第二十話 デート
「メイド・スケアリーについて聞きたいんだが」
「なるほど。彼女と殺るのね」
加藤はブラックマンバのリーダーでもあるハナの元を訪ねた。ハナは毎日カオルの見舞いに来るので話しかけて2人で話せる場所まで来たのだ。
「メイド・スケアリー……女と言われてるけど確証はない。それに、とてもずる賢いそうよ」
「アンタよりか? スネーククイーン?」
「そうね……まあ、ずる賢さなら私も負けないけど彼女の狡猾さは有名よ。メイドは旧魔王時代から魔力について熱心に勉強してたらしいわ。そして今になって洗脳術で旧魔王軍を従えてるんだから流石よ」
「他に何か噂は?」
「もちろん。そして、これが一番厄介」
「不死か?」
ハナは笑って
「惜しい。でもそうとも言われているわ。インダと同じくメイドも不死だって」
「そんなことあり得るのか?」
「まずありえない。あくまで噂よ。でも油断しちゃダメってこと」
「んで、1番の厄介って?」
「メイドは女が嫌いなの。アンタもミャンと行動するだろうけど目を離しちゃダメよ。アイツはまず女を狙う」
「女を狙う……か」
「ということなんだミャン。しばらくカオルさんの面倒も見て欲しいし」
加藤は安眠屋に帰って、ミャンにハナから言われたことを喋った。今更だが、加藤はミャンを危険な目に合わせたくなかった。
「うん。でも、一人でも気をつけてね」
「悪いな。勝手で」
「いいの。ミャンも疲れてたし。春樹くんと一緒にいられないのは寂しいけど」
「じゃあ、出発は明日だ。この地図の場所に潜入してすぐターゲットを殺して帰ってくる」
「明日か。早いね」
「ジョン達は奇襲で確実にやるつもりだ。奴らに先を越されちまう」
「うん。そう……」
「どうした? ミャン?」
ミャンはそわそわしている。
「あの……寂しいの。だから、お願いがあるの」
ミャンはそわそわして顔を真っ赤にさせながら
「今日の夜、一緒に寝てほしいの」
ミャンは勇気を出して言った。
「お、俺と寝ろだと?」
「ダメ、かな? べ、別に何もしなくていいの。一緒に同じベッドで寝てくれたら」
加藤はやれやれと思って顔を真っ赤にしながら
「まるで子守みたいだな……いいぜ。今晩だけだぞ」
ミャンに笑顔が戻った。
「ありがとう!」
加藤は照れくさくなったので外に出た。
少し散歩でもしようかと思って一人であてもなくただ歩いた。しっかし、ミャンの自分に対する態度が最近変わってきたような。そんなことを考えながらブラブラと歩くいていると目の前に見覚えのある男が現れた。
魔王だ!
「なっ! お前! 何しに!?」
魔王は手招きして加藤を路地裏に呼んだ。加藤は嫌々ついて行く。
「ここなら誰もいないわね」
「何の用だ? 決闘ならいつでも構わん」
「フフッ。そんなんじゃないわ。ただの警告よ」
「警告? お前から俺に警告だと。それより刀を」
「そう。アナタ、メイド•スケアリーと殺るのはやめたほうがいいわ」
「それより俺の刀を! はや……」
魔王は遮って
「人の話を聞け!」
低音で怒鳴った。加藤は驚く。
「いい? ワタシもすぐに済ませたいの。メイドを殺すのはワタシ。さあ、メイドの場所を教えなさい!」
「嫌と言ったら?」
「殺す!」
加藤は刀を抜きすかさず斬る。魔王は消えた。
上だ!
「格の違いを教えてあげる」
魔王は巨大なハンマーを生成した。そしてそれを握り強く振り下ろす!加藤は避けようと後ろに下がり、尻もちをついた。爆音とともに地面がひび割れる。
加藤はリボルバーを抜く!
