第十九話 カミナリ
純は倒れた。体が痛い。男はあざ笑う。
「あっけない……俺はの能力は雷……それだけ。だが他の兄弟に雷を放つ者はいない」
男は自分の手のひらを見つめる。ビリビリと火花が散る。
「雷は速い。ただそれだけで強い。銃弾などとは比較できない」
男は倒れている加藤を見て笑い、
「今の一撃は弱いのを放った。殺すつもりで撃っていない。高道純……立てよ……もっと苦しめ……」
息を荒げながら純は立つ!
「ハァハァハァ……」
眼を広げる。絶対に見切ってやる! そう思って刀を構える。
バリッ! という音と共に純はまた倒れた! ミンは見ることしかできない。
「フン!」
男は容赦なく電撃を放つ!
「ウワアアアアアア!」
純は激痛に叫ぶ。
「ハハハハア! 俺はな。お前のような奴がもがき苦しむのを見るのが大好きだ! 突然現れた理不尽にお前は何もできない」
神が扱うとされる雷にとって、日本刀などただの人間の道具に過ぎないのだ。ただの日本刀では勝てないのだ。ただの日本刀では……
「これくらいの電圧が一番苦しいかもな」
そう言ってまた電撃を放つ!
「うわぁぁぁぁ! がダァッウッ!」
純はもがき苦しむ!
「どうだミン! これが圧倒的理不尽だ!」
男は横を向いている。純は立ち上がった。
最後の勝負に出る! リボルバーを抜き、その一発に全てを賭ける!
バガァーーーン!
今までで1番の強力な電撃が放たれた。
高道純は死んだ!
一瞬にして脳が死に、カミナリが体中を走り回って全ての臓器、肉を焼き尽くしたのだ。
「くわばら、くわばら……」
純はジュウウウウと蒸気をあげながら力尽きて倒れた。ミンは目をつぶりたかったが、真実を知るためにも見るしかなかった。恋人の死に様にミンは涙を流した。
異世界ではまた新たな日がやってきた。カオルはベッドで寝ている。薬を飲んだ後は安静にしなければいけない。
ミャンがカオルの代わりに洗濯物を外に干す。加藤がミャンのところへ行った。
「どうだ? 調子は?」
ミャンはいつ話しかけても笑ってくれる。
「うん、大丈夫。怪我も大したことなかったし」
加藤は首を横に振って、
「違う。精神的にだ。ミャン。お前は人を殺めたんだ。重くないか? トラウマになってないか?」
ミャンは下を向く。そして加藤に抱きつく。加藤は驚いて思わず照れてしまう。
「春樹くん……君が私を変えたんだよ。一緒にクエストをやったその時から春樹くんについて行くって決めてたんだから。後悔なんてない」
「そうか。そりゃよかった」
加藤は抱きつかれたせいで緊張し、上手く言葉を返せない。ミャンは首を横に振って、
「よくない。責任はとってもらうよ。一生かけて責任とってね」
「わかったわかった。責任はとる。一生かけてお前を幸せにしてやる」
ミャンはニッコリと笑って、
「ありがとう!」
ミャンは力を入れてギュッと加藤を抱きしめ、顔を加藤の胸にうずくめる。加藤は顔を真っ赤にするが冷静を装う。
2人は協力して洗濯物を干し終わり、朝食にした。スネーククイーンことハナは、いつの間にか出て行ってしまった。カオルは上で寝ている。
朝食はミャンが用意した。ベーコンと目玉焼きは難しいので細かくしたベーコンを入れたスクランブルエッグをミャンは一生懸命料理した。ミャンは加藤に作った料理とパンを出した。加藤はいただきますと小さく言った後、黙ってほおばった。
「料理の腕が上がったんじゃないか?」
ミャンは恥ずかしそうに笑って、
「でも春樹くんには勝てないよ」
加藤はベタ褒めする。
「そんなことないぞ。最高だよ! こんなうまい卵料理は初めてだ!」
「えぇっ! そんなに喜んでもらえるなんて!」
2人は楽しい食事を終え、支度を始めた。今日は加藤の刀を手に入れなければならない。加藤はミャンとハナに教えてもらった住所に向かう。
「かなり遠いな。隣町の隣町の隣町ってとこかな?」
「でも、日本刀が手に入るって思ったら近いかな?」
「そうだなミャン。雑談でもしながらゆっくりと行くとするかあ」
加藤はいろんな話をした。ミャンのために自分の世界の料理の話や10代の頃暴れに暴れた話。ミャンは加藤の長話に付き合った。
いつの間にかその刀鍛冶がいるという町に着いた。しばらく歩くと露天商が多い通りに出る。
「ここか」
「そうだね」
2人は古い店の前に着く。中に入る。
「いらっしゃい!」
加藤は中の男に衝撃を受ける!
