第十二話 毒蛇の誘い
仇とは……
ウッドの店でまた銃撃戦があり、王国やギルドから騎士が来て調査をしているという報告を聞き、ブラックマンバのリーダースネーククイーンは様子見しようと人形を使ってウッドの酒場にやって来た。
店の中で騎士達が様々な作業をしていた。店の外にも多くの人がいる。騒がしい。スネーククイーンは外にいるおばさんに話を聞いた。
話を聞いた瞬間、スネーククイーンはばあさんの胸ぐらを掴んで鬼の形相で言った。
「ウッドが死んだだと! ふざけたことを言うな!」
完全に取り乱している。おばさんはおどおどしている。騎士が何人かやって来てスネーククイーンをなだめた。騎士がウッドの死が本当だと伝えるとスネーククイーンの人形は膝を落とす。
人形の目に涙はない。だが、人形を操る本人は泣いていた。
友人や仲間が死ぬことは経験済みだがウッドの死を耐えることはできなかった。失恋など生やさしいものではない。
ずっと冒険してきた。
たった2人で。
彼は振り向かなかったけれど2人でいるのは楽しかった。思えば誰かが邪魔をしたのがいけなかった。
アイツだ! アイツさえいなければ!
安眠屋ではもう1人、友の死を泣く女がいた。涙を拭い、無理矢理笑顔を作ってミャンに話す。
「ありがとう……ボロボロになるまで、アイツのために頑張ってくれて。ウッドはね。私を好きだって言ったけど本当はハナちゃんを1番大事にしてた。なんでこんなに不器用なんだろうね」
加藤はカオルから貰った部屋で一人スキル本を読んでいた。インダ、魔王を倒すスキルを。
「やっぱりこいつだ。弱点特攻!インダは不死だと言ってたが、アイツも生き物だ。弱点があるはずだ。カオルさんに教えてもらったこの技でアイツを殺す!」
スキルポイントが余っていたが加藤は一つだけ取ってこの日は寝た。自分に合わないスキルを無理に付ければ、いつぞやの100レベルの勇者のように雑魚になってしまうだけだ。
ミャンとカオルはしばらく話した後、ミャンが退席して先に寝た。
カオルは自分の部屋でたそがれていた。カオルは旦那を真剣に愛していたが、ウッドのことはどう思っていたのだろうか。カオルは自問した。自分に片思いした男。ただそれだけならどれほど楽だっただろう。
!?
誰だ?
「アアアアアーーー! だ、誰かあーー!」
ミャンは飛び起きた。カオルの部屋からだ。
カオルの部屋を開けると何者かがカオルの首に噛み付いていた。何者かはカオルを離しミャンを見た。
紅梅色の目。牙。赤くて長い髪。翼。女。
ミャンは迷わず持っていたクナイを投げ付ける! クナイは右目に命中し、ギャア! という悲鳴とともに女は逃げ出した!
「逃がさない!」
ミャンは小刀を抜く!
ジョアアアアアアアアアアアアアア!!!!
女は向かってくるミャンに強力な超音波を浴びせる! 口から放たれる超音波はミャンを吹き飛ばし、気絶させた。
加藤が日本刀を持って駆けつけた。だがカオルを襲った女はもうそこにはいなかった。加藤はカオルを見る。首から血が出ている。出血し過ぎて髪が黒から白色に変化している。肌も老化しているように感じる。加藤はミャンを揺らして起こした。
「奴を殺す!」
ミャンが飛び出そうとしたので加藤は止め、
「カオルさんを助けるのが先だ!」
と言って2人でカオルを医者の元に連れて行った。静止する受付の人を無視して空いている病室に入り、カオルをベッドに乗せた。歳とったじいさんの医者があわててやって来た。医者はカオルの傷口に手を当てた。医者が何かを唱えると傷口が塞がった。何かのスキルだろうか。
医者は血を止めた後言った。
「吸血鬼……絶滅したはずの魔物。正確には先代の魔王と一緒に今の魔王に消された存在しない一族」
「んなことはどうでもいいジジイ! カオルさんを助けてやってくれ!」
ミャンは隣で泣いている。
「傷を治しても血液を無から作ることはできないので今から輸血をします。献血によって寄付された血液がたくさんあるのでこの方と合う血があれば助かると思います」
医者はすぐ作業に取りかかった。加藤とミャンはカオルの顔を見た。
