表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/37

第35話 落城

「全力で戦おう。出し惜しみは無しだ!」


魔王は目を瞑り、呟いた。


「魔眼」


再び開いた魔王の瞳には、金色の光が宿っていた。


「寿命尽き死にゆく星の成れの果て、全て飲み込む黒の穿孔、ブラックホール!」


詠唱を終え、魔王の瞳が光り、やがて全てを飲み込む闇に包まれた。


「っ…!」


紫は急に逃れられないほど強力な重力を感じた。争うも虚しく、彼女は魔王が作り出した闇に飲み込まれてゆく。

やがて、完全に紫の姿が見えなくなった。


「やっと、勇者倒せた。さて、もう一回お面作り直さなきゃ。せっかく力作だったのに」


魔王は勝利を確信し、戦いの残骸から破壊されたお面のパーツを探し始めた。


「なっ…!」


突然、世界が終わると思ったほどの轟音とともに爆風が吹き荒れた。魔王は慌てて亜空間に移動し、大爆発を回避した。

再び謁見の間があった場所に戻った、その時。魔王は背後から何者かに襲われ、気がつくと地面に転がっていた。喉元には剣が突き立てられ、ぎりぎり首の皮は繋がっているが、致死量を超える出血をするのも時間の問題だろう。


「なんで、君が戻ってこれた…」


魔王は口から血を吐き出しながらも疑問を口にした。魔王を襲った犯人、それは、先ほどブラックホールに送り込んだはずの勇者だったからだ。


「ブラックホールは、強力な重力で時空が歪み、光をも飲み込む。簡単な話よ、だったら光の速さを超えて移動すれば戻ってこれる」


紫はまるで、ちょっと出かけてすぐ戻ってきたとでもいう風に、なんでもなさそうに言った。魔王は驚愕の表情を浮かべた。


「さすが、勇者様だね…。で、僕をこんな中途半端に生かしといてどうするの?」


「私の目的は魔王を討伐すること。だから、あなたは殺さない。降伏するのなら」


魔王は心底おかしそうに、鼻で笑った。


「ふん、この僕が降伏するとでも?」


彼は嫌な笑みを浮かべると、弱りかけた姿が嘘のように俊敏な動きで紫の剣を奪った。しまった、といった表情をする紫。しかし、彼はそれで反撃に出るでもなく、驚きの行動をとった。


「降伏するくらいなら、自害するよ。君のお仲間のおかげで城も破壊されたし、僕の部下も何人か殺されたみたいだ。もう、終わりだ」


紫は魔王の言葉に衝撃を受けた。まさか、彼が自害を選択するとは思わなかった。


「最後に言いたいことがある。君は、僕と違って転移してきた。ということは、戻る場所があるんだろ? 僕を倒したら、自分のいるべき場所へ帰れ。あと、僕が自刃した後、介錯を頼む。言いたい事はそれだけだ。」


彼は躊躇いなく刃を自身に向け、斬った。

紫は、震える手で剣を拾い、彼の望み通り、首を跳ねた。


紫は剣を地面に取り落とした。気がつくと、涙が流れていた。


「どうして…。私は約束通り魔王を倒した。でも、後に残るのは喜びでも達成感でもなく、ただ虚しさだけ。彼は、何をしたっていうの? こうしてみると、普通の青年じゃない。私は、何のために彼を殺したの? 彼は、何のために殺されたの? 彼はただ、自分の故郷を守るために戦っていただけ。でも、世界は、彼を抹殺することを望んだ。この世界は、強者しか生き残る事が許されないというの?」


紫は泣きながら魔王の骸を抱え、思いの丈を訴えた。


「こんな残酷な世界、滅びてしまえばいい! 世界が終わったところでこの戦いに身を投じ、犠牲になった人は還ってこない。それでも、新たな犠牲を生むくらいなら、こんな世界、なくなってしまえばいい!」


