第12話 後のトレーディングカードである
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- 美濃(岐阜南部) -
- サイド 松永久秀 -
「賦役に反対!賦役に反対!」
ド・ド・ドコ・ドン!ど・ど・どこ・どん!
「賦役に反対!賦役に反対!」
ド・ド・ドコ・ドン!ど・ど・どこ・どん!
「賦役に反対!賦役に反対!」
ド・ド・ドコ・ドン!ど・ど・どこ・どん!
およそ1,000人を超える農民達が、声を揃え、大声で何度も繰り返し叫び太鼓を叩きながら、北へ北へ美濃の守護である土岐頼芸がいる大桑城へと進んでいる。なお、3メートル近い木の棒には「絶対反対」と書かれた木綿の幟旗が翻り、一部の農民は「守護無用」とか「豪華守護所不要」とか書かれた木の板を掲げていたりする。
ちなみにこの抗議のやり方や文字の入った幟や横断幕、どんどこ良く鳴る太鼓を用意したのは畝方元近だ。畝方元近曰く、音を打ち鳴らしながら、リズムよく文言を声を合わせて唱えるというのは、多くの人間に言葉を届けるための有効な手段である。寺でお経を読むとき木魚を打ち鳴らすのと同じことだと、実に爽やかな顔をして嗤っていたという。
「えげつなー」
ドンドコドンと鳴る太鼓の音に導かれるように集まってくる他領の農民達を、馬に牽かれたリアカ一から眺めながら松永久秀は笑う。尤も、土岐に自分達の窮状を訴えるため立ち上がるべしと近隣の農民達に触れて回るよう指示を出したのは松永久秀なのだが・・・。
「賦役に反対!賦役に反対!」
ド・ド・ドコ・ドン!ど・ど・どこ・どん!
「賦役に反対!賦役に反対!」
ド・ド・ドコ・ドン!ど・ど・どこ・どん!
北西の方から同じような声と太鼓の音が響いてくる。
「斎藤殿の領からも一揆・・・はあ?」
松永久秀はやって来る者の正体に気付き、目を見開き、漫画的な表現をするなら顎を落とす。やってきたのは、数百人程の胴鎧を着た兵士・・・中には手に三間(約五・四五メートル)の槍を持っている槍兵もいる。更に、斎藤氏の二頭波頭立波紋を染めた幟に氏家氏の左三つ巴紋を染めた幟。稲葉氏の折敷に三文字紋を染めた幟。伊賀氏の上り藤紋を染めた幟も見える。
つまり斎藤利政はこの一揆に稲葉良通、伊賀定重、氏家行隆の西美濃の有力国人を担ぎ出すことに成功したということだ。確かにこの一揆の真の目的は、土岐頼芸を美濃守護の座から引きずり降ろし、尾張(愛知西部)へと追放するのが目的だ。とはいえ太鼓を鳴らしながら有力国人の家紋を染め抜いた幟をかざして千数百人の人間が大桑城へと移動するというのは間抜けすぎる。
「代表者を集めてくれ。話し合いをしたい。一揆衆には事情説明のため休息を命じるように。目先を反らすのに唐芋を配給しても構わん」
「はっ」
松永久秀の周りにいた者達が小さく頭を下げ散っていく・・・。
「お初にお目にかかります。毛利家家臣で松永弾正久秀と申します」
そう言って松永久秀は懐から松永家の家紋である蔦が刻まれた印籠を取り出して蓋を取ると、中から三枚の銀色に輝く札を取り出し、稲葉良通、伊賀定重、氏家行隆の三人に差し出す。札の材質は純銀で、札の表には黒々とした字で松永弾正久秀の名前が、札の裏には茶釜狸の絵が刻印され緑茶の色で着色されている豪華な逸品である。
「松永殿。これは?」
三人と松永久秀が挨拶を終え、改めて伊賀定重が手渡された銀の札について尋ねてくる。
「これはうちの畝方が毛利領で流行らせている名刺というものです。見ての通り初対面の人に名前を覚えて貰うためのものです」
最初は紙の札だったのだが、誰かが耐久度が足りないとか言い出して、金属製の札も出回るようになったと、松永久秀は人懐こい顔をして笑う。
「ほう」「へぇ」「ふむ」
稲葉良通は興味ありげに、伊賀定重は表情を変えず、氏家行隆は訝し気に名刺を見る。
「毛利領でこれを見せれば、松永殿の知己ということで話が通り易くなるが、松永殿の名を騙るようなことをすれば胴が上下に跳ぶので注意されよ」
斎藤利政は懐から印籠を取り出し、中から材質は純金で表には黒々とした字で施薬院欧仙の名前が、札の裏には茶釜狸の絵が刻印され赤茶の色で着色されている札を取り出す。
「おお、斎藤殿は畝方殿の名刺をお持ちか」
斎藤利政が自慢気に取り出した名刺に施薬院欧仙の文字を目敏く見つけ、氏家行隆は感嘆の声を上げる。毛利家の家臣である畝方元近の名より、京で流行しかけた疱瘡を退治した施薬院欧仙の名の方が商人が広めて回った結果、物凄く有名である。
「いいだろ?これは畝方殿が配る名刺の中でも、宗教関係にしか配られることのない希少性の高い逸品でな、正直、この名刺の種類を増やすためだけに出家をしてもいいと思っているぐらいだ」
子供か!と突っ込まれても仕方がないほど目をキラキラさせながら斎藤利政は自慢する。なお、毛利家家臣や一部の商人の間では有名人の色々な名刺を集めるのが流行りつつあるという。
「・・・そろそろ大桑城攻略について少し話を整理しましょうか」
松永久秀は重い溜め息をついた後、氏家行隆と斎藤利政をジト目で睨むのであった。
コロナワクチン接種の三回目は免疫機能が物凄くハッスルしました・・・そう物凄く・・・




