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第36話 エピローグ

しばらく飛び続けた飛行船は、やがてブリジット王国の首都に着陸した。紫たちは宮殿に登城し、ブリジット女王ヴィクトリアに全ての経緯を説明し、報告した。それを聞いたヴィクトリアは、早速動き出そうとした。しかし、紫がそれに釘を刺した。魔大陸の植民地化を断念させ、公正な取引をして魔石を入手するよう、剣をチラつかせながら提言した。ちなみに他の大国にも、フランツィアは元暗殺の女神であるキャサリンを通し、ルーシー帝国はリーザを通して似たような事を警告した。結果、魔大陸の利権争いは中止となった。魔大陸の方も新たな魔王が即位し、復興に努めているらしい。

魔王軍が引いたことで、世界大戦も休止となり、停戦した。魔王を倒し、戦争をも終結させた英雄として、紫は嫌がったが勇者の凱旋パーティーが開かれることになった。バラディのメンバーも同じく英雄扱いされた。紫は新聞の取材に駆り出されたり、ラヂオに出演したりと忙しい日々を送っていたが、その合間を縫ってある人物の元へ向かった。


「伊予、久しぶりね。早速お願いがあるんだけど、いい?」


「お久しぶりです、勇者様。なんなりと」


「私をこの世界に召喚したということは、逆もできるんでしょう? 私を、元の世界に還して。」


伊予は申し訳なさそうな顔で首を横に振った。


「すみません、召喚した時は神託に従って神の力をお借りしてできたのですが、逆をやるとなると勇者様の世界の神様のお力がないと…」


伊予は自身が無さそうに目線を伏せ、あるものに目を惹かれた。


「それ、ちょっと見せていただいていいでしょうか」


「いいよ」


「失礼します」


伊予は紫の鞄に付けてあるお守りに注目した。それは、伊勢神宮内宮で買ったお守りだった。


「これを媒介にすれば、逆口寄せができるかもしれません。」


「本当?」


「はい。ですが、準備に少々お時間がかかります。」


「構わない。お金はいくらでも出すから、やって」


「お金なんていりません。ですが、全力で準備に取り掛かります。」


---


式典当日。紫は気乗りしないままドレスを着せられ、飾り付けられ、人形の如く表情を無にして待機していた。


「ユカリ、綺麗じゃん!」


「あんたもね」


キャサリンも銀糸の髪を結えられ、コルセットが付いたドレスを着ていた。それはもう女神さまと言うに相応しいほど美しかった。しかし、あまり慣れていないためか、少し窮屈そうだった。ちなみにキャサリンは無事ローゼンテール家の者と数年ぶりの感動の再会を果たした。しかし、あまりに年月が経ち過ぎたためか、どこかぎこちない空気があるらしく、本人は家に戻る気はないそうだ。


「お待たせ」


ラティーファは、砂漠の民の民族衣装に身を包んでいる。任務は終わったが、砂漠には戻らず、ブリジットに残るらしい。彼女の便利な能力が放っておかれるはずもなく、国や、色々な組織、研究機関から熱いお誘いが来ているらしい。


「準備できたわ」


続いてブリジット風のドレスに身を包んだリーザがやってきた。彼女は、さすが皇女と言うべきか、完璧にドレスを着こなしている。皇帝の命に逆らってしまった彼女が大手を振って祖国に帰れるはずもなく、そのままブリジット王国への亡命を希望した。


