第二十二話 アメリカンヒーロー
大きなエンジン音と共に車が大きな道を走り抜ける。そのスピードはあまりに速く、他の車をグングンと抜いていく。
その車をニューヨークの巨大ビルの上から眺めていた男がいた。男は飛び降り着地して車を手で受け止める。ギギギギと車は減速していきついに止まる。
男が2人車から降りた!
「出たなサムライ!」
サムライと呼ばれた男は金色のマント、金色のスーツ、目の部分が黒くデザインされた金色のマスクに身を包んでいる。アメリカンヒーローだ!
男2人は人質をとっていた。若い女性が口にガムテープを貼られ、喉元にナイフをあてられる。
「俺達は人質を持っている! もちろん銃も!」
「あんたはここで死ぬんだ! へっへー!」
サムライは刀に手をのせる。
「彼女を放すんだ」
「嫌だね。それに、刀を抜いたら女は死ぬ!」
パッ!
サムライが消えたと思ったら男2人は倒れた。サムライは既に背後にいた。あまりにも速すぎたのだ。
「これがアメリカン踏み込みだ!」
サムライは当然刀も抜いていた。刀といっても長いだけで丸みを帯びていて剣先のような鋭い箇所もない。ただの鉄の棒だ。その刀は当然血を吸っていないので銀色に、よどみなく綺麗に輝きを放つ!
サムライは刀を収め、女性の口に貼られたガムテープを優しく剥がしてやる。女性はハアハアと荒い呼吸をした後、必死に感謝の言葉を述べた。
しばらくして警察が来たのを見て、サムライは姿を消した。警察はサムライの背中を見て、
「全く、感謝状くらいやるってのに。すぐにどこかいっちまう。サムライ。人を殺さず他者を守るヒーローか」
サムライは路地裏に入ってマスクを脱ぐ。サムライの正体はケビン・コナーという名のどこにでもいるごく普通の黒人男性だ。
ケビンは派手なスーツを脱ぎ綺麗に畳む。そしてバッグに収納して街に出る。ケビンはサラリーマンが着るスーツを着ており、ホコリひとつ付いていないほど綺麗だ。端から見ればただのサラリーマンだ。ケビンはカフェに入る。そしてとある人物を待った。
いかにも怪しい人物がカフェに入って来た!
痩せているが胸は女性のような大きさで真っ黒な薄汚れた服にフードを深く被り、顔は見えないよう布で隠れている。そいつはケビンの向かい側の席に座る。
「ようケビン。元気にしてるか? 俺は久しぶりにこの世界に来れて本当に嬉しいぜ!」
「久しぶりだなメイド。体が女で中身が男だと何かとキツくないのか?」
メイド・スケアリーは首を横に振る。
「いや、もう慣れた。それより、アメリカで黒人ってのもいろいろ大変じゃないか?」
そう言ってメイドは店員にサンドイッチを頼み、水を口に流し込む。ケビンは冷静に笑顔で答える。
「ハッハッ。大変とは感じないよ。アメリカもたくさんの人種がいるんだ。黒人だって珍しくない。ただのアメリカ人だ。普通に仕事して、友達作って、恋人作って結婚して、娘も元気だ。ごく普通だ」
「ヒーローもごく普通か?」
ケビンは動揺するが一度落ち着き、
「知っていたのか」
「ああ、兄弟だもんな。なんでも知ってるさ」
「それで、なんの用だ? 言っとくが俺は殺しの頼みなどは受け付けないぞ」
メイドは運ばれてきたサンドイッチをほうばる。口は見せるが、顔はほとんど見せない。
「経過報告だ」
「経過報告?」
「そう。俺は仲間がいねえからな。へっへー。いろいろ話したいのさ」
ケビンはメイドに尋ねる。
「むこうの世界で魔王を殺したって本当か?」
「本当だ。そのうちあの世界も死ぬぜ」
「核爆弾でも撃つのか?」
「いいや、3日後に魔王軍を送る。皆殺しさ。騎士も全滅でそのうち魔王軍にみんな殺される」
「ニューヨークでやらないでくれよ。それにしてもよく兄弟達から逃れ、ボスの洗脳からも抜けられたな」
メイドはもう一つサンドイッチをつまむ。ゆっくり咀嚼した後水をゴゴゴゴゴと勢いよく飲む。
「そうだな。ボスの洗脳は怖いぜ。あれが発動すると何でもやらされる。お前だってそうだ」
ケビンは不安な表情をする。
「ボスの洗脳が発動すれば、ケビン! お前も俺達の兄弟の1人! 娘だろうが、異世界の女子供だろうが躊躇わずに殺せる! 兄弟だからな」