「ミッチー? ミッチーなのか!?」
そこにいたのは高道純だった! 彼は加藤に反応せず、不機嫌な態度をとる。
「うるさいな……」
「ミッチー! 分かるか! 俺だ! 加藤だ! どうしてお前までこんなところに!」
「うるさいと言っておるだろ!」
加藤は黙った。
「ワシは確かにこの世界に来て高道純という男の体を手に入れた。それに、なぜか日本刀の知識も手に入れた」
「どういうこったいったい?」
「ワシにも分からん。日本刀の造り方を知ってしまったんだから仕方がない。聞かれてもワシだって知らん。この体になってワシは高道純だと知ったまで」
「ワシの名前はアプリコット。アメリカから来た。」
加藤はもう笑うしかなかった。
「何を言ってるんだ! お前は高道純だ! そ、それに、お前が本当にアメリカ人ならなぜ日本語が喋れる?」
純の姿をした男は笑って、
「ハッハッハッ。お前は日本語を喋っているつもりなのか?」
「どういうことだ」
「お前、日本人か。教えてやろう。お前が今話しているのは日本語ではない!」
「日本語じゃないって……」
加藤はただただ混乱する。
「テメェ、今ここがどこだか分かるか? 異世界だ。まず日本語を話せる人間などいない。お前は今、日本語を喋っているつもりなのかもしれんが、今お前が話しているのはここの言語だ」
加藤はミャンを向いて、
「なあミャン! 俺は日本語を話しているよな?」
ミャンは戸惑った顔で、
「日本語って?」
加藤は焦る。確かに冷静に考えればここの人間と同じ言語を話せるわけない。しかし、いつの間に自分の話す言語がコントロールされていたのか……
加藤はそれを考えただけで、知らぬ間に改造されたような気がして怖くなった。
アプリコットはため息をついて、
「ワシもな、突然死んだと思ったら見知らぬ世界、見知らぬ体で目覚め、知らぬ間にここの言語を話せるようになってた」
「どうしてなのかと聞かれりゃあ、そうなったものは仕方ない。それしか言えん。なぜお前は人間なんだ?なぜお前は死ぬ? そう聞かれても答えれないのと一緒だ」
「もちろんだが高道純という人物については何も知らん。赤の他人だ。だが俺は日本刀を作ることができる。これもそうなったから仕方ないとしか言えない」
「お前名前は?」
加藤は嫌々自分の名前を名乗る。
「加藤春樹……こっちはミャン」
アプリコットは笑って
「加藤、元気を出せ。答えの出ないものに頭を使うんじゃない! それに、人類は産まれるということから謎に包まれている。疑問を持っても仕方がない」
それでも加藤は落ち着かない様子だった。
「なーに喧嘩? 騒がしいわね」
女の声だ。ピンク色の髪のツインテール、青い目だ。加藤はアプリコットに聞く。
「誰だこの娘」
「俺の嫁だ……」
「!?」
アプリコットは間髪入れず答えた。親友の姿をした男がもう結婚していることを知り、加藤は動揺する。女は照れ臭そうにする。
「そんなの恥ずかしげもなく言うんじゃないわよ」
「何? 夫婦であることの何が恥ずかしいんだ?」
女は不満げそうに顔を赤らめる。
「そうだ紹介が遅れた。俺の嫁のドンだ」
「ドン? なんだその名前?」
ドンは加藤に牙をむいた猫のような目つきで
「アンタ、私の名前に文句あんの?」
加藤は驚いて引く。
「そういうわけじゃないんだが……」
ドンは何かを思い出して、
「そういえばなにお客さん突っ立たせてるのよ! 今椅子持ってくるから」
