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ヘルトリガーズ  作者: じゅんくん
Part1 異世界トラベラー
34/36

最終回 黄金のエクスタシー

 ミャンは痛みを堪えながら猛攻撃を防ぎ続ける。


「キエヤーーーーー!」


 突然ブレインマンが奇声を上げ、自爆した! それを見ていたアプリコットは爆煙によってミャンが見えなくなって叫ぶ。


「ミャーーーーーン!」


 ミャンは爆発をまともに食らって吹き飛ばされる。身体中に切り傷、火傷、それでも立たねばならない。


「ミャ……ミャンは負けない!」


 煙からブレインマンが現れる。


「もう首を差し出しなよ。僕も限界なんだ。何もしたくないってのに。君達の存在が悪いんだ」


「あなた、その黒い刀に支配されてる。もはやまともな思考もできなくなっている……首を差し出すのはあなたよ」


「お前がいけないんだああああああああああ!」


 ブレインマンは狂ったように刀を振り斬撃を繰り出す。その速さと数は異常だったが粗かった。ミャンは斬撃をかいくぐって攻撃を仕掛ける。

 ガン! とブレインマンが刀を地面に刺す。すると無数の黒い斬撃が刀を振っていないにも関わらず一斉に飛んで来た。ミャンは受けきれず血を流して膝をつく。膝をつくミャンにブレインマンはショットガンくらい強力な蹴りをミャンの胸に放つ! 衝撃でミャンの心臓が激しく揺さぶられる。ミャンは胸を抑えながら大量の血を吐いて倒れた。アプリコットは辛い表情を見せる。

 ブレインマンは集会所に行って皆殺しにしようと考えた。でも足が動かない。女が足にしがみついている。女は笑っている。


「行かせない……ミャン。絶対離さない」


 足に強く力を入れるがミャンは離さない。パキッという音がした。ミャンの握力がブレインマンの足を折ったのだ。ブレインマンは無表情で足を見つめる。


「無駄だ。すぐ治る。僕は最強だから。最強の黒い日本刀を持っているから。君はゴミだ。汚い女だ。いらない。消さなきゃ。兄と一緒だ。いらない」


 ブレインマンの左手から黒い物体が飛び出す。そいつはミャンの左腕に潜り込む。


「離さなきゃ左腕を壊すよ」


「離さない」


 アプリコットは止めたいが大声が出ない。


「離せミャン……やめるんだ」


 パァン! ミャンの左腕の筋肉が破裂する。ミャンはあまりの激痛に音を上げる。


「うぐああ! ああああっ……うっううう」


 ミャンの力が抜けブレインマンは歩き出す。


「君には出血死がお似合いだ」


「待って……やめて……ああ。」


 ミャンは激痛で意識を朦朧とさせ涙を流す。


「変な物まで見える。春樹くんが……馬に乗って……迎えに来た。なんてね」



 妄想などではなかった。

 加藤春樹が異世界に帰って来た!


「全く……何をやってたんだかあの男は」


「春樹くん!」


「次は誰だ! 許せねえ! どうせ死ぬくせに」


 加藤は顔を上げて帽子で隠れていた顔を見せる。怒りもせず冷静な、でもどこか暗い顔だ。

 傷だらけのミャン。腕を失ったアプリコット。集会所にはジョンの死体。戦場にはハナ、マムシ、将軍、一緒に酒を飲んでいた連中に少年兵、騎士、数え切れない死体の山。加藤は全てを見て来た。


 馬上で嫌いだった煙草を吸い始める。煙を吐きながら辺りを見渡し馬を撫でる。親指を立てて後ろに倒す。ついて来いという意味のハンドサインだ。

 加藤は馬を歩かせ背中を見せる。アプリコットは疑問に思って、


「何のつもりだ? 奴が従うとでも?」


 アプリコットの考えとは異なりブレインマンは加藤を追いかけゆっくりと歩き出した。背中を見せる加藤に斬りかかろうとはしない。ボソボソ何か言いながら頭を掻きむしる。


「アイツ、普通の人間のくせに。どうせ相手にならないんだ。黒の日本刀には勝てない。絶対に」


 ミャンはアプリコットのそばに行き肩を貸す。

「悪いね」

 ミャンは首を横に振る。



 加藤がブレインマンを連れて向かったのは集会所の近くの教会のやけに広い広場だ。儀式や祭典をする時に使われるが今は何も置かれておらずただの広い円状の空間だ。決闘にはもってこいだ。

