第二十七話 狂気のカタルシス
矢が雨のように降り注ぐ! 魔物達に刺さり多くが倒れていく。だが魔物の勢いは止まらない。
「第二波用意! 打てぇ!」
魔物達が倒れていく。しかし矢の雨をかいくぐりながら2人の男がまるでゾンビのように腐った馬に乗って突っ込んできた。彼らはおそらく悪魔幹部。
「まずいぞ。矢を無視してこっちに来やがる」
「第三波用意! 打てぇ!」
大量の矢が放たれるが2人は突っ込んでくる。もう目の前。騎士達は死を覚悟する。
パスィーン……ザクザクザク。プシャーーーッ……
悪魔幹部の2人は切り刻まれて即死する。騎士達は何が起きたか分からない。そんな騎士の前に真っ黒なクマをつけて痩せ細った男が現れる。ジョンだ! 騎士達は歓喜する。
「ジョンさん! 流石です」
ジョンは微笑んで
「何やってる? 速く弓を打て。幹部は全部俺が殺すからよ」
ジョンは叫ぶ。
「魔物達よ! 俺のチート範囲はこの町の中全域だ!
この町に一歩でも踏み入れたら全員死ぬ!」
ジョンの言葉に耳を貸さず魔物たちは進軍する。やっぱり洗脳だ。恐怖を感じず襲って来る。
「第六波用意! 打てぇ!」
魔物達が倒れて行く。だがもうすぐ限界だ。
「総員! 武器を構えろ! 迎え撃つ!」
弓はもう間に合わない。騎士達が武器を構えて待ち構える。騎士の1人が笑って、
「へっ。来たってジョン様のチートで戦いは終わりだ」
魔物達の先頭に幹部の姿が見当たらない。将軍は察する。
「総員! 前身だ! 奴らは雑魚を使ってジョンの能力を出し尽くす気だ! 幹部が動くまで決して町に入れてはならん!」
騎士達は嫌々柵を飛び越え前身する。将軍が先陣を切る。将軍はリボルバーで先頭の魔物の足を撃ち抜く。魔物が倒れて後ろの魔物が何人かつまずく。その隙を逃さず将軍は自慢の大きな剣で魔物達を斬りつける。
将軍の怒涛の勢いに騎士達も後に続く。騎士の中には当然一般人、子供も混じっている。だが彼らは全く退がらない。叫びながら自分より図体のデカイ魔物達に立ち向かう。
柵の後ろでは魔法使い達が呪文を唱えていた。呪文が終わり、空の上に魔法陣が! 後方から迫る敵に隕石が落ちる! 敵陣営のど真ん中に隕石が落ちて大勢の敵が吹き飛ぶ。後ろからの人手が一旦途絶えた魔王軍は将軍率いる兵達に押される。ブレインマンは笑って、
「すごいなあ。魔物の方が数が多いんだ。なのにこんなに押されるなんて流石だよ。ラング兄弟、お前らの出番だ」
ブレインマンの後ろには3メートルの甲冑を着ている男が2人いる。外に闇のオーラのようなものが漏れている。2人は剣を抜きその場で踏み込み将軍に向かって飛んでいった。
将軍に2人が斬りかかる! 将軍は雑魚と相手している。2人は剣を振り下ろす。
ところが将軍の後ろから2人が剣を抜いて飛び出して来た。ミャンとスネーククイーンことハナだ。
それぞれ一対一で鍔迫り合いをする。将軍が2人に叫んで進み続ける。
「任せたぞ! ワシはもっと兵を削ぐ!」
ミャンは自分の倍以上の敵と剣を交わす。魔王幹部と言うだけあって相当速く力強い。ミャンは必死に攻撃を防ぐ。
ハナは魔王幹部と互角の剣戟をする。どちらも速すぎる。凄いテンポで剣戟の音が響く。魔王幹部の攻撃がハナの左ほおをかすり、ハナの攻撃が敵の左脇腹をかする。互角の戦い、と思いきや魔王幹部が悶え苦しんで死ぬ。ハナは笑う。
「この紫の日本刀はかすっただけで大量の毒が流される。新しく調合した毒よ。どう? 効き目は」
ハナがミャンの助太刀をしようとするのを見たブレインマンはもう1人に指示する。
「お前の出番だ。ローズリップ……」
ローズリップと呼ばれた女は牙を生やし、髪は真っ白で長い。背中の翼を動かして飛び上がり、赤い日本刀を抜いてハナに飛びかかる。
ハナは彼女の赤い日本刀を受け止める。衝撃が響き渡り、近くにいた者を吹き飛ばす。ハナはローズリップの青く光る瞳を見つめて、
「嘘。姉さん。死んだんじゃ?」
