第二十九話 天変地異!黒の日本刀
「デルガーダン! 決着を付けよう!」
将軍は肺を1個失ったにも関わらず一瞬で呼吸を整える。ブレインマンは笑いながら手招きする。将軍は刀を大きく振り上げ踏み込まずその場で刀を地面に刺す。衝撃波がブレインマンに襲いかかる。
「小細工かよ」
ブレインマンはつまらなさそうな顔をして防ぐ。ブレインマンの後ろに三体の姿? ブレインマンは左手から衝撃波を放つ。
「分身か? つまらんぞ」
分身は衝撃波を浴びて破裂し大量の煙を発生させる。
「次は煙幕か? 僕の背中をやろうたって無駄だ」
バガァーーーン! 凄まじい音と共にブレインマンが自爆を起こす。煙は全て消し飛ぶ。
「これでどうだ? 大人しく正せ……」
刀がブレインマンの背中を突き刺し心臓を捉えた。突然の激痛と不意打ちに衝撃のあまりブレインマンは声も出ない。
振り返るが誰もいない。剣は地面から生えていた。
地面にヒビが入り中から将軍が飛び出し剣を抜く。勢いよく血が噴き出てブレインマンはうつ伏せになって倒れる。将軍は銃口をブレインマンの頭に突きつける。
「お前の部下に地面に潜る馬鹿がいたと聞いてな」
赤い目でブレインマンは睨む。
「卑怯者……ぼ、僕が勝ってたんだ。あの技は……対処、不可能。僕が兄さんを……超、え、てた」
将軍は赤い目と目を合わせ、
「子供の頃と変わらんな。ワシはどんな手を使ってでもお前に負ける訳にはいかん……兄弟喧嘩は昔からそんな物だ。デルガーダン、お前がガキの頃、格闘技を習ってワシに喧嘩をけしかけたことがあったよな? あの時ワシはどうした?」
ブレインマンは血を吐きながら答える。
「アンタは……バッドを持ってきた。それで僕をタコ殴りに」
「ハハハッ。今も昔もワシら兄弟は変わらんな。だが今回違うのはお前が死ぬということだデルガーダン」
ヘンドリューは撃鉄を鳴らして引き金に手をかける。ブレインマンは悲しそうな顔をする。涙を流し始める。
「兄さん……やめてくれ。今回もアンタの勝ちだ。バッドを持って来た時と一緒……この後仲直りだ」
「脳が本体だよな。さらばだ」
「兄さん……兄さん……」
ブレインマンは泣き続ける。兄は引き金を引けない。一瞬だけ目を逸らす。バスッ!
ブレインマンが隙を狙って一瞬で右手に日本刀を出現させ、ヘンドリュー将軍の胸を突き刺した。将軍はその刀の色を見て驚愕する。
「そ、それは……黒の日本刀。ダメだ。速く闇に戻せ。ワシを殺すためだけならもういらんだろ」
ブレインマンは狂ったように笑う。目から血の涙が流れる。
「もう遅い……コイツと契約しちまった。コイツに魂を食わさないとな」
将軍が倒れる。ブレインマンは立ち上がって刀を抜き、左手で胸を触って笑顔になる。
「もう傷が塞がっている。凄い。黒の日本刀……闇に封じられし禁忌の日本刀。ハッハッハ! 僕は最強だ! もう誰にも止められないぞ!」
様子を見ていた魔物達は黒い日本刀の刀身を見て怖くなる。ブレインマンは血の涙を流しながら笑顔で近付いてくる。
「君達の魂を食わせておくれ」
魔物達は我先にと逃げ出す。
「うわあああああああああああ!」
「逃がさない。逃がさないよ」
ブレインマンは目をカッと広げ魔物達を目に見えないスピードで斬り刻み暴走する。魔物達はパニックに陥る。大柄な魔物も複数で止めに入るが一瞬で殺されてしまう。
この様子を見ていたメイド・スケアリーは遂に決断を下す。加藤は心配そうに水晶玉を見つめている。
「加藤、あの黒い刀は……全て壊すぞ」
「全て?」
「そうだ。全てを殺すまで止まらない。あの刀は旧魔王でさえ恐れ、闇に封じた代物。あの刀の管理は悪魔幹部の上層部にしかできない。つまりブレインマンは最初からあの日本刀を狙っていた訳だ」
「止められないのか?」
「ああ。止められるさ。簡単な話だ。奴を殺せばいい」
加藤は覚悟する。メイドが何を考えているのか分かった。メイドは真剣に話す。
「そこで加藤、やっとお前の出番だ。異世界に行ってこい。ブレインマンを打ち倒して俺に最高のカタルシスを届けてくれ」
メイドは立ち上がって片手を伸ばして手を広げる。空気からバチバチッと電撃が走ってゲートができる。
「加藤、ここに入れば真っ暗な空間に出る。そこを前に向かって進んで行けば異世界に出る。タイムリミットは正午までだ。正午になったらお前は自動的にこの病室に戻される。そして前にも言ったが『はじまりの場所』に転送される。お前は俺達トラベラーと違うから好きな場所ではなく草原に出るはずだ。覚えているか?」
「ああ。覚えている。それより、やっぱり俺は異世界に残ることはできないのか?」
加藤は悲しそうな表情で聞く。メイドは無慈悲にも、