ケビンは否定する。
「俺は決して人を殺さない。産まれた時、自分が兄弟だと知っただけで異世界に移動したこともない。俺は人を殺めたりしない」
メイドはあざ笑う。
「お前は逃げているだけだ。お前にはどうしようもできない。ヒーローをやって人を救っても、ボスや兄弟達に命令されれば従うしかない! 最近もお前のように普通の暮らしをしようとした異世界の娘がこの世界に連れてこられてな。どうなったと思う?」
ケビンは黙る。
メイドは笑いながら、
「ヤクザと戦わされた挙句、首を切られて死んだんだぜ。ハッハー! まるでこのサンドイッチに挟まれた肉みたいだ! 幸せな生活が一変して殺されるんだ!」
メイドは狂ったように笑い、その狂気的な笑い声は他の客をビビらせる。メイドはサンドイッチにかぶりつく。ケビンは動揺して、
「それを俺に話してどうしようと?」
「フッフッフッ。羨ましいだろ? 洗脳から解放され自由に生きる俺が。お前も兄弟達に抗いたいはずだ。自由になりたいだろ?」
「まあな。ハッキリ言ってお前ら兄弟には協力したくない」
メイドはサンドイッチを食べ終え、口を拭って立ち上がる。
「だろ? 俺がいつか洗脳を解いて、お前を自由にしてやる。それまで待ってろよ。じゃあな! アメコミ入り楽しみにしてるぜ!」
メイド・スケアリーは手を振って帰っていった。
ケビンは困惑した。自由? 確かに欲しい。だが、メイドのことだ。絶対関わってはいけない。それが明らかだがメイドの話が頭から離れない。
加藤とミャンは刀屋に向かう途中、とある集団を目にする。加藤は興味津々だ。初めて異世界的な物を見たかもしれない。
「なんだありゃ? 魔物か?」
ミャンとドンは笑う。
「あの人達はリザードマン。メイドのせいで村を追い出されたから彼らも参戦するのよ。あの人達、とても強いの」
トカゲのような2、3メートル以上ある人達が何人もいた。これがリザードマンか。
加藤がジロジロ見ているとリザードマン1人がやって来た。彼は手を見せてきた。手はリンゴを5、6個掴んでいる。
「これがリザードマンの握力だぜ人間」
そう言って一瞬で全てのリンゴを潰した! 加藤は口を開き唖然とする。
「すごいだろ? 僕は人間なんかに協力するのは癪だが君のような奴の驚く顔が大好きだ。戦場で思いっきり暴れてくるから期待してろよ」
戻ろうとしたリザードマンをミャンが止める。
「ねえ。握手しようよ」
リザードマンはミャンの小さな手を見つめる。
「潰れても知らないよ。お嬢さん」
加藤はミャンを止めようとするがミャンは聞かずに手を差し出した。リザードマンは手を握る。ミャンがリザードマンと目を合わせたのと同時に2人は力を思いっきり手に注ぎ込む!
2人とも全く動じない。握力が人間離れしているだけあって頑丈だ。次に、リザードマンがミャンを持ち上げようとする。
ミャンは足を肩幅まで広げて踏ん張る。お互い絶対に手を離さない。そして動じない。ミャンが足に力をもっと加える。地面にヒビが割れミャンは叫び出す。
「ああああああーー!」
足を閉じて伸ばし、勢いよくリザードマンの巨体を持ち上げた!
「うわぁあー!」
リザードマンは、何が起きたか分からず怖くなる。ミャンは手を元の位置まで下げ、手を離してやる。リザードマンは尻もちをついて転倒する。
「いてててて。まさか僕、いや、リザードマンより力持ちな少女が人間にいるなんてね。ハッハー。信じられない!」
ミャンはリザードマンと対峙したというのに笑っていてとても楽しそうだった。リザードマンは満足して仲間の元へ帰って行った。
加藤達はやっとアプリコットの元に着いた。アプリコットは刀を見せた! その刀身はとても綺麗に輝いている。
「どうだ加藤。お前のために作った刀だ!」
加藤は刀を受け取る。
「すごいぞ。この刀。握った瞬間に分かる! ドンさん。リンゴあるか? 皿もあると助かる」
「あるけど。どうして?とりあえず切ってくるから待ってて」
「切らないでいい。俺が試し斬りする」
ドンはリンゴを持ってきた。異世界のリンゴはでかい。ミャン、アプリコット、ドンは見守る。
加藤は素早く刀を振る!
スパパパパ!
