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episode.15



この家でレイと会うのは久しぶりな気がする。


「きちんと眠れているか?食事は?」


「………ははは」


「おい」


笑って誤魔化せるほど甘い人では無いと分かってはいるけれど、きっとどのみち怒られる未来しか残っていない。


「副団長は、その後大丈夫でしたか?」


「なにがだ?」


「良からぬ噂が広まって業務に支障が出ていないかと」


「問題ない」


そすか。と、ハルは目を擦った。


「お前、少し休め」


「………いえ、客足が落ち着いているうちにゴミ拾いを…」


「ゴミ拾い?」


「森に人の入りが多くなったので。私のせいで森を汚すわけにはいきませんから」


森が汚れるのはハルのせいでは無く、捨てて行く人間のせいなのだが、それを言ったところでハルは納得しないだろうとレイは悟った。


「ならば今日は俺とリディオで担う。お前は休め」


「え?いやいや、副団長にそんな事……」


「元を辿れば、あの日倒れた俺に責任がある」


「うーん………」


ハルは眠気で頭が回らなくなっていた。瞼もやたら重い。


「………では、少しだけ…」


眠気に抗えず、ハルは素直に甘えることにした。



⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎



レイはハルを残してリディオと共に外に出ていた。


「ハルは最近どんな様子で過ごしている?」


『そうですね。お客人が多い日は早朝から夜中まで不定期に訪ねてきますので、眠っていてもその度に起きていらっしゃるようです。』


「食事は?」


『私が人の姿でお遣いしている時はほとんど見ません。外で見張りをしている時に食べていらっしゃるのでは?』


リディオの話を聞いて、ハルはほとんど食事を口にしていないと確信した。


『旦那様と主人様は伴侶とは違うのですよね?主人様が客人に散々否定されておられます』


「ああ、そうだな」


『ではなぜ誓いのキスを?主人様の力の解放の条件も知らなかったようですし、好きあってもいないのになぜなのか疑問に思っていました』


それはレイを冷やかすためのものなどでは無く、あの日多くの民衆の前で見せたのと同じく、人の世の事を知ろうとする純粋な問いのようだった。


「唇を合わせる事の意味が、全て将来への誓いだとは限らないという事だ」


『………分かりません』


「俺は前回の灰息被害の救護対応の際、力量を誤って倒れた。彼女は俺に薬を飲ませるために唇を合わせたんだ」


『なるほど、そうでしたか。つまりそれだけの関係という事ですね』


そうなのだがそう言われるとムッとした。


どうしたものかな。隣に誰かがいるのはわずわらしいだけかと思っていたのに、ハルといても全くそう思わない。


「はぁ…。問題が多いな」


ハルは放っておけば食べない寝ない、無茶ばかりするし、悪い事は大体自分のせいだと思う癖がある。


『問題ですか?最近主人様も頭を抱える時間が増えました』


「眠いからじゃないのか?」


『それもあるかもしれませんが、何やら森の生態系が壊れるとかなんとか言ってます』


「……………」


人の入りが増えたからか。確かにゴミの量が多い。


『人間は、どの動物よりも知恵を授かった生き物だと言うのに、森を汚す事が悪い事だと分からないのでしょうか』


「もっともだな。ぐうの音も出ん」


レイはふと、とある事を思いついた。ハルは大いに反対するだろうが、レイにとっては妙案だ。


「なあリディオ」


『なんでしょう、旦那様』


「ハルが…お前らの主人はこの森にいなければいけないという決まりはあるのか?」


『ありません』


「ならば話は簡単だな。ハルがこの森を出ればいいだけだ」


『出てどちらへ?また騎士団の監視下におくのですか?』


「いいや、俺の屋敷だ。お前も来るといい」


『恋人でも無いのに、自分の屋敷に住ませるのですか』


子供だからとこちらが黙っていればこいつ、そういう事ばかり言ってくる。純粋そうな顔をして実は煽っているのではないかとすら思える。


「これからならないとは限らないだろう?」


リディオはきょとんとしていた。



⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎


いい香りがして、ハルは目覚めた。


食事の香りで目覚めるだなんて、いつぶりだろうか…。


「お母さん………」


「誰がだ」


「!?」


寝ぼけた独り言に返事が返ってきて、ハルはギョッと体を起こした。


「ふ、副団長…!?なんで………」


「心身ともに疲弊している魔女殿を1人残して帰れるわけがないだろう」


パチパチと瞬きをしながら振り返ってみると、そういえば今朝は副団長が訪ねてきて、休めと言われて眠すぎて寝たんだった。


今…何時だ………!?


ガバッと勢いよくベッドから出て小窓から外を覗いた。夕刻と呼ぶには遅いくらい外が暗くなっている。


寝過ぎた…。


「すみません、こんな時間まで寝てしまうとは…。起こしてくれれば、よかったのに………」


「疲れていたんだろう。休める時に休むべきだ」


「お客さん、来なかったですか?」


「4人来て、1人は俺の顔を見てなぜか青ざめて魔女は留守にしていると伝えたらそのまま帰っていった。他の依頼の内容はメモしてある。」


ハルは頭を抱えた。店番だなんて、副団長になんて事をさせてしまったのか。


「すみません………」


「気にするな。座れ、食事にしよう」


「はい………」


最悪な1日だ。自分は寝こけている間に、天下の副団長様に森のゴミ拾いと店番と、夕食まで作らせてしまった。


あとさっき起きた時、涎が垂れていた。見られていなければいいのだが。いびきの心配もある。でも聞けそうには無かった。


温かいものを食べるのが久しぶりな気がする。


「美味しいです」


「食事はきちんと摂れ。そんなに痩せてどうしたいんだ」


「ははは」


忙しいとつい時間を確保するために食事を省いてしまう。


1週間とちょっとで、そんなに明らかに痩せたと分かるほど痩せてはいないだろうと思うが、食べていない事には気づかれているらしい。


スープの味付けがちょうど良くて、レイが料理上手な事を知る。


「お前、俺の屋敷に住まないか?」


ゴフッとスープが喉につっかえたハルは豪快にむせた。







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