しかし間に合わず魔王が左手から放った鎖に加藤はがんじがらめにされてしまう。加藤は全く身動きができない。
「ここは狭い路地裏。横に避けられないここで私に向かって剣を抜いた瞬間アナタの負けは決まってた」
「うっ。うぐっ」
加藤は締め付けられる。
「蛇に絞め殺される鹿のようになりたくなかったらワタシの言うことを聞いて教えな」
加藤はなんとか口を開いて、
「お、お前、メイド•スケアリーは、仲間、じゃ、ないのか? 殺す必要が、どこに? うっ……」
魔王は不満そうな顔をして、
「仲間? いつからそんな嘘が? アイツは裏切り者よ! 兄弟のクセして命令も聞かず、ワタシを何度も殺そうとした! そのクセ自分は顔も出さないのよ。騎士団がようやく情報を得たと言うから今情報集めをしているわけ」
「なるほど……だが、俺が殺す。問題、ねえだろ?」
「問題しかないわ。後、残念だけどアナタをここで殺すことが決まったわ」
魔王が右手を動かすと加藤の胸ポケットに大事に入れておいた昨日の紙が浮遊した!
紙はゆっくりと宙に浮かび、魔王の手までやってきた。魔王はバシッと紙を掴む。
「これで場所は把握できた。加藤春樹、アナタは前、ワタシを怒らせすぎた。もう、死んでもらうわ。」
魔王は右手を開く。拳銃が生成された。魔王は銃口を加藤に向ける。
「待ちなさい!」
「ん?」
「ヒカリ!」
ヒカリが魔王の背後に立っていた。
「フフフ。嬢ちゃん。アナタのような雑魚の魔法でワタシを倒せると? それに、ワタシの銃の方が速いわ」
ヒカリは笑みを浮かべて、
「試してみる?」
そう言って杖を向ける。
魔王は銃口をヒカリに向ける。
「や、やめろぉ……」
加藤はなんとかしたいが間に合わない!
バァン!
その時加藤が必死にもがいた!
鎖に引っ張られ、魔王は銃を外した!
「ありがとう。加藤……絶対助けるよー! ヴァニッシュ!」
シュン! と一瞬で魔王が消え去った。加藤に巻きついていた鎖も消えた。
「魔王はいったい?」
「とても遠い所に飛ばしたのよ。ビューーーーン! ってね! どこに飛んだかは分かんないけどね!」
ヒカリはウインクする。
「ありがとよ。死ぬとこだったぜ。そういえば魔王とメイドは敵同士らしい」
「え? そーなの。それグッドディスカバリー!」
ヒカリは手でグッドマークをする。
「でもなヒカリ……残念だが紙を盗られた。奇襲作戦の場所。魔王に荒らされるかもしれん。本当に悪かった。俺もお前らにちゃんと協力する。金もいらねえ」
ヒカリは優しい微笑みをして、
「そう。でも私、気にしてないよ。むしろ加藤くんが助かってよかったよ。自分を責めないで。今まで通りにしてね!」
ヒカリは加藤に優しくしてくれた。天使か?
天使は笑顔で手を出す。
「握って! ちょっと空のデートしない?」
「そ、そら?」
「いいから! いいから! レディーを待たせるものじゃないわよ」
「ああ」
加藤はヒカリの手を握る。
バグゥーーーン!