 加藤は馬から降りて広場の円周状に立つ。ブレインマンも向かい側に立つ。広場の隣は墓地で円状の広場の周りは墓で囲まれている。ミャンとアプリコットも到着する。ミャンが辺りを見渡して、


「静かな所。辺りを見渡してもお墓しかないよ」


「死者が2人を呼んだんだな」


 太陽がギラギラと照りつける。加藤は黙って煙草をふかし続ける。ブレインマンは黒い日本刀を握りながら加藤と目を合わせる。2人の距離は約10メートル。

 この決闘の観客は死者だけでない。広場に生き残った騎士達が集まって来た。心配そうに集会所から女子供もやって来た。ドンがアプリコットの隣に立つ。沢山の人が集まったが異常な程静かだった。


 太陽が広場の真っ白な床を照らして熱する。墓場から風に乗って熱砂が飛んでくる。

 加藤は右手で煙草を掴んで捨てる。靴で煙草を踏んづけて火を消す。右手をゆっくりと下す。ブレインマンは右手を集中して見ていた。奴はいつ仕掛ける?

 加藤はリボルバーの手前で右手を止める。ゆっくりと指を動かす。ブレインマンは左手にも目をやる。加藤の左手は刀の鍔に触れていた。


 加藤はなかなか動かない。相手の集中力が途切れてないか伺う。ブレインマンは少しイライラしていた。日本刀と拳銃……どちらも特別な武器ではない。黒の日本刀の相手ではない。すぐにでも斬りかかるべきだ。だが加藤の目を見て思う。簡単に動いてはいけない。ブレインマンは深呼吸して落ち着きを取り戻す。

 ふり出しに戻った。互いに気持ちを落ち着かせ、無言の圧力で焦らし合う。風が吹く。陽が強くなる。全てのことが気になる。目を動かして相手の目の動きを見る。口、鼻を見て呼吸の動きを見る。敵の手を見て敵の仕掛けを待つ。


 加藤はブレインマンの黒い日本刀に目をやる。何が起こってもおかしくないくらい規格外な武器だ。ほんの少しの動きも見逃してはならない。

 ブレインマンは目玉を動かしてサッと加藤の両手の武器を見る。日本刀が抜かれれば剣戟。リボルバーが抜かれれば弾けばよい。だが簡単にそうだとは言い切れない。加藤春樹から感じられるただならぬオーラ。アプリコットとは違う面構え。少しの動きも見逃してはならない。

 

 何も起きないまま1分以上2人は睨み合った。2人の額から汗がしたたる。目に入っても拭えないことを察してか眉毛が汗を防いでくれる。観客達も黙ってただ見続ける。広場にいた全員が緊張で心拍数を上昇させる。静寂に息を詰まらせる。


 焦らしに焦らし合って2人の頭の中は緊張や焦りによる葛藤で膨れ上がっていた。

 加藤が左手で日本刀の鍔をクイッと押し上げ右手を動かした。ブレインマンは一瞬日本刀に目をやり核爆弾のような踏み込みで前に出る。2人の(まなこ)は今までの人生で一番の集中力を保ちながら相手を見ていた。観客全員2人の僅かな動きに気付いて固唾を呑んで見守る。



 広場の静寂は続く。閑古鳥も黙り、そこは2人だけの世界だった。ようやく決闘が幕を開ける!

 

 黒い日本刀が牙を剥く!


 ガンが火を吹く!


 バタっと1人の男が倒れた。


「いつもの話さ。決闘には必ず勝者と敗者が生まれる。今回の敗者は余りにも多くの敗因を抱えていた。当然の結果さ。だろ?」


 メイド・スケアリーは葉巻を口に咥えながら独り言を続ける。


「最高のエンディングだったぜ。2人の沈黙が物凄く長かった。あれ程緊張感のある静寂は、最近まず見ることはないだろう。なぜならテンポを意識すると必然的にとりあえず迫力のある銃撃戦とチャンバラをさっさと見せておくのが1番になってしまうからだ」


「映画は進化し続け観客のニーズに合うものになっていった。60年代の西部劇に比べれば今のアクション映画は非常にテンポが良く迫力がある。ホラー映画に関しては開始5分に1人や2人死ぬのが当たり前になっていった。テンポが良くなって非常にいいことだ。観客に退屈を与えない。眠気を与えない」