紫は、行き場のない悲しみ、虚無、怒り、それら全ての感情を溢れさせ、永遠に泣き続けた。


---


「ユカリ! やっと見つけた」


気がつくと、バラディのメンバーがこちらにやってきていた。


「あなたたち、生きていたのね。魔王は討伐した。よって、バラディも解散する。さようなら」


紫は立ち去ろうとしたが、キャサリンが驚愕の声をあげ、止めた。


「えっ、バラディ解散しちゃうの!?」


「うん。目的は達成したから。ところで、リーザ、あなたは私を暗殺するんじゃなかった?」


紫はリーザの方を振り向いた。彼女は明らかに動揺した。


「え、えっと…」


「まあいい。本当に殺さなくていいから、私は死んだことにして。」


「なんで?」


「私は、故郷に帰るから」


「どうやって? バラディはまだ解散してない。だって、帰るまでが任務、だから。でしょ?」


キャサリンは皆に同意を求めるように言った。皆、それぞれ頷いた。その様子を見た紫は観念して言った。


「わかった、一緒に帰ろう。」


「「うん(ええ)」」


3人それぞれ返答し、皆は崩れ落ちた魔王城跡を歩き出した。


「ちょっと待って。下に、何かある」


ラティーファが急に立ち止まり、下を覗き出した。


「多分、この辺」


「分かった!」


キャサリンは迷いなく爆弾でラティーファが指差した辺りを吹き飛ばした。すると、地下に眠っていた兵器らしきものが露わになった。


「なんだろう?」


下に降り、皆機械を観察した。紫はそれを見てすぐに閃いた。


「これは、飛行船よ。多分アシャニスタの。物凄く嫌だけど、仕方がない。丁度いいからこれを使って帰ろう」


紫は飛行船の中身を点検し、問題がない事を確認すると、皆に乗るよう促した。

皆、見慣れない飛行船に恐る恐るといった様子で乗船した。操作自体は簡単だったため、魔石エンジンを投入すると割とすぐに動いた。


---


飛行船は、紛争地帯すら上空を通って楽々通過した。一応攻撃されないよう、リーザが結界を張っていたが。やがて、飛行船はある場所に着いた。


「私は少し用事があるから皆はここで待ってて」


紫は一人で降り立つと、目的地に向かって歩き出した。そこは、フランツィア王国とスペランツァ王国の国境の山だった。かつて魔王の四天王の一人ルドラと対戦し、仲間を失った場所。争いの跡が色濃く残るその場所に彼らの墓なんて無かったが、紫はどこへともなく手を合わせ、天を見上げた。


「セオドアさん、オリヴィアさん、エドワードさん、ジェイミーさん、そして、レオン。私は魔王を討伐した。みんな、私を守るために命を賭して戦ってくれた。でも、私は、みんなが命を落としてまで守るべきもの、やるべきことをやれたのかな? …ごめんなさい、私が力不足だったばかりに、みんなを死なせてしまった。いくら後悔しても、もうみんなは戻ってこない。私は故郷に帰るけど、みんなのことは絶対に忘れない。私の記憶の中で、みんなは生き続けるから」


紫の目に涙が光った。しばらく間をおき、紫は再び言葉を紡ぎ出した。


「レオン、あなたには伝えたいことがたくさんあるよ。もう、あなたに届かないけれど。最後に言った言葉、全部覚えてるよ。私は今、自分のための人生を歩んでる。確かに、この世界の人間じゃない私にとって、この世界のことなんてどうでもいい。でもね、私は、私が自分の意思でした、唯一の約束を果たすためだけに魔王を討伐した。こんなことより、あなたに伝えたいもっと大切なことがあった。私も、レオンを愛してる。どうしてもっと早くに気が付かなかったんだろう。本当に大切なものは失ってはじめて気付くって、本当なんだね。もう今更気付いたって遅いのに。今となっては叶わない願いだけど、もっとあなたと一緒に過ごしたかった。もっと一緒に訓練したかった。一緒に、強くなって、あなたの隣に立ちたかった。本当に、私の人生の中でこんなに愛した人はいなかったし、これからもあなたよりいい人なんて絶対現れない。レオン、私は、死ぬまであなたのことを愛してる。…こんな想いはじめてでどうしたらいいのかわからないよ。でも、本当に、大好きだから。さようなら」


紫は静かに止まることのない涙を流した。


そっと、紫にハンカチを差し出す者が現れた。


「そんなにレオン兄さまを愛してたんだね。きっと、彼も空からユカリの活躍を見てたよ。誰かを失った悲しみって、簡単に癒えるものじゃない。でも、レオン兄さまもいつまでもあなたがメソメソしていたら困ると思う。だから、元気出して。故郷に帰るんでしょう?」


「…うん。待っててって言ったのに、どうして来たのよ」


紫はハンカチを受け取りつつも、涙声でキャサリンに抗議した。


「てへっ、あまりに遅かったから様子見に来ちゃった。」


紫は涙を拭き、ため息を吐いた。


「そうね。もう帰りましょう」


紫とキャサリンは飛行船に向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