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episode.17



「ちょわっ………!ふ、副団長!?!?」


「なんだ」


「なんだじゃないです!おろしてください!!」


「図々しいぞ。いつまで待たせる気だ?このまま連れ帰ってやろうか?」


「そ、そんな人攫いみたいな事を言わないでください!」


じたばたと暴れてみるもびくともしない。

 

現在ハルは玄関先でレイに抱き抱えられている。お姫様抱っことやらだ。


そう、お姫様抱っこ!


魔女がお姫様抱っこなど、おこがましすぎる。早く降ろしてほしいのだが、どうやらレイはお怒りのようで全く離してくれない。


森を出るか否か、2週間近く答えを渋っていたらとうとうレイの堪忍袋の緒が切れた。


今朝訪ねてきたレイに挨拶よりも先に「どうする?」と問われたハルは「はは…」なんて乾いた笑いを返したばっかりにこんな事になっている。


「ちょ!本当、重いですから!!」


「お前がきちんと重ければ、一緒に住もうなどとは言わなかったかもしれないな」


「た、体重は教えた事ないです!!!」


「そんなものは見ればわかる」


そんなバカな。ハルはレイの体を見たってレイが何キロあるのかなんてちっとも分からない。


今そんな事はどうでも良いか。とにかく早く降ろして貰わないと!!


「おやまぁ、仲が良いねえ」


「!?お、おばあさん!!!」


なんとついてない日なんだろうか。タイミング悪くやって来たのはこの森の麓に住むおばあさんだった。


腰痛の薬が、薬屋よりもハルの魔法の薬の方が体に合うと言って定期的に買ってくれるのだ。


そういえばそろそろかなと思っていたところだった。


おばあさんはにこやかにこちらを見ているが、ハルはもう気が気ではない。


「噂は聞いていたんだよ、ハルちゃんがもうすぐ嫁ぐって」


「違うの!違うのよおばあさん!!!副団長、はやくおろして!」


この際、落ちてもいいやと腹を括って持てる限りの体力で大暴れしたら流石に降ろしてくれた。


「あああ、あのね、おばあさん!これは本当にそういうのじゃなくて!嫁ぐとかもただの噂だから!」


「嫁がないのかい?」


「まずは一緒に住まないかと話しているところだ」


「!?!? 副団長!そんな誤解を生む言い方はやめてください!!」


色恋に無縁なハルは居ても立っても居られない。一刻も早くこの話題を切り上げたいのに、レイが余計な事を言う。


「この老ぼれが朽ちる前に、ハルちゃんの幸せを見届けられるといいのだけれどね。そうしたら先代にいい土産話になるだろう?」


「そう遅くはならない」


「〜〜〜〜〜っ!!!」


話せば話すほどハルの顔には熱がこもっていくので、はやくおばあさんの薬を用意してしまおうとバタバタと家の中に駆け込んだ。


あれやこれやと用意をしているうちにレイが家に入って来ていた。


「あれ?おばあさんは………」


てっきり薬を取りに来たと思っていたのだけれど帰ってしまったのだろうかとレイに尋ねた。


「リディオが相手をしている。」


「そうでしたか」


森の中で気ままに暮らしているリディオは、何もなければ神出鬼没だ。たまにお客さんを乗せて森を抜ける事もあるから、もしかしたら今日もそのつもりなのかもしれない。


籠に飲み薬と貼り薬を入れて、ハルはおばあさんの元に戻った。


「おまたせしました、おばあさん」


「ありがとう、ハルちゃん」


「いえ!」


『あの、主人様。おばあさんこの後、山菜採りをしながら戻るそうで、ご一緒して来ます』


「分かった。じゃあおばあさん、リディオの事よろしくお願いします」


「お願いするのはむしろこちらの方だよ」


リディオは人の世界の事をよく知りたいようで、その興味は常に絶えない。


何も言わずともおばあさんの荷物を持ってあげる辺り、優しい男の子だ。


「話はまだ終わっていないぞ」


「うぎゃっ!」


穏やかな風に身を任せていたのに、突然に頭を鷲掴みにされて強制送還された。


バタンと玄関の扉を閉められてしまっては逃げ場もない。


「ち、朝食は食べました?」


「ああ」


「私も食べましたよ!」


「そうか」


「……………」


まるで意味のない会話だ。これ以上、答えを先延ばしには出来ないようだ。


「ああ、の…あのですね、副団長…」


「なんだ」


「あの、副団長がここに住むと言うのは、やはりどう考えても現実的では無い…と思うんです………」


「ではお前が来るしか無いな」


「で、でもですね!でもです!それでは副団長のご迷惑になるので、ですね……だから、その…」


「なんだ」


今から告げる代替案が受け入れられる可能性は何%だろうか。魔女の魔法では分かりかねる事だった。


ええいと覚悟を決めて、大きく息を吸った。


「副団長のお屋敷では無く、北の砦門の中に部屋をいただければいいかな、と…。以前のように…騎士団のみんなと……」


「だめだ」


即答!!なんでだ!!


代替案を却下されてどうしようかと頭を悩ませていると、レイが口を開いた。


「はあ…。そんなに嫌か?俺の家では」


「い、嫌…というか……噂のことも、ありますし…ご迷惑かと………」


森の魔女と騎士団の副団長が婚約をしている


そんな事を言われてレイが迷惑をしていない訳がない。それに加えて更に一緒だなんて…。


「俺がそれを、好都合だと思っていると言ったら、お前はどうする」


「はい?」


ハルはぽかんとして、それはそれは間抜けな顔になっていたに違いない。


レイの顔色を伺おうにもさっぱり分からなかった。


「あの、意味が、よく……?」


「そうだな。では分かりやすく言おう」


レイの真剣な表情を、ハルは口を半開きにしたまま見上げていた。


「俺はこのままお前を落として、結婚しようかと思っている」


「………………………は?」


意味が分からなかった。






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