「だがそういった進化された映画を観続けるとつい忘れてしまうんだよな。あの頃だけの魅力を」


「俺は今の映画と60年代の映画はとある点に注目すれば真逆だということを主張する。何が真逆かというと時間の使い方だ。今の映画はテンポが良くなって速くなったのかと思いきや案外長くなっている。どういうことかというと戦闘は一瞬で始まるが戦闘シーンがとても長いんだ。それに反して60年代の映画は戦闘が始まるまでかなり焦らしてとても長いが戦闘シーンは一瞬で呆気なく終わる」


「どっちが良くてどっちが悪いとかはない。そこは好みの問題だ。ただ言いたいのは全く別物だってことだ。映画は進化しているが60年代のと今のじゃ全くの真逆。別の映像作品だ。魅力もそれぞれ異なる」


「片方だけ見ていたらもう片方を見ることはない。つまりどちらかだけを見ていたらどちらかの魅力を忘れてしまうわけだ。非常に勿体無いことだ」


「ありがとう加藤春樹、久しぶりに思い出せたよ」



 加藤の銃口から煙が上がる。加藤は銃を握ったまま広場に立ち尽くしていた。ブレインマンは額に風穴を空けて仰向けに倒れていた。ブレインマンは脳を破壊されたことに気付き焦る。自分の負けをまだ認められない。上半身を起こそうとして左手を加藤に向けてかざす。


 バガン! バガン! バガン!


 加藤は一気に撃ち、鉛玉をブレインマンに浴びせてやる。ブレインマンは倒れてゴロゴロと転がって空いた墓穴に落ちる。死者達の仲間入りだ。


 加藤春樹くるくるっとリボルバーを回してガンホルダーにしまう。

 決闘は終わりを告げた。みんな静寂から解放された。そして、決闘の終わりは戦争の終わりも告げていた。人々は喜び合う。騎士達は万歳する。涙を流しながら。

 加藤はミャンと遂に再開する。ミャンは怪我を気にせず笑顔で加藤の元に駆けつけて抱きつく。2人とも笑顔で強く強く抱き合う。加藤は涙を流す。


「すまない。本当に……もっと早くに来ていれば」

 

 ミャンは首を横に振る。


「いいの。春樹くんがこれからもずっとそばにいてくれるのなら。ミャンそれだけで幸せだから自分を責めないで。ミャン分かっているから。ミャン達の知らない所でずっと頑張ってくれてたんでしょ?」


 ずっとそばにいてくれるのなら……この言葉を聞いて加藤は返す言葉を見失う。そんな加藤の元にアプリコットがドンを連れてやって来る。


「おい加藤。どんなトリックを使いやがった? 奴に俺の早撃ちが通用しなかったというのに、なぜ奴はお前の銃弾を弾けなかったんだ?」


「トリックでもなんでもねえ。死者が墓に帰りたがっていただけのことだ」


「帰りたがっていただと?」

 アプリコットは納得がいかない


「そうさ。奴はずっと悲しい顔をしていた。兄を殺し、あの刀に支配されてそれからも人を殺し続けた。心の中で殺しを嫌がっていたんだ。だから奴の魂は銃弾を受け入れた」


「分かったようで分からないような」


「あくまで俺の予想だ。なぜ勝てたかなんて知らん」


 その後人々は加藤春樹の帰還を祝福した。人々の笑顔は満開だったが加藤は後ろめたさを感じて苦笑いでこたえる。加藤は人混みから抜けてミャンと2人きりになる。


「俺は敵を殺しただけ。町を守るため、命を張って死んでいった奴らの方が英雄だ。良いところだけ持って行った俺は単なる奸雄さ」


「奸雄でもいいんだよ。みんなを救ったことに変わりはないよ。そうだ! 少し歩かない?」


 加藤は少し間を置いて笑顔で、


「ああ。話したいことが山程ある」


 加藤はポンチョと帽子を脱ぎ捨てる。ポンチョの下はシンプルなシャツだ。健全な青年のように見える。

 2人はまるで若いカップルのようにして手を繋いで幸せな顔をして道を歩き出す。


「話すタイミング逃したじゃない。せっかく老化が治って安眠屋(リラックス)2号の物件も見つかったっていうのに。それにしてもいい天気。もうすぐお昼ね」


 黒髪をなびかせ、シワひとつない美しい顔を陽に照らしながらカオルは道に落ちているポンチョと帽子を拾い砂を払う。2人の後ろ姿を見て笑顔になる。



 



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