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episode.16



「お前、俺の屋敷に住まないか?」


ゲッホゲッホと色気も無くむせて、やっとの思いで落ち着いて、それからハルはレイを見た。


「……はい?」


「俺の屋敷に来い」


「な…なんで急にそんな話に…?」


「お前は放っておけば食事は摂らないし眠らない。倒れられたら困る。どうするんだ?万が一1人の時に倒れでもしたら」


ああー、とハルには思い当たる出来事があった。


「前に一度気を失って、目が覚めたら2日たってた事があります。へへへ」


その話を聞いて、レイの顔が鬼のようになったのは言うまでもない。


「やはり1人はだめだな」


「い、いやでも1回だけですよ」


「回数の問題ではない」


………まあそうですよね。


「で、でも…副団長のお屋敷にお邪魔するのはちょっと…。お、お客さんもいるので」


「ああ、それも問題だと思っている」


「………?」


「お前は客に生活を合わせすぎだ。真夜中に来る客なんて非常識だろ」


「街では頼みにくい品もありますからね…」


「なんだそれは」


「大人な薬とか」


大体そんなものを頼みに来るのは中肉中背の中年男と相場が決まっている。


「…作っているのか?」


「まあ、自分用でしたら。明らかに他者に飲ませようとしているのは断りますけど」


「どうやって区別するんだ」


「男女で効能が違いますから。男性が女性用を注文に来たら明らかです」


「……………」


レイは黙りこくっていた。きっとレイには不要なものだろうなと思う。


「必要ですか?」


「不要だ」


ほらね。


そんなに頭の痛くなる話をしたつもりは無かったのだが、レイはため息をつきながら自身のこめかみを押さえていた。


「とにかくうちに来い。仕事の時間とプライベートはきっちり分けなければだめだ」


「い、いやでも…」


「なんだ?」


「いや………」


邪魔ではないだろうか。迷惑ではないだろうか。こんな陰気で薄汚い魔女が、人様の家に住むなんて。


ハルが素直に頷くはずがないのは、レイも予想していた。この反応は想定内だ。全力で遠慮しているのが顔に出ている。


ならば交渉の手札を出そう。


「いやなら俺もここに住む」


「はい!?!?」


まさかレイがそんな事を言い出すとは思っていなかったハルは立ち上がる勢いで驚いた。いや、食事中だと言うのにちょっと立ち上がったくらいだ。


「な、何を言って……」


「まあ俺は仕事があるから昼間はどのみち留守にするだろうが、朝と夜だけでもお前が食事をとっているか見張れればそれで構わないし、夜中の客は恐らく、俺の顔を見れば去るだろう。先程何も頼まずに帰った客人は恐らくそういう依頼だったのだろうな」


「いやいやいやいやいや!こ、こんな狭い荒屋に副団長を住まわせられません!べっ、ベッドだって1つしかないし」


「ああそうだな。1つしかないな。」


「………!!!」


こっ……この色男め。年頃の女の子と寝台を共にすることに抵抗がないということか!?


どう考えても眠れるわけがない。客が来なくても結局眠れないではないか。


「俺の屋敷なら部屋も余っているし、もちろんベッドも別々だ。」


「…………っ」


「答えは2つに1つだぞ。お前が来るか、俺がここに住むか」


「し、食事をきちんと摂る約束で、これまで通りと言うのは…?」


「却下」


なぜだ!なぜこんな事になっているのか!?ああそうか、自分が食べるのをサボっていたせいか。


なんてこった。過去の自分を呪いたい。


魔法使いなのだから魔法で過去に戻ってやり直しなんて事が出来ればいいものを、そんな事は出来やしねぇ。


「り、リディオを置いて行くわけには………」


思いつきで言ってみたものの中々良い理由なのではないかと自分で自分に感心した。


「あいつは元々外で生きるものだから良いそうだ。まあ、必要ならあいつの部屋も用意しても良い」


「金持ちか!!!」


部屋どんだけ余ってるんだよと、思わず口から悪態が出てしまった。


「どうする?魔女殿」


その挑発的な顔は、ハルが何を答えるよりも前だと言うのに勝ちを確信しているようだ。


「か…考えさせてください…」


「良いだろう。俺としてはどちらでも構わん」


折角のスープの味が分からなくなりそうだった。




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