第七話 美食と美酒と脅威
哀れな男が無理矢理目を開かされて、怪しい液体の入ったボトルを向けられる。
「俺は容赦しねえ! この液体でお前の目はどうなると思う? 戻ると言え!」
「嫌だー! 教団なんかに2度と戻るものか! 俺を閉じ込めて酷いことをするつもりだ!」
「んなこと知るか! 俺はお前を連れ戻せと言われているだけだ。それに、目の1個や2個、指の一本や二本好きにしてくれだとさ」
加藤はボトルを押そうとする。
液体が目に入ったらどうなるのだろうか。
そんな感情が頭の中でめぐるめぐる。この感情を恐怖と呼ぶのだろう。この男に恐怖に耐える気力はない。
「ヒーーーーッ。分かりました。戻ります。教団の教えにはもう逆らいません」
「よし! この書類にサインして。俺と共に来てもらおう! さあ、おうちにおかえり!」
加藤は教団に男を引き渡し、金を受け取った。加藤とミャンも強く勧誘を受けたが強く断った。
帰り道、ミャンに加藤は話しかけた。
「どうだ。お前の言った通りにしたぞ! 誰もイジメなかった。しかし、ボトルに入ったのはただの水だってんのになあー」
加藤は大笑いした。
まるで悪魔のような男にミャンは優しく言う。
「ミャンはね、春樹くんの力は正義のために使うべきだと思うの。人を傷つけないのも大事だけど、あんなの酷いよ。加藤くん強いからきっと人にも優しくできると思う」
「正義ねー。考えてみるよ」
加藤はガラでもないことをやっている。
わざわざ自分の仕事に反対する女の声を聞き、改善しようと努力しているのだ。
こんなことをしているのは、助けてもらったからだ。魔物に殺されかけた自分の傷を治してくれたミャンの言うことはできる限り聞いてやりたいと加藤は思っている。
「ねえ、春樹くんは異世界から来たってママが言ってたけど、春樹くんはなんで死んだの?」
突然話を大きく変えてミャンは聞いた。
その顔はマジメだ。
「話すと長くなるが……まあ、大事なビジネスパートナーだからな。話すとしよう」
加藤はあらかた話した。
親友から助けを求められたこと。裏切られて死んだこと。親友の恋人は魔王が誘拐した。加藤がここに来た目的は魔王を殺し、親友の女を救うこと。
「魔王を倒す……パパも同じこと言ってたんだ。パパはママと冒険して結婚した」
「なるほど、やはり目的は一緒。てことは、何か共通点があるかもな」
「あっ! そうだ!」
ミャンは何か思いついたようだ。
「ミャンのパパと一緒に冒険してた仲間の1人がやっている飲み屋さんがあるんだけど行く? 何か役に立つ話が聞けるかもよ!」
次の日の昼、2人は例の店に足を運んだ。
「何にしやす?」
「とりあえず生で」
「なんだいそりゃ? うちには置いとらん」
「ありゃ、異世界には絶対とりあえず生があると聞いたが、おかしいな」
「異世界? 何言ってんだお客さん、頭おかしくなったのかい? で、茶番は終わりだ。ミャンちゃんを連れて異世界発言……なるほど」
「おじさん、この人も転生者なの!」
加藤はマスターの目を見る。強そうだ。
「マスター、話の前に喉が渇いた。なんでもいいから飲ませてくれ」
「あのう……」
ミャンが恥ずかしそうに手をあげて
「お手洗いをお借りしたくて。その」
マスターは指を差して、
「向こうだ。はやく行きな」
店内はとても賑わっている。
客が多い。西部劇みたいにみんな酒を飲み、テーブルでトランプをしている奴らもいる。恐らくギャンブルだろうか。
マスターは何かをジョッキに注いでカウンターに置いた。
「ほら、お前の飲みたかったやつだ」
