第二十八話 暁の決戦
カタルシス 魂の解放
「今すぐ俺を異世界に戻せ。最高のカタルシスを届けてやる」
メイドは悩む。おそらく真剣だ。
「分かった。お前を戻そう」
「分かってくれたか! じゃあ早速」
「ただし」
「ヒーローは遅れてやってくると言うだろ? もう少し映画を楽しんでからにしよう」
加藤は叫ぶ。
「ふざけんな! 間に合わねえぞ! ハナ、いや、スネーククイーンが死んじまう」
メイドは黙って水晶玉を観る。
「加藤、話しかけないでくれ。俺は集中したいんだ」
水晶玉にはハナが映っている。片手で姉の猛攻を防ぎ、体中にむごい切り傷がついている。
ブラックマンバの幹部マムシはハナを助けたいが自分も悪魔幹部に襲われそれどころでない。
ブレインマンは次々幹部に指示して笑う。
「幹部も集めりゃかなりの数だな。将軍がまだ来ないや。苦戦しているね……スネーククイーンももうじき落ちる」
騎士達はどんどん押されていく。将軍の勢いは凄まじかったが1人ずつ魔物に囲まれ混乱状態だ。
ミャンはというとラングだけじゃなくさらに2人の悪魔幹部にも襲われていた。1対3で状況は最悪。ラングが斬りかかりミャンは防ぐ。笑いながら2人の悪魔幹部も襲いかかる。1人は狼男。1人は半魚人だ。鋭い爪を持っている。ミャンは肩に引っ掻き傷を食らい、狼男の強烈な蹴りで転倒する。喉にはラングの刀。もうお終いだ。
加藤は水晶玉に向かって叫ぶ。
「やめろーーーーー! ミャーーーン!」
メイドは笑う。
「悲しみあふれるヒロインの死亡シーンだ。そして加藤、ヒロインが死んだらお前の番だ。俺にカタルシスをプレゼントしてくれるんだろ?」
「ふざけるな! ミャンが死んだら映画が瓦解するぞ。それでもいいのか!」
「いいさ。もうエンディングだ。どんどん物語を瓦解させないと。今まで描いたキャラのストーリー。それがキャラクターの死によって感動に変わる。現にお前も泣きそうだ」
メイドは話を分かってくれない。
ラングは刀を強く握る。とどめを刺すつもりだ。狼男と半魚人は笑う。ミャンはどうすることもできない。そんなミャンは煙草の煙の匂いを嗅ぐ。カウボーイハットを被ったガンマンが現れる。
ガンマンは煙草を捨て煙を吐く。3人の悪魔幹部は男を睨む。ガンマンは目をギロッギロッと動かす。腰のガンホルダーから銃を抜く!悪魔幹部達は飛び出した!
バギャン! バギャン! バギャーーーン!
銃弾が魔物の魂を奪った。
それを見ていたメイドは激怒して机を殴りつける。加藤は安堵する。
ラングは甲冑で守りきれなかった脇を抑えている。ガンマンはラングの兜の空いている目の部分に銃口を突っ込んで発砲する。ラングは死に、ミャンはガンマンを見て
「アプリコットさん!」
アプリコットは脱帽してミャンの顔を見る。
「南北戦争から異世界に迷いこんじまった」
アプリコットは銃をしまい、刀を抜く。
「次は侍の出番だ」
迫り来る魔物を斬り殺す。高道純の体を手に入れたアプリコットは彼の剣の技術も受け継いでいる。次々と魔物を倒していく。ミャンは起き上がり辺りを見渡す。魔物だらけの中でハナを見つける。倒れている。ミャンはハナの元に駆けつける。ハナはなんとか口を開く。
「は、はやく……姉さんは町を高い所から見下ろして赤の日本刀で柵を一気に破壊するはず。まだ……誰も気づいていない。直に魔物が町に雪崩れ込む。待機してる兵とジョンの能力が……あるけれども足りない」
「ハナさん。喋らないで」
「いや、私はもうじき死ぬ。話させてくれ。きゅ、吸血鬼が本性を……出した時刀は赤く染まる。吸血鬼が元に戻れば刀の色も戻る。でも……人間が赤の日本刀を手にした時……刀の色は桜色に変化し、永遠に残る。最強の武器よ。受け取って欲しい。そして私が暴走する前にとどめを刺してくれ」
