episode.08
「祭りかあ」
「たまには行ってみたらどうだい?騎士団員とも仲良くしているんだろう?」
「…仲良く、と言うほどじゃ」
この日、森の魔女ハルの元を訪ねて来たセルソは、近々街で祭り事があるよと言う土産話を持ってきた。
普通の日でも街になんて滅多に行かないのに、ハルが祭りなんて行くはずが無いと知っていながら、セルソは何かとハルを外の世界へと連れ出そうとする。
「祭りは稼ぎ時だからね。発光石は多めに貰っていくよ、夜道で役立つんだ」
「どうぞ」
「そうだハル。君に良いものをあげるよ。はいこれ、セルソ兄さんからのプレゼントだ」
持って来ていた荷物をガサガサと漁って、何やら風呂敷に包まれたものを手渡された。
プレゼントと言うのだからお金はいらないのだろう。
「…セルソ兄さん。天国で元気にしてるかな」
「殺すな、ここで元気にしてるよ。そんな冗談を言うようになったのか」
言いながら包みを開けると、贈り物は1着のワンピースだった。
丈は長めで、シンプルだけどレースがあしらわれていて可愛らしいデザインだった。
可愛らしい………そう、ハルには縁もゆかりもない。
「贈る相手間違えてない?」
「他に贈り物をする相手が?悪かったないなくて」
つまりセルソには妹も恋人も居ないという話だ。
「ご愁傷様」
「はいはい。似合うと思うけどね。それ来て祭りに出向いてみるのはどうだろう?」
「…………」
「どうも腰が重いねハルは。まあ、気が向いたら来ると良いよ。広場では夕方から騎士団の剣術大会もあるし、知ってる人もいるんじゃないか?」
「…剣術」
何気なしに繰り返したハルだったが、セルソは興味を持ったかと満足そうに笑っていた。
「よーし。それじゃあ俺も広場に陣取る事にするかな」
セルソはでっかい声の独り言を残して去って行った。
⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎
祭り、人混み、馬車、荷車………。
嫌だと思うどれと天秤にかけても剣術大会が勝る。
セルソが余計な話をしていってから今日まで、ハルは悶々と日々を過ごしている。
もし剣術大会に副団長が出るのであれば、いつか見たいと思ったあの重そうな刀剣を振るう姿を見られるかも知れない。
だが場所は祭りの広場と来た。気が乗らない。
……………見たい。
「んあーーー…」
祭りに行くか行かないかなど、過去のハルであれば行かない一択だったので、そもそもこんな事で悩んでいる時点でちょっとおかしい。
「こんっちわー!ハル殿ー!」
答えの出ないまま草取りをしていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
騎士兵が物を取りに来たようだ。因みに今日は1番接しやすいオリンドが来た。
騎士団からの依頼はやはり回復薬とか傷薬とかそんな物が多い。
「オリンドは明日はお祭り行くの?」
「行くというか、警備ですね。揉め事とか迷子とか、こういう時は特に起こりやすいですから」
どこの世界でも同じか。苦手な理由の一つだ。行かないに一票。
「……あ、のさ。広場で剣術大会があるって、聞いたんだけど」
「ああ!ありますよ!結構盛り上がるんです!俺もガキの時にそれ見て騎士目指したんすよ」
盛り上がる=人が集まる。行かないにもう一票。
「北門配属の人はみんな出るの?それ」
「みんなでは無いですね」
全員じゃないのか!ならば副団長が出なければ祭りに行く必要もないじゃないか。
「副団長は?」
「あははっ!それは副団長ですからーー」
出ないか、さすがにね。忙しいだろうしね。
「出ますよ!大トリですね!!」
ハルはぐっと歯を食いしばった。勢いで行くに30票入れそうになる。
「ハル殿が来たら、きっとみんな喜びますよ」
「なんで?」
「なんでってそりゃあ、みんな会いたがってますから」
自分に会いたがっているなど信じられるはずも無い。オリンドの冗談だと受け流す事にした。