素人が見ても分かる。老化している。髪は真っ白になっていて顔はシワシワだ。
命は助かったものの、カオルの大事な物を奪われたと思うと2人は怒りに燃えた。
翌日。特にやることもなく加藤は過ごし、ミャンは医者が開く時間になるとすぐに出ていった。
この日、カオルは目を覚さなかったそうだ。夕方になってミャンが困った顔をして帰ってきた。
「あのねあのね、お料理しようと思って食べ物買って来たんだけど……ミャン、料理したことないの」
「自炊の経験なしか。俺が自炊の素晴らしさを教えてやる。えーっと。まず、何買って来たんだ?」
加藤はミャンのカバンの中をのぞく。
肉。肉。肉。肉しか入ってない。
「おいミャン……ユッケでも作るつもりか?」
「ひっ、あっいやー。でもね家に焼肉のタレと塩と胡椒とハチミツもあるよ!」
「なるほど。それだけあれば十分。蜂蜜は論外だが」
加藤はキッチンにミャンを連れて自炊の素晴らしさを語った。
「俺は自分で好きな物を作るからお前は自由に好きな物を作って食え」
「好きな物?」
「それが自炊だ」
加藤は語り出した。
自炊とは、自分の手で自分のためだけの料理を作ること。つまり、自由なのだ。究極の自由。
例えば人が手間暇こめ、工夫に工夫を重ねた最高の料理にマヨネーズを躊躇なくかけたとしよう。当然マナー違反だ。だが、自炊で作った料理にマナーなどない。
どんな料理だろうが自由に味付けできる。なぜなら自分で食べる物だからだ。何をしても誰も咎めない。フードロス的には悪いが残すことだってできる。人がご馳走した料理を残すのは申し訳ないが自分が作った自分のための料理。不味ければ捨ててしまえ。食べきれないなら捨ててしまえ。食品ロスを考えるとまずそんなことできないが。それから調理工程も自由で誰にも邪魔されない。
ミャンは今肉を焼いている。異世界にいるよく分からない名前の動物だがおそらく日本で言う牛だ。ミャンは肉に焼き肉のタレをかけた。人にお出しする物ならまずは油と一緒にニンニクを引き、いい香りが漂ったフライパンに肉を投下し、塩胡椒を振る。唐辛子粉末など使っても良い。
とにかく下味をしっかりした後で焼き肉のタレをかければそれなりの料理になる。たいていの人間なら美味しいと言うだろう。だが自炊とはそんな下味などという束縛に縛られない。
事実ミャンは何も考えず油を引き、肉を焼き、タレをかけた。味付けは焼き肉のタレのみ! 自由だからこそ、工夫や一手間を省ける。誰も文句は言わない。もっとこうすればいいのにと文句を言う人もいない。
自分こそ全て。
出来上がった料理をさらに雑に乗せ、盛り付けなどしない。見た目などどうでもいい。
ミャンは肉をかぶりつく! 自分で作った何にも縛られない料理!
「いただきます!」
「おいしーーーーーい!」
ミャンは本当に美味そうに食べる。大きな肉。食べやすいように切ったわけでもない。親切さも彩りも工夫もない。だが何も大きな肉にかぶりつき、無理矢理噛み切って咀嚼する。
完食してミャンは独り言を呟く。
「もっと塩胡椒が欲しいかな〜。ごちそうさま」
ミャンは味付けが完璧でないと感じた。
そう。自炊は雑な物で満足することができる自由さがあるが、自らの腕をレベルアップさせようと努力する自由もある! 細かく書かれた料理本を眺めるのもいいが、まずは作らないと。
作って初めて一つ二つ工夫を入れようとする。工夫が増えていくうちに料理は上達する。そうして完璧なレシピが出来上がる!
ミャンは加藤の元に行き、
「いろいろ教えてくれてありがとう! 春樹くんにも作ったから」
「おう、ありがたくもらうよ」
加藤は席に着く。ミャンは肉を雑に盛りつけた皿をテーブルに置いて風呂に向かった。
カオルがいないので店は閉めている。客もいない。
加藤はナイフ、フォークを手に取り、
「いただきます!」
肉を丁寧に切って口に運ぶ。モグモグ。
「こりゃひでぇ。不味いな。塩胡椒もないし、焼き加減も微妙だ。タレの量もおかしいし」
加藤はため息をつき、文句を言った。
「だが、最高の料理だぜ!」
ナイフで肉を突き刺し、かぶりつく! 歯で無理矢理噛み切って咀嚼する。肉汁が口に注がれる! 完食した!