ミャンが返事をする前にハナの髪は真っ白になる。日本刀が赤く染まる。ミャンが受け取るとそれは美しい桜色に変わった。ハナが動き出す。とどめを刺さねば……
ハナの右胸の下を刀が突いた。ミャンの刀でない。ミャンは驚いて見上げる。そこには血塗れのマムシがいた。腹に4つの穴が空いている。
「スネーククイーン様……やれるだけのことはやった。後はあなたと逝くだけです」
そう言ってマムシは倒れて死んだ。ミャンは涙を流す。ハナは最期の力を振り絞って喋る。
「ありがとう……ミャン。頼んだわ。私はウッドとアナタのパパと一緒に見てるから」
ハナは目を閉じる。ミャンは涙を拭う。その目に迷いはなかった。桜色の刀を構える。ミャンにハンマーを担いだ巨大なゴブリンが襲いかかる。ハンマーが振り下ろされ、それをミャンは突く。ハンマーが粉々に砕け散る。ゴブリンはすぐに拳で殴りかかる。ミャンはゴブリンの両腕を斬り落とし、胸を突き刺す。
気付いたらミャンは囲まれていた。敵が一斉に襲いかかる。ミャンは回転斬りを放つ! 同時に何人の魔物の首が飛んだか分からない。
次々と魔物が襲いかかる。斧、槍、剣、ハンマー、どれも桜色の日本刀には敵わない。無惨に斬り捨てられるだけだ。
ガガガガガーーン! という轟音と共に稲妻のようにして赤く染まった斬撃が降って来た! 柵が吹き飛ばされる。混乱状態の戦場をかいくぐり魔物が何人か町に入る。当然ジョンの能力によって死ぬ。次々と魔物が入って死んでいく。
多くの魔物が入れば、ジョンの能力も尽きてしまう。ミャンは魔物を斬り殺しながら町へと向かう。
その頃、将軍はたった1人で大勢の敵を倒し、ついにブレインマンと向かい合う。将軍は馬から降りる。
「ここまでよくついて来た。自由だ」
馬は走り出す。魔物が槍を構えるのをブレインマンは止めた。
「道を開けてやれ。その馬は自由だろ? 将軍」
魔物達は道を開ける。馬は走り去る。
「いいかお前ら。これは僕と将軍の一騎討ちだ。邪魔する奴は脳を溶かす」
「デルガーダン。ワシに2度弟を殺せと言うか?」
「やってみろ。それと今の僕はブレインマン」
将軍は刀を構える。上段の構えに近い。対してブレインマンは素手だ。
「デルガーダン、武器はどうした?」
「いらねえよ」
双方目を合わせながら一歩ずつ歩み寄る。間合いに入った。
「行くぞヘンドリュー!」
ブレインマンから仕掛ける。将軍は刀をとてつもない速さで振る。ブレインマンの手の前で刀が寸止めされた。決して将軍が力を抜いたわけではない。
「これが僕の魔力さ。今の僕は手から放出される魔力だけでアンタの攻撃を防げる。アンタは僕が魔力を得ることに反対したがこれが結果さ」
「まだ一撃目だ。調子に乗るなよ小僧!」
将軍は攻撃を繰り出し続ける。ブレインマンは両手を素早く動かして防ぐ。ブレインマンは左手で攻撃を防ぐと同時に右手から黒い何かを出した。それは防具を無視して将軍の左胸に潜り込む。将軍は距離を取って自分の胸を見る。穴が空いているわけでも血が出ているわけでもない。
ブレインマンは右手を握って
「ばあーーん」
聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう言った。次の瞬間バァーーン! という破裂音と共に将軍の左胸が破裂した。将軍は血を吐く。
「これは僕の新しい技だよ。メイドが教えてくれた。放射性……なんだっけ。そういった物質を利用すればどんな防御でも防げない技が使えるってね」
メイドが編み出した放射能と魔力を融合させた技だ。将軍は苦しみながら血を吐き続ける。