「もう少々お待ち下さい。」


控え室にやってきたメイドが用件を伝え終わると、彼女はそっと紫に耳打ちした。


「伊予様がお呼びです」


「すぐ行く」


紫は電光石火の速さで立ち上がると、脇目も振らずに駆け出した。


「準備が整いました」


伊予は紫を部屋に呼び出した。そこには、いくつかのフルーツと、魔法陣のような物が描かれていた。


「ちょっと待って、色々心の準備が」


紫は部屋を飛び出すと、自分の居室に戻り、大慌てで着替え始めた。召喚された時に着ていた制服へと。学生鞄も回収し、紫は伊予の部屋へと戻った。


「一度逆口寄せすれば、再び口寄せされない限り二度とこの世界に戻ってくることはできません。もう、やり残したことはないですか?」


「ない。儀式を、はじめて」


「わかりました」


伊予は儀式に取り掛かった。その時、


「ちょっと待ったー! 途中で抜け出して、何やってんのよ!」


「私たちを、置いていくの?」


「もう式は始まってるわ」


元バラディのメンバーが待ったをかけた。


「ごめん、みんな。私はもう、故郷に帰るから式には出ない。」


「じゃあ私も行かない! あんなクソつまらない式典」


キャサリンは拗ねたように言った。


「やはり、私たちを置いて故郷に帰ってしまうのか」


ラティーファは悲しそうに目を伏せた。


「そうね、あんな無意味な式典に出席するより、故郷に帰った方がいいわ。 それで、いつ帰ってくるの?」


リーザはさも当然のように聞いてきた。


「一度故郷に帰ったら、もう二度とここに戻ってくることはできない。みんな、ハードな旅だったけど、着いてきてくれてありがとう。故郷に帰っても、みんなのことは忘れないから」


「ユカリー!」


皆、突然の別れに動揺し、泣いた。


「そろそろ術が発動します」


「ユカリ、あんたに出会えて本当に良かった! また、会おうね。バラディは、不滅だから!」


「ユカリは、私の命の恩人。あそこで出会っていなければ私はここにはいなかった。私も生涯ユカリのことは忘れないだろう。バラディのメンバーの一員になれたこと、誇りに思っている」


「あなたが帰ってしまうと、寂しくなるわね。私は、初め代理として来たけど、今はもう立派なメンバーよ。気をつけて帰ってね。」


最後は三者三様、コメントを残した。


「みんな、ありがとう。キャサリン、あまり調子に乗りすぎないで生きてね。でも、あなたのキャラ、嫌いじゃなかったよ。ラティーファ、あなたには何度も助けられたし、救い出すことができてよかった。リーザ、いつあなたに後ろから刺されるかひやひやしていたけど、仲間にして良かった。安心して、今のは冗談よ」


魔法陣が光り出した。


「みんな、元気でね。さようなら」


皆、別れを惜しみながらも、やがて光が紫を包み込み、後には空虚のみが残った。


---


「ここどこ?」


紫は目を開き、首を傾げた。そこは、砂利が詰まった地面に、近くには木々が生い茂っている、一瞬異世界か日本か見分けがつかない景色だったからだ。しかし、すぐ横を現代風な装いをしたアジア人らしき人が通ったので、ここが間違いなく日本だと確信した。

しばらく歩き、看板などからここが伊勢神宮の内宮だと分かった。まさか、伊勢神宮の境内に召喚されるとは思っていなかったが、まだ日本国内であるだけマシだ。紫は手元にある現金を確認し、三重県から群馬へと帰る算段をつけた。


「あっ」


紫はふと気が付いた。ピエリアの剣をそのまま癖で差しっぱなしにしていて持って帰って来てしまったことに。しかし、幸いというか本来銃刀法違反で捕まるところ、たまたま刀が出てくるアニメやゲームが流行っているらしく、そのコスプレの一環だといい感じに勘違いされ、特に注目を集めたり、お咎めを受けることなくスルーされた。


紫は電車を乗り継ぎ、ようやく高崎駅に着いた。そこからはバスに乗り、自宅に向かった。


---


日曜日。明日から学校や仕事が始まり、誰もが憂鬱だなと思っている頃。上泉家は、テレビの音もなく、静かだった。桃子は少しでも手掛かりがあればと、使い慣れたスマホを操作し、リビングでネットを見ている。白と父親は2階の自室にいる。


不意に、ガチャリと玄関の扉の鍵が開く音が聞こえた。桃子は、誰か帰って来たのだろうと顔を上げ、気が付いた。今、皆家にいるのに、誰が帰ってくるのだろう。となると、もう、1人しかいない。桃子ははやる気持ちを抑えて玄関に向かった。


「ただいま」


紫が、帰ってきた。

次で完結です

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