「ごちそうさまでした!」
ミャンが風呂からあがってきた。
「まずい料理で悪かったね」
加藤は焦る! 機嫌を損ねたかもしれない。
「聞いていたのか? 怒ったのか? 悪い!」
「まずい料理でも、全部食べてくれてありがとう」
ミャンは笑った。ミャンは洗面所に行き、歯を磨いた。夜は男女2人きりだが何も起きず、その日は終わった。
次の日の朝、医者が駆け込んできた!
「大変だ! 大変だ!」
「おい、ジジイ! 何があった?」
「患者の……カオル様がさらわれた!」
「!?」
「手紙が置いてありました。犯人はブラックマンバです。集会所にいる者に会えとあります」
「分かった! すぐ行く!」
加藤はミャンを起こして
「ミャン、突然だが小刀を返してもらおう」
「えっ!で、でも」
ミャンは動揺する。
「新しい武器と交換だ」
ミャンは納得した。
「よ、よかったー」
「アサルトライフル。背中にかつげ。
そしてこれは日本刀だ!」
「日本刀? でもそれって貴重な……」
「ウッドの所にあった……スナイパーライフルと一緒に持ってきたんだ」
「アサルトライフルは重いからいらないよ」
「そうか」
「でも日本刀はもらう!」
ミャンは日本刀を受け取り刀を抜く。刀の根元。つばの近くの所に文字がほってある。
“親愛なる我が親友へ。ハナより”
スネーククイーンがウッドに送った日本刀だろうか。ミャンは刀を鞘に収め、少し疑問に思う。
「ねえ、ハナさんもインダの……兄弟なのかな?」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって……日本刀なんてこの世界にはないもの」
「気にしたってしょうがねえ。それに、スネーククイーンには伝えなきゃならねえことがある。ウッドはアイツに会いたがっていた。それに、ウッドを殺したのはインダ・コイズミだ」
2人は急いで集会所に向かった。いつぞやの怪しい老人がそこにいた。裏クエストを紹介してくれたじいさんだ。
「へっ。命知らずが。この紙に書かれた場所に行け。スネーククイーンはそこにいる。これを他に、例えば騎士などに伝えればお前さんの仲間の命はないと思え」
「分かった」
紙を受け取る。目的地までの行き方が丁寧に書いてある。
「春樹くん、罠の可能性も」
「分かってる。どう考えても罠だ。でも行くしかねえだろ」
「ホッホッホ……でもそれはわしを倒してからじゃ」
「爺さん変な冗談はよせって……」
爺さんが飛びかかってきた!
「何考えてんだ!」
バコッ!
加藤は老人を殴り飛ばす。集会所にいる冒険者やら勇者やらがこっちを見た。
「ほお……やりおる」
コキッと首を横に倒して老人が何かを唱えると煙が起こった。
中から背の高い男が現れた。戦闘員のような青っぽいスーツを着ている。両手に握っているのは2本の刀。紫色でポタポタと何かが垂れている。立派な髭を触りながら男が言った。
「ワシはブラックマンバの幹部マムシだ! スネーククイーン様の指示で様々な仕事を多くの猛者達に紹介してきたが、まさかアンタらとやることになるとは」
加藤は刀を抜き、
「容赦しねえぞ」
「本気で来るといいさ。ワシ、いや、俺はスネーククイーン様からのテストさ! 俺が殺せないようでは話にならんからな」
マムシは笑い続ける。
すかさず加藤は左手でガンホルダーからリボルバーを取って撃った!
グワァッという声とともにマムシは倒れた。
「卑怯……者が。だがこの程度では死なん」
加藤は笑って、
「当たり前だ。右膝を撃ったんだ。殺すつもりなんてねえよ。それに、容赦しねえって言ったろ」
マムシは右手で膝を抑える。
そして左手を胸に突っ込み何かを取り出し投げようとした! すかさずミャンがクナイを投げる!
ミャンの方が速い!
クナイは左腕に刺さり、マムシは悔しそうに左手を離す。ボロボロと毒針が落ちる。
「フフフッ。お前達の勝ちだ。テスト合格だな」
加藤はマムシに歩み寄り、
「何がテスト合格だ……」
と言ってマムシの顔を蹴った。マムシは倒れて気絶した。
加藤は周りを見渡して動揺するギャラリー達の顔を見た。これはマズイ。はやく出て行かないと……
「騒がしくして悪かった! 俺達はもう出ていく!」
と加藤は集会所の人間達に言った。外から騎士達がやって来た!
