第十話 キャラ崩壊
「よし、この距離なら十分狙える」
男がスナイパーライフルをアタッシュケースから取り出す。部下達はそれを見ていた。
「先生、どうして加藤春樹は殺さないのですか?」
先生と呼ばれた男はスナイパーライフルにスコープを取り付けて言う。
「神だよ。神が言ったのです。これから殺す男は我らに何の害もないように思える。しかしながらコイツを殺せば全てが動くと神は言われた」
「お言葉ですが、卑劣な加藤春樹は昨日我らの信者を大勢殺しました。奴に罰を与えねばならないと思います!」
「謀りだね」
信者はみんな声を揃えて
「たーばーかーりー?」
と言った。
「そう、謀り。魔王の仕業だ。魔王の手下は私達を惑わし、真の異教徒の敵を隠すため我らの家族を殺した。だが、死と言っても肉体の死だ。魂はまだ生きているよ。だから加藤春樹に囚われる必要はない。もちろん、神からの言葉があれば彼も殺すが」
「なるほど。愚かな魔王の手下め。先生を騙して、世界の敵を隠し通せると思うなよ!」
加藤春樹はもちろんのことウッドも世界の敵などではない。むしろ加藤はこの教団のクエストを達成したのだから協力者だ。
しかし、この教団のリーダー、インダ・コイズミは勧誘を断った者を許さない。
インダが標的にしているのはウッドとミャン。この2人を殺せば精神的苦痛を与えられると考えている。
インダは構えた。標的までは200メートルほど離れている。
「スナイパーに求められるのは忍耐力。正確さ。冷静さ。冷酷さ。才能。そしてスナイパーは標的を確実に仕留めるため日々の特訓はもちろんのこと暗殺予定地の下見などもしなければなりません。射撃の時は風なども考えて狙います。一撃で殺しては面白くありません。肺が一番苦しい。肺だけじゃない、手足を何度も狙撃するのも興がある。そして、自分を信じて引き金を引くのですが、スナイパーは最後に何が必要だと思いますか?」
インダは引き金を引く。標的の肺に直撃した。
「それは運」
信者達は拍手する。みんな笑顔だ。
「これで、世界は崩壊から一歩遠のき、救済へと大きく前進しました。今、加藤春樹を撃退しましたが、ミャンに逃げられました。みなさん、透明作戦は失敗しましたので、私の銃を支給します。しくじらないでくださいね。加藤の目の前で殺すのです。イタズラするのも興があります。加藤は半殺しです。その後、私の元に連れてきなさい。実験に利用します。全ては救済のため」
「全ては救済のため!」
信者達が復唱した。ものすごい熱意だ。
「ミャン、終わりそうか?」
「弾は取り出した。後は傷を治すだけだよ」
ハッチを抜けた先は路地裏、ここで怪我を治していた。もうすぐで完治というところで奴らが来た!
「突撃ー!」
「救済! 救済! 救済! 救済!………………!」
「チッ!」
加藤は銃を握ろうとする。
「ダメ! 怪我がひどいから。動かないで」
教団員はミャンの手を握る!
「こっちに来い! 遊んでやる!」
「やめろーー!」
加藤は叫ぶがバッドで頭を殴られる! ミャンは強く手を握られている。男は押し倒そうとする。
「ヘッヘッヘ。一番乗りー」
ズドォーーン!
とんでもない銃声と一緒に肉が弾ける音が! 教団員の腕は吹っ飛んで木っ端微塵! ミャンが片手に握るのはコルトパイソン!
マグナムの反動は相当強い! それにミャンは正しい衝撃の受け流し方など知らない。みようみまねに撃ってみただけだ。普通の女性ならマグナムを片手で撃つものなら骨折は免れないのだろうが、ミャンは違った。父親から受け継がれた最強ガンマンの血が覚醒した!
「ハイにしてあげる」
ミャンは腕を失った男の股間に銃口を向ける。
「やめてくれ……それだけは……」
周りの信者達も混乱している。見ているだけだ。
「じゃあミャンに何しようとしたか教えてくれる?
そのナニで……アーハッハッハッハッハー!」
「な、なにも、すいません」
ズドォーーン!
「ギャアアアアアアアアアアア!」
ミャンは最狂に頭がおかしくなったかのようにして笑う! 撃たれた信者の断末魔がこれまた大きい。信者達はビビっている。信者の1人が言った。
「あ、お前ら! これは謀りだ! ここで殺されても神が俺達を救ってくれるのだ! 銃を構えろ!
ウギャアーーーーーーーー!」
信者の目に何か刺さった! クナイだ! クナイを使いこなすのも難しい! だが、ミャンは天才だった。殺しの。ミャンはウッドの家からこっそり色んな武器を持ち出していた。
「あら、よく泣くお猿さんね」
ビュッととんでもない速さで踏み込んでミャンは泣き叫ぶ男の首を日本刀で刎ねた!
「撃てえー!」
敵はピストルを撃った! だがミャンがいない!
「どこだ?」
「ここよ!」
ミャンは高く飛んだのだ! 2メートルは飛んでいる! 着地と同時に回転斬りを放ち一気に5人の首を刎ねた! 恐ろしい怪力と戦いのセンス! 血が噴水のように噴き出て、それをミャンは空を仰いで浴びる。その顔は、自由を謳歌する喜びの表情をしている。
ミャンは幸せを感じた。
バッドを持った大柄な男が突進して来た。
「パ、パワーなら負けない! うおおあああ!」
シャーン! ミャンはとても低い体勢で奴の両足を斬った!
「あなたはあとで遊んであげる」
そう言って残りの敵の元へ飛んだ! 信者がいくら撃っても当たることはなあ。次々と斬った! 逃げ出す信者もいたが、逃がさない。遠距離でも当ててやる。マグナム弾が信者達の背骨を打ち砕く!