「何苦しんでるんだよ将軍。肺を一個失ったからって何音を上げているんだい? はやく構えろ。もう後がないんだぜ。右の肺を破壊されれば死ぬ。心臓を破壊されれば死ぬ。脳を破壊されれば死ぬ。弱点だらけだよ」
将軍は再び構える。呼吸するたび激痛が走る。
「肺が一個なんだってんだ? 風邪と一緒さ。息苦しくなっただけだ。デルガーダン! 決着を付けよう!」
ジョンが魔物を防いでいるのが気に入らないメイドはある考えを思いつく。
「加藤、いい考えを思い付いたぞ!」
「なんだ?」
嫌な予感しかしない。
「ジョンのせいでテンポが悪い。最悪だ。そこでたった今ローズリップに命令した。集会所に斬撃を放てとな」
加藤は動揺する。メイドは笑う。
「なんてことを! はやく止めろ!」
「へっへっへ。きっと笑えるぜ。強力な斬撃を防ぐためジョンは能力を存分に使うだろう。どこまでやれるか気にならないか? 騎士が女子供のために体を張るシーンは最高だ。カッコいいし、感動に繋がる」
「クズめ。これ以上続けてなんになる」
「加藤は相変わらず反対するなあ。お前も気に入ると思ったのに。お前の好きな結末の分からない展開だ。最高に楽しめるぜ」
水晶玉にローズリップが映る。彼女は赤の日本刀を振って斬撃を放つ。水晶玉は斬撃を映す。赤い斬撃は集会所に向かって一直線。ジョンの斬撃がそれを防ぎバリィと音が鳴る。ローズリップは次から次へと斬撃を放つ。ジョンは斬撃で防いでいく。すごいペースで能力がなくなっていく。ジョンは集会所に向かって走る。
「頼む。3日間の俺の素振り。もってくれ!」
ミャンは魔物達を殺しながら後一歩で町という所まで行く。町に侵入しようとする魔物達をジョンの斬撃が来る前に始末する。ミャンは轟音を聞く。集会所に斬撃が! 一体どうしたら? 考えているうちに魔物に囲まれる。とりあえず魔物と戦う。
ジョンは集会所に入る。みんなを避難させたい。だが数が多すぎる。町中の女子供を外に出せばパニックが起きる。危険だ。ジョンは諦めて外に出て梯子を登り、屋上に立つ。能力が尽きたら己の剣で防げばいい。稲妻のようにして赤い斬撃が連続で降ってくる。
「次の攻撃までが限度か。速いな」
斬撃がジョンに襲いかかる。ジョンは弾く。すごい速さですごい衝撃だ。次から次に襲ってくる。
一方ジョンの能力が尽きたことで魔物が入って来た。ミャンは町に入り、魔物を止める。だが雪崩れ込んでくる。諦めかけた時、ミャンの後ろから待機していた兵達がやって来た。
「ミャン殿! 後は任せてくだされ! アナタは騎士隊長ジョン様と集会所のみなさんを救ってください」
「で、でも」
「でもじゃねえ」
魔物達を斬り殺し、アプリコットが現れた。
「ここは俺達に任せろ。集会所がまずい」
「うん」
ミャンは集会所に向かって走り出す。
ジョンは必死に斬撃を防ぐ。もう限界だ。斬撃は不規則に動くため動きが読みづらい。ジョンの右腕が切り落とされた。ジョンは左手で刀を握る。痛みを堪えながら防ぐ。利き手じゃないため安定せず攻撃を食らう。斬撃は左目をえぐる。ジョンの体から無数の切り傷。血が噴き出る。ジョンは諦めない。次の斬撃で左肩に切れ込みが入る。力が入らない。
「うおおおおおおおおおお!」
ジョンは叫んで刀を構える。斬撃を弾く。小指が落ちる。気にしない。斬撃を弾く。耳を削がれる。首から出血が。それでもジョンは動き続けた。
「ヒカリ、あと少し。あと少しでいいから力を分けてくれ」
ジョンは手を止めない。剣先が折れる。ジョンはまだ弾く。右目を失う。そして左腕を失い膝をつく。
「キャハハハハハ! よく頑張った! とどめだ」
「メイド! やめろ! 酷すぎる!」
「酷いのは分かってるさ。映画はいつも大胆だぜ」
斬撃が飛んでくる。
「終わりだ! 死ねえ!」
バチィーーン!