ドンは駆け足で奥に入っていき、すぐ小さな椅子を2つ持ってきた。
「ほら、ここに座った。座った」
「ありがとうございます」
ミャンは笑顔で言う。ドンは嬉しくなって、
「あら、愛想のいい子ね。なになにー。お二人さんも夫婦?」
加藤はすぐに否定する。
「違う違う。ただの付き添い人だ」
「ただの?」
ドンは問う。
「そうだ」
「へーほんとかなー?」
アプリコットがドンを止める。
「あまり詮索するものじゃないよ。それで、話を変えるが、日本刀をお求めで?」
「そうだ。日本刀だ。一番いいのを頼む」
「かなり高つくぞ」
「ああ、好きなのを作れ」
アプリコットは頷いて、
「ここに来るということは人を斬るんだろ?」
「そうだ。魔王を斬りたい」
アプリコットはまた頷いて、
「そうか。なるほど。1週間後、新しい刀をやる。俺が本気で打ってやる。1000万ドスよこしな」
1000万ドス! 大金だ。とてもポンと出せる値段ではなかった。
「1000万ドスだと? ふざけやがって」
「ふざけてない。1週間以内に稼げばいい話だ。危険なクエストならそれくらいあっという間さ」
「刀なしでやれと」
「ふっ……ちょっとした刀なら貸してやる。折ってもかまわんぞ。どうする? やるか?」
「ミャン。俺はやってもいいと思ってる」
「ミャンもそう思う」
「2人とも相当な馬鹿らしい……この刀を持ってけ」
アプリコットの渡した刀を加藤は受け取った。加藤とミャンが外に出たのを見てドンがため息をつく。
「アンタ罪悪感とかないわけ? あの2人、何もいいことないわよ。なんで受けちゃったのかなーー。それに刀なんてもっと安いでしょ?」
アプリコットが答える。
「そうさ。1000万ドスなんてかからん。だが、あいつらがどうやって金を稼ぐか気になってな。あいつらが一千万ドス持ってきたら無料でやるつもりさ」
次の日、ミャンを安眠屋に置いてきて加藤は1人で朝早くから集会所にいた。必死にクエスト情報を眺めるがよく分からない。今まで老人、いや、マムシという男が紹介してくれていたので自分でしっかり探した記憶はない。
加藤は突然後ろに気配を感じた。振り返る。そこにはどこかで見たかわいい魔法少女がいた。
「お前、どこかで」
「ポンピーン! 私、ヒカリ! ナイストゥミートゥーナイス!」
手を出してきた。加藤はそれに応え握手する。
「ジョン、あいつは元気か?」
ヒカリは手を離す。とてもいい笑顔をしている。
「ええ。あなたに負けてからずっーーーと! 嫌だった修行ばっかしてるの。特に握力。腕立ては毎日欠かさず。全く男って変ね」
「なるほど。それで俺にリベンジできればいいが」
加藤は本題に入る。
「で、何をしに?」
ヒカリは笑って、
「当然あなたよー。あなたに仕事を紹介するわ。ビジネスよ! でっかいビッグなビジネス!」
「仕事? いくらだ?」
「そこから聞いちゃう? いいわ。参加するってんなら10万ドス出しちゃうわ。ポンとね!」
加藤は1000万集めようとしているのだ。それを考えるなら安すぎる。
「悪いが他を当たれ。安すぎる」
そう言う加藤をヒカルは引き止め、
「場合によってはボーナスもたっくさん出るのよ。参加するだけで10万以上はあげちゃうんだから悪くない話でしょ。ねえ。ねぇ、お願い」
加藤は頷く。人形のような目で上目遣いされれば話を聞くしかない!