「ビール? 嘘だろ」
「嘘じゃねえ。俺はカオルとその旦那とずっと冒険していた。お前らのいた世界についていろいろ聞いた。俺はやつから多くのことを学んだ。ビールだって作れるようになった。飲めよ」
ゴクゴクゴク……いつぶりのビールだろう。
うまい! 水を飲もうと紅茶を飲もうと潤わなかった喉がようやく渇きから解放された。そんな気がするくらいビールを飲んだ時の解放感は凄まじかった。
「つまみだ。肉を煮込んだんだ」
はふっはふ、しゅるり。
肉汁と共に濃い味付けが口の中に広がる。噛めば噛むほどうまい。
「これだ。これだよマスター! 俺が食いたかったのは! 最高だ!」
マスターは笑い、また何か用意している。
バン! 店のスイングドア。西部劇でよく観る扉を勢いよく開けてズラズラと男達が入ってきた。
加藤は無視して酒を飲む。そこへ女がやって来た。
「隣、いいかい?」
了承を得ず、勝手に座る。
「誰だ?」
「スネーククイーン、人はそう呼ぶ。この店も久しぶりね。ウッド。席を外して」
「ああ」
マスターは店の奥へと入って行った。
スネーククイーンと名乗った女、黒髪のショートへア。聞いた話と違う。加藤はそれに気づいて、
「ずいぶん噂と見た目が違うな」
女は笑って、
「これは人形よ。犯罪者の私が素顔で外を出歩けると思って?ところで、今日はあなたをブラックマンバにスカウトしようと思って来たのよ」
「お断りだな」
加藤が断ると加藤の背後に男達がやって来た。
4メートルほど離れた距離に4.5人ほどいる。全員青の無地の服を着ている。頭は坊主。
「うっ。うっ……」
「てめえ!」
奴らはミャンを人質にしていた。ミャンの首にはナイフがあてられている。
眼鏡をかけた男が笑顔で話し始めた。
「一緒に救済しませんか。共に家族になって。あなたが魔王退治を望むと聞いて来たんです。神の力があれば魔王も倒せる。さあ、我ら教団に入りましょう!」
奴らはブラックマンバじゃなかった!
運悪くブラックマンバと教団が同時に来た。
ミャンは口を抑えられ、喉笛にナイフを向けられ泣きそうだ。客は凍り付いていて、ナイフを見て悲鳴を上げる者もいる。
「我らは運命を感じているんです。教団で共に励みましょう! あなたには素質があります」
加藤は立ち上がって
ダン! ドン! ジャン! キャウイーーーン!
やることは最初から決まっている。加藤は躊躇なく教団員達を撃った! 4人の教団員は一瞬で倒れた!
「おい、お前も倒れることねえだろ」
ミャンも倒れていた。
「撃たれちゃったのかと思ったの。ありがとう」
ミャンは涙を流しながら笑顔で立ち上がった。
スネーククイーンの人形は
「やるじゃない。素晴らしいわ!」
と言って何かを加藤に吹いた!
毒針だ! 加藤は左手の人差し指と中指の間で毒針を受け止める!
すかさずリボルバーで反撃した! 銃弾は頭に当たり、人形は倒れた。
「あなた、本当にすごいわ。でもまだ終わらない」
そう言って人形は消えた。
その瞬間、客全員が立ち上がって加藤を見た。中には剣を抜く物、杖を握る物もいる。
「そのおもちゃが撃たれたら始末しろとの命令だ。加藤春樹! ブラックマンバの恐ろしさ。教えてやる。生きて帰れると思うな!」
客全員が敵だとは。加藤は刀を抜いた。この人数相手にはこれしかない。
ミャンが叫ぶ。
「ダメ! ブラックマンバの人達、強いスキルを持ってるの! 逃げよう!」
「どこに逃げるって言うんだい?」
加藤は笑っている。
「春樹くん……まさか、楽しんでるの?」
ドゴン! と大きな銃声がなった!