パカっと音がしてリンゴが平等に切り分けられた。おまけに皮はうさぎだ。
ミャンとドンは拍手する。アプリコットも嬉しそうに笑って拍手する。
「すげえよミッチー! じゃなくてアプリコット! お前の刀、こんな繊細な動きができるなんて。それに、斬れ味も最強だ!」
「だろ? お前の腕も流石だがこの刀の素晴らしさも本物だ。1000万ドスの価値はある」
4人はリンゴを美味しく食べた。
加藤は何か思いついて、
「アプリコット。お前、銃使ったことは?」
アプリコットは頷いて
「アメリカ出身だからな。南北戦争の頃はずっと持ってたよ。けれど自慢する腕じゃない」
加藤はリバルバーを取り出して、
「突然刀の作り方が分かったのと同じで銃の扱いも達人級のはずだ!」
「なぜ分かる?」
「高道純は拳銃の扱いなら誰にも負けないからだ!」
アプリコットは拳銃を受け取る。
「こいつはえらく懐かしいなあ。銃なんて見たのはいつぶりだ? ドン、庭にあったカカシ、まだ捨ててないよな?」
「もちろん。まだ6体あるわ」
庭に行くアプリコットとドン。加藤も立ち上がったのをミャンは止める。
「なんだ? ミャン?」
ミャンはまた顔を真っ赤にしてそわそわしている。
「あのね。あーーん。」
フォークに刺したリンゴを加藤に向ける。
「なんの真似だ?」
「ご、ごめんね。食べて。リンゴ」
「ん?よくわかんねえな」
ミャンは手を震えさせながらリンゴを加藤に近づける。
「あーーん」
「こ、こうか? あーーん」
加藤は差し出されたリンゴを一口で食べる。シャキシャキと咀嚼する。ミャンは顔を赤くする。加藤は理解できない。加藤とミャンも庭に出る。カカシが6体立っている。
「2人とも遅いぞ。今からあそこに立ってるカカシに全弾当てる」
加藤は笑う。
「リボルバーは6発。全弾外さずに当てるのか。そんなことできる奴、ミッチーしかいねえ」
アプリコットはバラバラに並べられたカカシを睨む。しばらくして銃に手をかける。
アプリコットは何かを感じた。絶対に当てれるという感と自信。それがビリビリと頭の中をめぐる。銃を抜いた。全員黙って見守る。
ダン ドン バン ゴン ジャン ギャウイーーン!
見事な「早撃ち」だ!
6体のカカシの胸に穴が空いた。
「加藤、何が起きたのか分からんのだが」
「それはこっちのセリフだ」
ドンは笑顔になったがすぐに、
「アンタ。強いのは分かったけど戦争には行かないでよね!」
旦那に戦争に出て欲しくないので念押した。
「当然だ。戦場には行かん。加藤、悪いがワシは役に立たんぞ。その刀で頑張るんだな。銃ありがとう。返すよ」
加藤は振り向いて、
「返さなくていい。それはミッチーの銃だから」
と言い残して店を出た。ゆっくりとおしゃべりをして2人は笑顔で帰る。そして安眠屋の近くで不思議な人だかりを見つけ、不審に思う。
なんだか焦げ臭い。火事か?
「ミャン! 行こう。嫌な予感がする!」
2人は走って聴衆をかき分け、安眠屋に向かう。
安眠屋は燃えていた! ミャンが叫ぶ。
「ママー! ママー!」
加藤はミャンを抑え、様子を見る。炎は激しく燃え広がっていて隣の家屋にも燃え移る!
「道を開けろ!」
将軍だ。将軍は馬から降りて手を天に掲げ、振り落とす。空から雨というべきか水の塊が安眠屋めがけて滝のようにザーッと降って来た!
ジュワワワーという音と共に消火が完了した。
「後は頼む」
将軍は急いで馬を走らせどこかへ向かう。騎士達が安眠屋に急ぐ。加藤とミャンもついていく。かなり火は酷かったようでほとんど真っ黒に焦げて何も見えない。
真っ黒な瓦礫から誰か出てきた。そいつはカオルを抱えていた。
「ジョン!!」
ジョンは炭、灰、焦げでボロボロだ。瓦礫に押し潰されたせいでそこら中から血が出ている。
それに対し、カオルは薄汚れているものの無傷であった。ミャンと加藤はすぐに駆けつけた。ミャンは母親の無事に涙し、加藤はジョンに必死に話しかける。
「ジョン! 聞こえるか? クッソ。酷い傷だぜ。ああジョン! ジョン! しっかりしろ!」
ジョンは立ってカオルを支えている。カオルは気を失っているがジョンはなんとか意識を保っている。
ジョンは話し始める。
「きょ、今日、何軒かも、燃えたんだ。ハァハァ。俺の。部下。俺の同期。などなどのいえだ。ハア。ここも、狙われた。もう、戦いは始まってんだ!」
「なるほど。カオルさんを助けてくれてありがとな。他の燃えた家は?」
「助けが行ってるが、み、みんな死んだかもな」
周りの人混みから剣を持った4人がやって来た。
「チッ!」
加藤、ミャンはすぐ反応して射殺する。だがそれはただの陽動にすぎなかった。上から敵が1人ジョン、カオルに向かって襲いかかる。加藤とミャン、そして周りの騎士達も気付いていない。
バスゥン! グシャ!