「飛んだああーーー!」
物凄い勢いで2人は宙に浮いた。
「ヘヘッ凄いでしょ? 高いでしょ?」
ヒカリは加藤を連れて高く高く上がっていく。下を見れば町の様子がよく分かる。集会所は巨大だが、城塞都市というわけではなく、周りに防御壁も何もなく家々が密集したとても広い町だ。
「すげーよヒカリ!」
「浮くだけじゃないわよ」
勢いよく2人は急旋回、急降下、急上昇。とてつもなく速い。
「うわあああああ! た、高い! 速い! 無理! 無理!」
「キャハハ、怖がりね」
さらに加速する。
「あ、あー! あーー! ジェットコースターが嫌いだってのにこのやろーー! うわあああああああ!」
「キャハハハハ、ジェットコースターって何? それより雲の上に上陸するわよ!」
「やめろおお! 死んじまう!」
「いっくよおおおお! もっと飛ばしまーーーす!」
加藤は叫び続ける。ヒカリは笑い続ける。3分以上、加藤は振り回され続けた。景色を楽しむ暇もなく加藤は空の旅を味わったのであった。
ヒカリはすごい速度で降り、地面の直前で急ブレーキして地面に降りる。ヒカリが手を離すと加藤は目が回ったのかフラフラして、
「ちょっと、オエッ……路地裏行く。待ってて」
加藤が路地裏で口から、いやいや、何をしていたかはご想像にお任せしよう。
加藤が口を拭い、気持ち悪そうにしながらヒカリの元へ戻る。ヒカリは水筒を加藤に渡した。
「え?」
「私の飲みかけだけどいいかな。喉渇いたでしょ?」
「悪いな。ありがっと」
加藤はゴクゴクと勢いよく飲む。
「あっちょっ! 全部飲むんじゃ」
ヒカリが慌てふためくのを無視して加藤は全部飲みやがった。
「ひっどーーい! 私の分もあるのに!」
加藤は無言で水筒を返す。
「空、好きなのか?」
「ええ。疲れた時、愚痴を言いたい時に行くのよ。誰もいないから。それに、気持ちいいし」
「愚痴を言う相手がいないのか」
「ジョンがいつも聞いてくれるけど、アイツと喧嘩した時誰にも愚痴言えないの。だから空で雲や月に聞いてもらうんだ」
「フッ。大きな相談相手がいて羨ましいや」
2人はブラブラ歩いて広い道に出る。ヒカリが加藤を案内する。大勢の騎士が集まっていた。
「あれ全部雇ったのか?」
「確か半分ちょっとよ」
「あ、アイツは……」
腕を組んで偉そうに立つ男。ジョンだ。加藤は声をかける。
「よお、頭痛むか?」
ジョンはギロッと加藤を睨む。
「そのつまんねえ口をみじん切りにしてやらあ!」
ジョンは刀を抜いた。加藤も刀を抜く。
「チートは使わねえのか?」
「あんなものに頼らずとも、貴様など。」
一瞬で双方の殺気が膨らんだ! ヒカリが急いで止めに入る。
「やめたやめた! ストーーーップ! 馬鹿なの? 馬鹿なのかなー?」
「チッ!」
ジョンは刀を収める。加藤も刀を収めて驚いた顔をして
「へぇーー。無視して斬りかかってくると思ったんだがな」
「ちょうど腹が減っただけだ。腹が減っては戦はできん。ヒカリ、飯にするぞ」
「加藤君もくる?」
加藤でなくジョンがすぐに答える。
「駄目だ。こんな奴と食えるか!」
加藤は頷いて
「同意だ。こんな短気虫と食う飯が美味いはずない」
2人はピリピリしている。当然だ。一度殺し合った仲だ。ヒカリはそんなピリピリした空気を読まず
「行くったら行くの! 私は2人にお友達になって欲しいの!」
ジョンは歩く。そして振り返り、
「だそうだ加藤。行くぞ」
「へっ。どっちが上司だか分かんねえな。お似合いだな。羨ましいこった」
ジョンがまたギロッと睨む。
「そんなんじゃねえからな」
加藤は大笑いした。
「アハハハッ! 面白いやつだ。なあヒカリ!」
ヒカリはそっぽを向いている。まさか照れているのか。しばらく歩き、途中で加藤が尋ねる。
「で、どこの店行くんだ?」
「ああ、ヒカリが何回行っても飽きねえ所だ。何しろアイスが好きらしい」