「俺の店で暴れる奴は頭吹き飛ばすぞ!」
マスターが大きな銃を持って現れた! しばらくの沈黙の後、ブラックマンバは互いの顔を見合わせて、
「チッ。行くぞ!」
ブラックマンバ達は店を出て行った。
「マスター、その銃」
マスターは銃を自慢げに見せて
「ショットガンだ! ダブルバレルショットガンって言うんだ! これについては後で話す。ついて来い!お前らに見せたい物がある。」
マスターは店の奥へ2人を案内する。
「俺のことはウッドと呼べ。」
細長い道を歩くとウッドは鍵のかかった扉を開ける。階段が下へ続いている。下った先にあった部屋に入った。
「ここだ。驚いたかい?」
加藤とミャンは部屋を見渡した。壁一面に銃がかけてある。デザートイーグル、コルトパイソン、ショットガン、ライフル、マシンガン、バズーカなんでもあり。棚には銃弾がずらり。
「わあ。おじさんお金持ち。フフッ」
ミャンは笑った。ウッドもミャンを見て笑い
「金で買ったんじゃないけどな。全部お前の父ちゃんからもらった物だ」
「パパはどうやってこれを持って来たのかな?」
「あいつは死んだ時、持っていきたい物を聞かれたらしい。その時、自分の部屋を頼んだんだ」
加藤はコレクションを眺めた後、ひとつだけ大きなガラスのショーケースに入れられた銃を見つめた。
「ヘヘヘっお前それが気になるのか。その銃は最強の銃だ。第三次世界大戦まで取っておけと奴が言ってた。第三次世界大戦が何かなんて知らねえけどな。
アッハハハハハ!」
加藤はこの銃に既視感を感じた。いつか観た銃にそっくりだ。そうだ。いかれた夫婦がこの銃で化け物を殺すんだ。そんな映画があったような。
「この銃なら竜も殺せそうだな」
「実際使ったことはねえが強いのは間違いねえ」
「ところで、お前はショットガンが好きなのか?」
「おうよ。デカイし、音もいい。FPSだと上半身なら一撃だってな。FPSが何か俺は知らんが、一撃という言葉に惹かれちまってな」
加藤は一息ついて、
「正論を言わせてもらうがFPSはゲームだ……空想の話だ。実際のショットガンとは異なる。」
「……」
「本物はどこでも即死! それがショットガンだ!」
「ハハハ! なるほど。聞けてよかったぜ! 人に撃ったことはねえがやっぱり最強だな」
ウッドは喜んで手を出す。パシッと手を取って2人は強く握手する。加藤はミャンの方を細い目をして向く。
「使う機会はすぐ来る。ミャン、しゃがめ」
「えっ」
ミャンがしゃがむとドゴン! とウッドは一発放った!
「何するんですかー!」
「後ろ見ろ……お客様だ。閉店のお知らせ、まだ扉に付けてなかった。いけねえいけねえ」
後ろを見るとバチバチと火花が散っている。火花は収まりやがて人の体が出できた。
「なにこれ……キャーー!背中に血が付いちゃったよう。ひどいひどい……グスン」
ウッドは答えてやる。
「透明化だ。恐らく何人かもうこの店に入っている。どこの誰かは知らんが……」
「ブラックマンバか?」
「ありえねえ。それに、スネーククイーンは俺達の冒険仲間だったんだぜ」
「え?」
加藤は動揺を隠せない。
「かつての同胞を狙うはずがない。さっき、ブラックマンバが帰って行ったのは俺がいたからだ」
カタカタ……銃が浮いた! 引き金が引かれた!
しかし銃弾が飛び出さない。
「しまった! ん? アイツ銃の撃ち方分かってねえぞ。ウッド教えてやれ!」
ドゴオーン!
「グギャーー!」
血と火花が散らばった!
「ヘッ、ショットガンってこんなに人の体をグチャグチャにしてしまうんだな。一発で破裂だ。」
ウッドはゾクゾクしている。
ミャンは腰を抜かした。リボルバーと違う勢いの噴き出る血の量にビビりすぎて失禁しそうだ。
「いいか。いくら透明とはいえ動いた時違和感がある。完璧に隠れられない。頑張ってみんなで奴らの居場所を特定するんだ。ミャン、今回はお前にも戦ってもらう。日本刀だ。透明野郎を見つけたら刺せ。それだけで十分だ。よし、上へ行くぞ」
「うええーん。ミャン、人殺さないよー」
ミャンを無視して2人とも階段を登る。ミャンもいやいや階段に登る。階段に登る途中ウッドが加藤に
「受け取れ」
リボルバーとガンホルダーだ。
「これで二丁拳銃だ」
「ありがとう……は?」
加藤は違和感を感じた。加藤のと全く同じ銃だ! この銃はオーダーメイド、この世に二丁しかない。持っているのは加藤と純だけのはずだが。
聞く暇もなく戦場である店に出た。すぐに3人ほど襲って来た! 足音がする!
バンガンバンガンバンガン!
二丁拳銃、それは最速、最強。近距離においてこれを上回る銃はない。
加藤、ウッド、ミャンは互いに背中を守りながら円になる。ミャンは震えている。
どんなに強いライオンもヌーの群れの中で一番弱っている者を狙う。自然なことだ。加藤はミャンの弱さをこれ以上見せつけないようにと
「おいミャン、落ち着け! 敵は立ち止まってバレないようにして機会を狙っている。隙を作るな!」
「そんなこと言われても……そうだ! わ、悪い人のみなさん、ミャンはとても強いの! 狙ったらお怪我するよ! 来ないでね。し、しししっこくの炎がドカーーーンって! すごいんだから!」
ミャンの様子を見て、敵はミャンをまず消すことを決めた。一斉に、呼吸を合わせて……