現実世界でメイドが再び狂ったように笑い指を鳴らす。黒いスーツの男が入って来る。そいつは水晶玉を持っていてそれをメイドに渡して出て行く。水晶玉にはローズリップと戦うハナが映っていた。
「ご苦労。でなあ加藤。これ見ろよ。スネーククイーンの姉だぜ。何年も前に死んだが悪魔幹部のブレインマンと協力して動かしているんだ」
「姉妹で殺し合いをさせて何のつもりだ? 何が楽しくてそこまでのことを」
メイドは無視して話し続ける。
「いやあ。赤の日本刀を魔王が欲しがるから隠すのが大変だったぜほんとに。加藤、吸血鬼の本性ってのは脳の異常な活性化と共に出るそうだ。そこで脳の専門家ブレインマンの仕事だ。脳を異常に活性化させて無理矢理蘇生する。それを俺が洗脳したというわけだ。本性をさらけ出した吸血鬼は勝手に大暴れする。操作も自動で非常に楽だ」
ハナは姉と剣戟を交わす。しかし速さについて行くことができず強力な蹴りを腹に食らう。血を吐きながら隙を見てハナは一撃姉の肩にぶつける。
「た、頼むよ姉さん。大人しく眠ってくれ」
ローズリップは一瞬で毒を分解して口を開く。超強力な超音波が放たれる!
ジョアアアアアアアアアアアアア!
ハナはもろに食らって地面に背をつける。超音波に巻き込まれた兵士達が吹き飛んでいく。
ローズリップは口を拭ってハナに斬りかかる。ハナの左目が紅梅色に変わる。髪が赤く染まる。
ハナはローズリップの剣を返して首に突きを。しかしローズリップはハナの剣を膝で蹴り上げ素早く斬り返す。ハナは後ろに下がって避ける。
2人はほぼ同時に踏み込む。異次元の速度にハナは食らいつく。剣が重なる度、轟音と一緒に衝撃波が走る。ローズリップはハナの一撃を叩き落とし無防備な左腕を斬り落とす! ハナは歯を食いしばって刀を強く握ってローズリップの右胸の下あたりを突き刺す。剣はローズリップの心臓を捉えていた。ローズリップの動きが止まる。ハナは息を荒げて、
「姉さん。終わりだ。もう姉さんと戦いたくない。仇は必ずとる。ウッ!」
ハナは血を吐き出す。背中に何本も毒針が刺さっていることに気付く。
「姉妹対決に水を差すなんて……グハァ。でもいい。姉さんとの戦いは終わった。私も……姉さんと一緒に」
ハナは刀を抜いて膝を落とす。姉の方はというと刀を振り上げ妹を叩き斬った! 深い切り傷ができ、ハナは大量の血を流し転倒する。何とか起き上がり刀をたった一本の腕で握りしめる。
その様子を見ていたメイドはまた笑い出す。加藤は暗い表情で水晶玉を見つめる。
「へっへっへ。ローズリップの体はもう死んでいる。脳を無理矢理動かしただけの人形だ。脳を破壊しなければ永遠に動き続ける。ゾンビみたいだろ?」
加藤は深呼吸して冷静を保って話す。
「スゥーーハアァ……メイド、話がある」
「なんだ? サンドイッチが欲しいのか?」」
「お前、このままで面白いか?」
「説教のつもりか?」
「違う。映画の話だ。結末が分かりきっている映画は面白いかと聞いているんだ」
メイドは黙って聞く。加藤は続ける。
「このままいけばお前の望む悲劇は完成するだろ。だがどうだ? 結末が分かりきっている。面白いか? 俺は観客として言う。全く面白くねえ」
「そこで俺は考えた。逆転劇ってのはどうだ。有名なのでいえばそうだ『スター・ウォーズ』だ」
「スター・ウォーズかあ……」
「そうだ。息もつかせぬ興奮、スリリングな衝撃の数々、そして善が逆転して悪を征する究極の勝利。これを超えるカタルシスにお前は出会ったことがあるか?」
メイドは圧倒されて声も出ない。うっかり手に持っていたコーヒカップを落としてしまう。カップがバラバラに砕け、コーヒーが飛び散る。メイドは手を震えさせ焦りだす。
「おい加藤。まだ間に合うか? この絶望的な状況でカタルシスを生み出せるのか?」
メイドは加藤の話に乗っかった。加藤はニヤリと笑う。
「今すぐ俺を異世界に戻せ。最高のカタルシスを届けてやる」




