにあります。神々も最初はその魂を恐れていませんでした。生きた状態で好きなように住む世界を変える姿を気に入らない神もいましたが、害がなかったのでほとんど放置されていました。ところが事件が起きました。なんとその魂は、異世界自由移動の能力を駆使し、神々の世界に足を踏み入れました。そして、様々な世界で身につけた技能を使って神を殺したんです。神だって魂があるのでいつかは死んで転生すると言われてたのですが、殺されるなんてことはとても」
「神が死んだらどうなるんだ?」
「その神が統括する世界が全て崩壊しました。つまり、その世界にある魂全てが放出される。つまり世界の全ての生き物が死ぬ」
女神は人間との接触が少ないせいなのか言葉を話すのに慣れていない。急にですます調から語尾が変化した。
「そんなことしてまで神を殺して何をしたかったんだ?」
「奴は神の力を自分の物にしようとした。そうすれば全世界を掌握できると考えた。しかし、予測のできない魂の放出、世界の崩壊が続き、神の魂はそのまま異世界転生を果たした。神が転生したのは、あなたのお友達の石井ミンさんです。彼女は自覚していませんが、石井ミンは神の生まれ変わり」
「つまり、ミンちゃんを奪ったのはあの自由に移動する化け物ってことか。でも神に倒せない化け物をこんな俺が倒せるんですかい?」
「倒せます。神が殺された時、奴の魂……奴じゃ面倒なので『トラベラー』と呼びましょう。トラベラーは、世界破壊のエネルギーでダメージを受けた」
「世界破壊のエネルギーってビッグバンくらい?」
「ビッグバン程度じゃ話になりません。それに、いくつもの世界が連続して崩壊したのでこれを超える物の登場は今のところありません」
「なら、ファイナルフラッシュは?」
「???」女神は初めて混乱した。
「トラベラーは受けたダメージにより、分裂をした。魂は莫大なエネルギーを抱えているため消滅はせず、分裂したトラベラーの魂は様々な世界に散らばり、転生して、生まれて死んでを繰り返し、たまに異世界移動も行なった。かつてはバラバラになっていた魂も石井ミンの元に集まってきている。トラベラーは自分の分身を全て集め、復活を果たし、神の魂を吸収するのが狙い。そうなればもはや何が起こるか予測不能! 全世界崩壊だってありえます」
女神はこれが最後だと言って話し始めた。
「あなたには転生して、異世界でスキルを身につけ、トラベラー殺害と石井ミン救出を頼みたい。最悪でもトラベラー殺害は確実にやって欲しい。報酬は元の世界へあなたを帰すことです。向こうの世界で彼は魔王を名乗っている。死んで体を失った魂はしばらく自我がないのでそこを我々神が処理します」
「いいか、なぜ神じゃなくて平凡なヤクザを送り込むんだ?それと他の死者は?」
「神や最強装備を身に付けた者があの世界に現れたからには、奴はすぐにでも異世界移動して逃げてしまいます。先程言った通り、異世界への移動は神ですら特別な力を必要とする。あなたを元の世界に戻すのにもものすごい神々の苦労が必要とされる。異世界トラベルされたらお手上げなのです。それと他の死者、言うなら一般の魂は生と死を繰り返し、その過程で体と記憶を失うので姿形が変わってどこかで転生してるかもしれませんが気にする必要はありません」
「なるほど。そうと決まったらはやく送り込んでくれ。ミンちゃんが心配だ」
「前回のこともありますし、下手に殺さないとは思いますが、それと、手ぶらじゃなんですから何か一つ好きな物を神々から送ります。一つくらいならトラベラーも警戒しないでしょう。最強の刀。最強の魔法の杖。一生かかっても使えないほどの額の金、なんでも言ってください」
加藤は数秒間を開けて答えた。
「日本刀、自刃用の短刀、俺がずっと愛用していたリボルバー、アサルトライフル、弾もたんまりな。これを入れたアタッシュケースを俺にくれ」
「持ってっていいのは一つよ」
「ちゃんと話を聞いたのか姉ちゃん。アタッシュケースは一箱や!」
「……」
女神は何言ってるんだコイツと思ってポカンとなったが渋々うなずいて、
「では良い異世界生活を! 間違ってもハーレムを作って余生を過ごしたりはしないように! これは神々から与えられた任務なのですから……」
異世界生活に多少の期待を抱いた加藤は任務であることを気付き苦笑いして異世界召喚の魔法陣に乗った。
「全く死ぬもんじゃねえぜ。待ってろミッチー、ミン、後藤。さっさと終わらせてくるからよ!」
こうして加藤春樹の新しい生活が始まろうとする中、元の世界では加藤春樹の葬式が開かれた。
まるわかりショート解説
トラベラー=異世界を自由に移動できます。
石井ミン=高道純の彼女。そして神の生まれ変わり
加藤春樹が頼まれたのはトラベラー殺害と石井ミンの救出。達成すれば生き返れます。