「できないね。お前はあの世界からしたら異物だ。トラベラーでもない癖に死を介さず異世界を移動すること自体がおかしいんだ。つまらないことを聞くな」
加藤は暗い表情でメイドの話を聞く。
「道は覚えているな? それなりに町まで遠いはずだ。走れ。間に合わなくなるぞ」
「分かった」
加藤は立ち上がってゲートの前に立つ。入るのを拒むくらい電撃がバチバチ鳴っている。
「いいか加藤。良い映画のエンディングは完璧でなくてはならない。俺はお前に全てを託している。死んでもいいから絶対つまらない最後だけにはするなよ」
メイドは自分のことしか頭にない。加藤はメイドの顔を睨む。布で隠れているため目が合わない。
「俺はお前を殺すまで絶対に死なない。ブレインマンの次はお前の番だ! 忘れるなよ!」
メイドは笑い始める。布で顔が隠れているにも関わらず、加藤は目が合った気がした。
「お前は俺を殺せる対象として見てるらしいが違う」
「俺は敵役でも黒幕でもない」
加藤はゲートに入る直前メイドの最後の台詞を聞く
「監督だよ!」
加藤はゲートに入った。メイドの言った通り真っ暗な空間に出た。光がないにも関わらず自分の手足がはっきり見えることに加藤は驚きを感じる。加藤は急いで走った。100メートルほど走ると光る出口が見えた。光を抜ける。眩しい光に目を閉じる。
目を開けるとそこは草原……荒野にも見える。
まるでオープンワールドゲームのような風景に加藤は再び圧倒される。腰を触るとリボルバーがちゃんと戻っている。当然左には日本刀。装備を確認した後、加藤は自分の衣服を確認する。
「帽子? ポンチョ? 何だ? メイドが用意した服だろう。 西部劇のつもりか……」
パカッパカッと馬の走る音が聞こえる。馬がやって来た。この馬は将軍の馬だと加藤は気付く。馬は加藤に近づいて何かを訴えるような目をした。
「乗せてくれるのか?」
加藤は馬に乗る。馬は命令を待たずに走り出した。
孤独なガンマンは曙光を浴びながら荒野を駆ける!
その頃ブレインマンは大勢の騎士、魔物を殺し終えて町に入って来た。魔物はほとんど逃げてしまった。
アプリコットが立ちはだかる。ブレインマンは真っ赤な目から血の涙を流しながら笑顔を保っている。睨み合いが続く。静寂を破ってアプリコットは銃を抜く。「早撃ち」だ。何発も連続で放つ。
しかしパァン! という音と一緒にアプリコットの右腕の筋肉が破裂する! ブレインマンは全ての銃弾を弾いて余裕の表情を見せる。
「僕の勝ちさ。早く魂を寄越しな」
アプリコットは刀を左手で抜き立ち向かう。ブレインマンは頭を抱える。小声でボソボソと呟く。
「面倒くさい。面倒くさい。面倒くさい。面倒くさい。もう来ないでくれ。疲れた疲れた。嫌だ嫌だ」
目に止まらぬ速さでアプリコットの左腕を斬り落とし、右足で顔面を蹴る! アプリコットは吹き飛ばされて動けない。壁に寄りかかり傷口を抑える。
ブレインマンはアプリコットの前に立ち胸ポケットを漁る。マッチと煙草を取り出す。火の付いていない煙草をアプリコットの口に咥えさせる。そして左手でマッチを取り出しアプリコットのほおを擦って火をつける。アプリコットは摩擦で痛みを感じ一瞬目を瞑る。
ブレインマンは煙草に火をつける。
「味わいな。ガンマンへの尊敬の念と弔いさ」
アプリコットは煙をいっぱい吸って煙草をポロッと落とす。勢いよくブレインマンの顔に煙を吹きかける。ブレインマンはゴホゴホと咳き込む。
ブレインマンは煙を払い、足でアプリコットを抑えて黒の日本刀を振り上げる。
「早く死にたいようだな!」
「待って!」
朝日に照らされた女侍が美しい桜色の刀を抜いて現れた。ブレインマンは頭を掻きむしらながら向かい合う。
「また来やがった。次から次に! 黒の日本刀に勝つなんて不可能なのに! クソ! クソ! 死ね! 俺の邪魔をするなー! 独りにさせてくれーー!」
ブレインマンは刀を地面に突き刺し、ミャンに向けて振り上げた。黒の斬撃が地面を泳いでミャンを襲う!
ミャンは横に避けて爆発的な踏み込みで間合いを詰める。ブレインマンは適当な構えで向かってくる。正中線はミャンが掌握していた。しかしミャンの攻撃は全て弾かれ、ミャンは身体中に傷を負う。
「やめろって言ってるだろ! 来るなって言ってるだろ! 兄さんもプライドなんか捨てて逃げるべきだったんだ! 今の僕はもう僕じゃない……」
ブレインマンは血の涙の流れを強め、狂ったように刀を振り回しながらミャンに突進する! ミャンは一つ一つの攻撃を必死に弾くが、凄まじいスピードと人間離れしたパワーに体力を奪われる。ブレインマンは勢いを弱めない。
「春樹くん……ごめんね。限界かも」