ヒカリが話に入る。
「ノーノー! ただのアイスじゃないの! アイスのね、アイスの出るやつがあるのよ! ブォーって!」
「出るやつ? ブォー?」
「そう! アイスを自分で作るのよ! とっても楽しいんだよ!」
ヒカリは本当に楽しそうに話す。加藤がジョンに聞く。
「アイスメーカーなんてあるのか?」
「ああ。すごいカラクリだ。レバーを引くとアイスが出る。子供から大人気だ。コイツもガキだからな」
ヒカリは口を膨らませる。
「ガキじゃないもん!」
加藤とジョンは笑った。しばらく歩くとヒカリは猫を見つけた。
「わっ! ニャンコだ!」
ヒカリは猫に向かって走っていった。ジョンはヒカリの姿を見て笑う。
「やっぱりガキじゃねえか」
加藤は笑顔のジョンを見て、
「ヒカリのことどう思う?」
と聞いた。ヒカリはむこうで猫とじゃれている。ニヤニヤしながらジョンは少し考えて、
「とてもいいやつだと思っている。少しムカつくところも多いが、俺に元気をくれる。アイツといると嫌なことを忘れられる。失恋した時もアイツが励ましてくれた。本当は戦いの場に連れて行きたくないのだが、アイツ心配症でな。実際俺は何度も助けられた」
加藤は頷いて、
「そうだな。さっき俺も助けられた。感謝している。本当にいい娘だ」
「へっ。加藤。お前ヒカルに惚れたか?」
「それはお前だ」
「なっ。チゲーからな! おっともうこんな時間だ! ヒカリ! 行くぞお!」
「うん! 今行く!」
ヒカリは笑顔で戻って来た。3人は会話を楽しみながら歩いた。ようやく店が見えた。3人は笑いながら店に入った。
「へーっ……いい店じゃねえか」
お洒落な内装だ。アイスだけじゃなく料理も美味らしい。ジョンが自慢げに、
「この時間は人が少ないんだ。狙い目だ。いつも俺たちはこの時間に来る。絶対混まない」
加藤は笑って、
「上級者だな」
しかし、肝心のアイスメーカーが調整中だ。作業員が何やら作業をしている。ヒカリは落ち込んでいる。
「嘘だぁ。調整中なんて初めてよ!」
ジョンが背中をさすってやる。
「また連れてってやるから元気出せ。な?」
「やだやだー! 今食べたいの」
加藤もジョンもあきれる。
「しっかしジョン。調整中なんてな」
「本当だぜ。ヒカリはこれを楽しみに生きてんだ」
作業員がこっちにやってきた。
「お客様、調整が終わりました。アイス、自由に作ってください」
「やったーー!」
ヒカリに笑顔が戻った。ヒカリは万歳した。そして、すぐ席を降り、アイスメーカーに向かってドタドタと走っていった。ジョンがホッと息をついた。
「よかったよかった。助かったぜ」
加藤が作業員を見て、
「アイツ、なんで外に出てくんだ。店の店員じゃないのか」
2人の元に店のマスターがやって来た。
「何にします?」
ジョンはマスターに言った。
「マスター、あのアイスメーカー、調整が必要だなんて知らなかったよ。危うくヒカリを泣かせることになったよ」
マスターは戸惑う。
「調整? 調整なんてしたことないですよ」
「いや、でもさっき作業員が……」
嫌な予感がする!
「ちょっと待て……おい! ヒカリ!」
ジョンはヒカリに向かって叫んだ!
ヒカリはジョンに気づいて楽しそうに笑顔でジョンの方を向いて手を振った。わくわくして心躍らせる。
ヒカリは無邪気にレバーを引いた!
カチッ!
ドガァアアアアン!
ヒカリがレバーを引いた瞬間、アイスメーカーが爆発した! 爆発は凄まじく加藤とジョンらは爆風に吹き飛ばされる! ジョンと加藤は爆発の大きさに圧倒され、数秒固まるが、ジョンはすぐに立ち上がって、
「ヒカリーーーーー! ヒカリーーー!」
ジョンは涙を流しながら叫び続けた。
加藤は絶句した。さっきまで笑顔で優しく接してくれた、天使のような明るさの無邪気な少女が一瞬で……加藤はハナの言葉を思い出す。
「メイドは女が嫌いなの」