「ただいまー」
足を切断された大柄な信者に笑顔で話しかける。
「ねえ、二度とマスをかけない体と二度と口をきけない体。どっちが欲しい?」
「えっ。なにをするつもりだ。俺を痛ぶってもなにも変わらんぞ!」
「うんうん。『二度と口をきけない体』ね。そりゃそうよね! 男の子だもん。マスはかきたいもんね!」
ミャンは男の顎の方を持ち、無理矢理口を開ける!
「はあっはあっはめろ! うぁめてててー!」
「ごめん。なに言ってるか分からない」
ミャンはクナイを取り出しそいつの舌に刺してやる。まるで図画工作を楽しむ小学生のようなワクワクした表情で抜いては刺してを繰り返し、うまく刺さった時、ギコギコとゆっくりと、舌を切った。血が大量に湧き出した!
「ぁっぁっんっんっぁっぁっ」
声が途切れた。
「まだ足りないわね。そうだ。顎の関節も切っちゃいましょう!」
男は必死に抵抗して腕を動かす!
「ウザい手ね。そうだ。こんなのも持って来たの!」
男は泣いている。血が口から止まらない。足からも出ている。どんどん衰弱している。しかしミャンのお楽しみはここからが本番だ。
「ある本で読んだのよ! 爆竹を広げた手のひらの上で爆発させると火傷するだけだけど、爆竹を握って、その爆竹が爆発したらどうなるかって。その本には手が破裂するってあったわ。ずっと誇張された表現だと思ってたから今実験できるのが嬉しいわ!」
ミャンは爆竹も持ち出していた!
気絶している加藤のポケットからライターを取り出す。男は手を引っ込めようと必死だ。
「世紀の実験の邪魔をしないで!」
両腕をクナイで固定したら実験開始!
爆竹に火をつけてすぐ手に握らせる。握り拳を踏んづけて手を開かないように固定!
バンバンッバンバババンッバンッ!
爆竹がいい音で爆発する。男が必死に暴れる。だがミャンは決して足を離さない。肉片、そして指が跳ねて飛んだ。
「ポップコーンみたいね。どこまで跳ねるのかしら。あつっ! ひどい! 火花が飛んだじゃない! ちゃんと握りなさいよっ!」
そう言ってミャンは思いっきり足に力を入れた!
グシャッという音と共に握り拳は潰れ爆竹も消えた。
「ヘヘヘッ潰しちゃった。失敗は成功のもと! 次の実験は爆竹を口に? それともおしりに? どうしよう?」
「そこまでだ。小娘。俺が相手しよう。まさかお前にそれほどの力が……その強さと残忍性は父親ゆずりだな」
「おじちゃん、パパはすごい優しい人なの。ミャンとは違う」
「まず自己紹介しよう。俺はインダ・コイズミ。神とお喋りができるんだ」
インダは眼鏡をクイッとかけ直す。
スッと背中から小刀を取り出す。
「さあ……来なさい! あなたの暴力を私にぶつけるのです!」
インダは最強の小刀使い。短い小刀は繊細な動きがしやすく、相手の攻撃を滑らかに返す。相手の攻撃が強ければ強いほどインダはその技を返す自信があった。
つまり、この勝負、ミャンに勝ち目はない!ミャンは爆発的な踏み込みで間合いに入る。
インダは思う。
(素人らしい大きな振りかぶり。あまりに典型的な攻撃。私の奥義を使うまでもない)
インダはミャンの攻撃を受け止める! そこからどんな返し技を打とうか考えたインダは、自分の右腕が切断されたことに気が付いた!
なんとインダの刀はミャンの一撃に耐えきれずに折れた! そのまま攻撃はインダの右手に振り下ろさたた! インダは大きく下がり、悲鳴をあげる!
「あああああ! ぼ、ぼくの右手がぁーーーーー!血! 血が出てる! 血が出てるよ!」
ミャンはあきれた顔をして
「情けないわね。言っとくけどアンタは楽には死なせない。これから地獄より苦しいコースを堪能しなさい!」
ミャンは間合いに近づく!次は左手を狙う!
「ひっひぃーーー!」
シュルルルルシュパッ!
インダの右腕の切断面から新たな触手のような腕が生え、それがミャンの首を捕まえた! インダはミャンを持ち上げて少し力を入れて苦しめる。
「この世界で生きたいなら、他人を普通の人間と思わないことだ。俺のように魔力を使うものだっているのだから。ハハハハハハア!」
スパッ!
ミャンの落とした刀を拾って加藤がインダの右腕を切り落とし、胸を突いて吹き飛ばす! 日本刀の達人の速さは尋常でない。
「春樹くん!」
ミャンにいつものかわいらしい笑顔が戻った!
加藤は頭から血を流しているが、ミャンの治療の甲斐もあり動けるようになった。
「お前ずいぶん暴れたな。フッ……俺とお前、相性抜群じゃねえか」
「そんなことないもん。ミャン、春樹くんみたいな酷いこと……少しはしたけどあれは仕方なかったもん!あっ! 日本刀貸して! ミャン強いから!」
「これにしろ。俺が自刃用にともらった小刀だ。出刃包丁より少し長いくらいかな。お前のセンスならどんな武器も使いこなせるだろ」
「うん。ミャン頑張るよ」
インダは起き上がった。右手だけじゃなく左手も長いムチのように伸びている。
「この際、神とかどうでもいい! お前ら2人とも絶対に殺す! ヘヘヘッ。殺す! 殺す!」
インダは激怒していた。加藤、ミャンは並んだ。呼吸を合わせる。
決戦が始まる!