桜によって斬撃が無に帰す。
ジョンは微笑む。
「ミャンか? 間に合ってよかった」
ミャンはジョンの姿を見て涙をあふれさせる。
「ジョンさん……ごめんね」
「いいんだ。俺は……次のバトンを託しただけ。それだけで満足さ。それに、やっと眠れる」
「嫌だ嫌だ。ジョンさんまで。嫌……」
「ミャン。泣いていても仕方ねえ。戦うんだ……」
ミャンは桜色の刀を構える。メイドは笑う。
「加藤! 次はミャンだぜ。どこまで耐えられるか楽しみだろ?」
「もういいだろ。もう……」
加藤は涙をこぼしながら悔しがる。動きたい。戦いたい。でもリボルバーのせいで動けない。
「よし! 斬撃の雨を降らそう」
だが、メイドの言うことをローズリップは聞かなかった。ローズリップはミャンの桜色の刀身を見て震えて動揺する。青い光が消え、赤い目になる。
ローズリップは地上に急降下してミャンに斬りかかる! 凄まじい勢いで桜と赤の日本刀が衝突する。鍔迫り合いに入る。2人は一歩も譲らない!
2人は互いの刀の恐ろしさを理解して距離を取る。ローズリップは屋上から降りた。ミャンも降りる。刀を構え、呼吸を整える。
「ハナさん、ジョンさん。ミャンが絶対勝つから」
朝日が昇って2人を照らす。
ローズリップが先に斬撃を連続で放つ。ミャンも続いて斬撃を放つ。赤と桜の斬撃が激突を繰り返しその衝撃波は周辺の建物を破壊する。しばらく撃ち合いを続けるがキリがない。2人は飛んできた斬撃を避けて撃ち合いを止める。やはり刀同士近距離戦をするしかない。ミャンとローズリップは先程自分の刀と相手の刀の桁外れな破壊力を理解したため冷静に立ち回る。
すぐ飛びかかってもいいが2人の刀のポテンシャルは核兵器を超える。斬られてしまっては全てが終わる。少しでも勝算の高いタイミングを狙いたい。2人は一歩一歩ゆっくりと歩み寄る。閑古鳥が鳴いている。
2人はようやく間合いに入る。ローズリップは不機嫌そうな顔をして剣先をミャンの喉に向ける。ミャンも真剣な表情をしてローズリップの喉に剣先を向ける。
2人の剣先が同時に重なる。2人は自分が正中線における主導権を握るためにカタカタと相手の剣を少しずつ払い合いながら中心に剣先を向けて静止させようとする。目玉をギロギロと動かし相手の目と手の動きを交互に観察する。汗が流れる。どちらが先に動くのだろうか。
カタッカタッカタカタ。パッ。カカカ。パッパ。
刀に強弱様々な力を不規則に加え続けて中心をとろうとする。強者同士の戦いは静かだ。
ローズリップの刀とミャンの刀が払い合う。時は来た。ほんの一瞬、ミャンの刀が中心で静止した。
ミャンは確信して大きく踏み込む。ローズリップも反応する。だが剣のポジションの差が大きかった。赤い日本刀がほんの少しだけ動く間に、ミャンの桜色の刀がローズリップの首に到達しようとしていた。
ミャンは十分すぎる勝機を持ってしてローズリップの喉を斬った! 刀が深く入り込み、ローズリップは首の半分まで深く斬られてしまった。
血が溢れんばかりと滝のようにザーッと落ち、ローズリップは怯む。すかさずミャンは刀を強く握ってローズリップのこめかみ目がけて突く。ローズリップは最後の抵抗に歯を食いしばりながら刀をミャンに向ける。
桜が吸血鬼にとどめを刺す。
「ああっ……」
刀がこめかみから脳を貫いて貫通した。ミャンは勢いよく刀を抜く。ローズリップの頭から血が流れる。勝負は一瞬で決まった。
ミャンはポケットから布を取り出し、刀に付いた血を根本から剣先までゆっくりと拭って刀を収める。そしてローズリップに目をやる。髪の毛は黒色に変化し、日本刀の色も通常の色に戻っている。
ミャンは一呼吸ついて落ち着き涙を流す。