「じゃあまず内容を聞こうか。でも、1000万は絶対欲しい」
ヒカリは戸惑って変な顔になる。
「ん…んん? 1000万にこだわりすぎ! もう!」
ヒカリは顔を膨らます。かわいい。加藤は気にしないようにする。
「いいから、仕事の内容は?」
「ライトー!」
急に大声を出され加藤は驚く。ヒカリは話し始める。
「あのね。最近、新魔王によって魔王軍のコントロールが取れなくなったのわ、か、る?」
「そうらしいな」
「その旧魔王軍を集め、洗脳して村々を襲わせたこっわい奴がいるの」
「そいつを殺せと」
ヒカリは真剣だ。
「そう。それで、そいつの居場所の目星が付いたから集団で奇襲作戦ってわけ。失敗したら旧魔王軍と戦うことになるからとってもとーーっても! ヤバい!」
「なるほど。引き受けた。殺しは得意だ。居場所を教えてくれ」
「作戦は集団行動よ。勝手にしないでっちゃ! 後、みんなにも報酬があるんだから1000万はなしよ。それにそんな大金ジョンが許すわけ」
「ターゲットを襲う集団のリーダーはジョンか? なるほどな」
「そうよ」
加藤は少し考えて、
「なら奴と勝負だな」
「勝負って何する気?」
「どっちが先にそいつ殺せるかだ。俺が先に殺したらジョンの部下の前金は没収。全て俺の金だ。1000万だ!」
ヒカリは笑う。
「キャハハ! 無茶に決まってるじゃない。騎士が一般人を雇ってまでやろうとするいわば戦争よ!」
「無理だと思うならやらせてもいいだろ? とりあえず俺がターゲットを殺したら1000万だ」
ヒカリは非常に困った顔をして悩みに悩んで
「いいわ。ライト! ジョンに勝てるかしら?」
「もちろんライトだ!」
ヒカリは紙を差し出した。
必要最低限のことが書いてある。
ターゲット:メイド・スケアリー
報酬:10万ドス
期限:特になし
裏には地図と一緒に丁寧に場所の説明もあった。
「地図の内容は極秘よ! メイドったら隠れるの上手いんだからね。漏らしちゃダメ! いい?」
加藤はヒカリに紙を渡した。
「おいヒカリ! ここ直せ!」
報酬の額が加藤によって汚く塗り潰されている。
「1000万ドスと書いてサインもしろ!」
「もーう。細かいな……」
ヒカリは言われた通りに直した。
「ターゲットのメイドは必ず魔王と関係があるのよ。ヤバイから超ヤバイから本当にヤバい!」
「何がヤバいんだ?」
「話聞いてた?」
ヒカリが人を見下すような目をする。
「なっぐっ!」
加藤はイライラしてきた。
「はああ……とりあえずその変な喋り方をどうにかしてくれ」
加藤は怒るのをやめて呆れるような声で言った。ヒカリはいつものごとく、
「あっかんべー」
人を煽るような顔を平気でする。加藤はおかしくなった。加藤はヒカリの長い金髪をガシッと掴み、
「テメーのこのクソ長い髪切ってショートにしてやろうか? 丸坊主がいいんじゃね! やるぞ! 本気だぞ!」
「いてててて。ごみぇん。はなちてー!」
「嫌だね……放さねえよ! クソガッキャア!」
加藤はえいっと髪を引っ張る!
「最低! 変態! セクハラ!」
「好きなように言え! ハハハ!」
「わ、悪かったよ……」
「おねがい」
うるっとした目の上目遣い……少女の表情に加藤は思わず見惚れて手を放してしまう。ヒカリは髪を抑えている。
「クエスト……ちゃんと仕事しないと罰金ですから。罰金よ……」
加藤は笑って、
「好きにしやがれ。だが、メイドを殺し、1000万をとるのは俺だ」
「アンタがジョンに先越されて泣くとこ楽しみにしてるから」
そういってヒカリはニコッと笑った。
この時、2人とも今から始まるこの戦いの過酷さを知りもしなかった。