肉に突き刺さる音!
刺客の腹を槍が貫いた。
「騎士に怪力娘に、人間は視野が狭いね」
さっき出会ったリザードマンだ!
「だ、誰だ?」
騎士たちは剣を抜いてリザードマンを向く。加藤とミャンは止めようとする。
「君たち、戦う気があるのかい? 相手はね。僕達を村から追い出すくらい強いんだ。不意打ちなんて当たり前さ。やる気があるのかい?」
リザードマンは騎士達をにらむ。視野の広いリザードマンからしたら不意打ちに気付けない人間は愚かだ。加藤は次の襲撃に備え、弾をリロードする。
ジョンは目を細めてハァハァと息をする。
「その通り。不意打ちなんて当たり前さ」
リザードマンの腹を両手剣が貫いた! リザードマンは驚いた顔をする。
攻撃は下から。地面からだった。地面から大きな両手剣を握る片手が勢いよく飛び出して、リザードマンの腹を後ろから突いたのだった。
敵は剣を抜いて地面に潜る。リザードマンから血が噴き出した。周りにいた一般人は叫び声をあげて走って逃げ出していった。加藤らは集中し続けた。
「アアアアアアアア!」
1人足を掴まれ、地面に引きずり込まれた。
「イヤアアアアアアアアアア!」
また1人引きずり込まれる。
「助けてくれ! いやだああああ!」
「うわあああああああ!」
「あっあああああ!」
「アアアアアアアアアアア!」
「いやだああああああああ!」
また1つ、また1つと断末魔が! しかしどうしようもできない。騎士の中には逃げ出すものもいたがすぐに叫び声をあげて地面に引きずり込まれた。
「俺達を残したのはわざとか?」
加藤はつぶやいた。残ったのは加藤、ミャン、ジョン、カオルだけだ。ジョンに関しては怪我もひどい。カオルは気を失っている。
一方、アプリコットの店には怪しい客がやってきた。アプリコットは睨む。ドンはアプリコットの後ろで不安の表情を浮かべる。
5、6人の怪しい男達。異世界では見ない黒スーツに、シルクハットを被っている。
「ハロー!」
ナイフが飛び、ドンの左肩に刺さる。アプリコットは青ざめてドンを見る。
「あっああ! 痛い。うっ」
「ドン! お、お前ら! 何を!」
ナイフを投げた男は笑う。
「俺のナイフは銃より速いぞ。試しても無駄だ。お前が腰につけてる銃、触れた瞬間、女は死ぬ」
男の脅しは本気だ。アプリコットは怒りにまかせて反撃するのをやめた。
「何の用だ? ドンに手を出すな!」
「次は足か?」
ビュン!
腰からナイフを取り出し、投げるまでの挙動に全く無駄がない。速すぎる。気付けない。ドンの右膝にナイフが刺さる!
「ああああああ! うっ。あああ。ハァハァ。うっ。ううっ。ハァハァ」
ドンはあまりの痛さに涙を流す。アプリコットは何もできず歯を噛みしめて悔しがる。泣きながら頼むしかなかった。
「頼む。ドンに何もしないでくれ! 何でもする!」
「なんでも? いいだろ。クックック」
「はやく言ってくれ。頼む。頼む」
「俺たちの要望はただ1つ。メイド•スケアリー様のために究極の日本刀を作れ。術で生成するような模造品とは違う。究極の日本刀だ!」
「クソ。日本刀をお前らにだと」
「そうだ。日本刀だ」
「あっううう」
ドンは壁によりかかって涙を流しながら痛みをこらえる。
「そうさ。1日でもはやくよこせ。それまで女は預かる。一日たつごとに手足を一本ずつ切り落とす。5日目には目をつぶす」
「なんてことを。待ってくれ。無理だ。日本刀はそんなにはやくできない。それに、この前日本刀を作ったばかりでまだ準備もできてない。頼む。もっと時間を」
「いいさ。俺達は何日でも待つ。その女の体を切り刻みながら。フッフッフ。大丈夫さ。職人だろ? 根性見せろよ」
アプリコットは一旦冷静になって考えた。
「はやくやると言え! ここで2人揃って死にてえのか?」
ビュン!
「アアアアアアアア!」
ドンが自分の肩を抑えていた右手にナイフが刺さる。ナイフはドンの右手を貫通している。ドンは激痛に耐えれず泣き叫ぶ。
アプリコットは溢れる怒りを抑える。冷静に。それだけは忘れない。
男は笑う。
アプリコットは決心した。その目にもう涙はない。
「答えは出たか?」
「ああ」