「ミャン、逃げるぞ。走れ!」
2人は走り出す。
「あっちだ! 追え!」
騎士達が追いかけてくる。2人はドアを蹴り飛ばし外に出た。走る。走る。
「この方向で間違いない」
騎士達が追いつこうとしている。
「うるせえ!」
ガンガンガン!
加藤は空に向かって銃を撃った!
「ひいーーーーーーーー!!!」
騎士達はびっくりして尻もちをついた。加藤は騎士達をまいた。これの一部始終を見ていた者がいた。
「ヘェ〜。あの武器見たことあるって思ったら。ライトライトー! 分かっちゃった! あの2人、ブラックマンバの所へ行くって話だから尾行すればスネーククイーンの首とれちゃうかも。そー思うでしょ?」
「そうだな。蛇がやっと尻尾を見せた。そしてあの武器、銃か。懐かしいな……」
少女と男がそこにいた。男に部下がやって来た。
「騎士隊長! 2人を取り逃しました! あの謎の武器を使っていたので恐らく、ウッドを殺した犯人かと」
男はあきれた顔で、
「ウッドを殺した犯人? そりゃないな。アイツはカオルの所で働いてんだぜ。そして今、カオルがさらわれた。あの2人はカオルを探しているんだろうな」
少女が男に聞く。
「ねえジョン。カオルの名前、まだ覚えてたんだ」
「そりゃそうさ。アイツの旦那。守ってやれなかった。カオル……絶対助けてやる! ハナ、いや、スネーククイーン! お前が何を企んでいるかは知らないが俺は必ずお前を捕まえる!」
ジョンは右手の拳を強く握った!
町の中に屋敷があった。
「ここか。外には普通に人が出歩いている。こんな町中に……」
「うん!行こう」
2人は正面から屋敷に入った。古い屋敷だ。庭も広い。中は思ったより綺麗だ。玄関の向こうに椅子に座る女がいた。青い髪でポニーテールだ。
「待っていました。奥の扉で待っています」
「ねえ、ママはどこなの?」
「あら、ミャンちゃんじゃない。母親なら寝かせてあるわ。この屋敷のどこかに。はやく探した方がいいわ。毒を血液に仕込んでおいた。1、2時間後、はやければ30分で死ぬ。解毒剤は枕の近くの箱に入っているわ。素人でも打てる簡単な注射。右腕に打つだけよ」
「クッ……」
ミャンは下唇を噛む。加藤はミャンに指示を出す。
「ミャン、お前はカオルさんを探しに行け! 俺は奥の部屋で蛇女とケリをつける!」
ミャンは頷いた後、椅子に座る女の胸をコルトパイソンで撃ち抜き、走って行った。加藤は女の方を見る。女は胸を抑えている。血が出ている!
「ウソ……でしょ? こんな簡単に……」
女は人形ではなかったようだ。
「アオ……ダイショウ。それが私の名前……時間稼ぎすらできなかった。ボスは奥よ」
加藤は女に言った。
「死は突然訪れる。俺も突然死んだ。安心してたんだ。別の言い方なら油断してたんだ。はあ……お前もかわいそうだな」
アオダイショウはそのまま死んだ。
加藤は奥の扉を開けた。広い部屋がそこにはあった。舞踏会をやるような、広い空間。パーティーに使う部屋だろうか。女が向こうから歩いてやって来た。右目に眼帯をつけた紫のロングヘアの女が来た。左目も紫色だ。
「お前がスネーククイーンか?」
「そうよ。まさか、アオダイショウとマムシが1秒も時間稼ぎできないだなんて」
加藤は銃を取り出し素早く撃った! しかし、スネーククイーンは放たれた弾丸全弾を素手で掴み取った。
左手を開くとボロボロと銃弾が落ちた。
「やるねぇ。そうじゃねえとな」
加藤は刀を抜いた。スネーククイーンも背中から剣を抜く。紫色でポタポタと何かが垂れている。
「マムシと同じ刀か?」
「少し違う。これは毒液を纏った日本刀。元はあなたと同じ刀よ」
「いいか。日本刀は素で最強なんだ。下手に加工しやがって」
「なら試してみる? あなたのその刀で」
「もちろんだ」
2人は構え、歩み寄る。




