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第33話 ヴィーシャvsラティーファ

「終わった」


あったはずの城はもはや原型も留めていないほど破壊され、爆発を引き起こした張本人であるキャサリンはその跡地に立っていた。


「魔王の四天王は全て倒した」


「後ろ!」


キャサリンはリーザの声に反射的に後ろを振り向いた。一匹の竜が、怒りに目を染め、キャサリンに向かって突進してきていた。


「なんなの、こいつ」


キャサリンはナイフで竜を砲撃しようとした。


「…多分、ランヴェールだと思うわ。姿はだいぶ変わっているけど、魔力の波が一致している」


「ランヴェール…? ああ、さっきいた奴か。なんだ、まだ死んでないとはしぶとい奴ね。安心して、すぐにお仲間とおんなじところに送り込んであげるから!」


キャサリンはナイフを振るうと竜に向かって突き刺そうとした。しかし、鱗が硬すぎて弾かれた。


「かったーい。まあそっか、あのC3をも凌ぐほどの鱗だもんね。ナイフが通らなくて当たり前か」


キャサリンはあっさり諦めて下がろうとした。しかし、竜は逃さないと顔を彼女の方に向け、大口を開けた。キャサリンは本能的に危機を感じ、飛び退こうとしたが間に合わず、竜は炎のブレスを放った。


「ヴァダー!」


火に飲み込まれる。そう思った瞬間、リーザが両手を広げ、彼女を庇った。リーザの手からは大量の水が放出されていた。


「ありがとう、助かっ…ああっ!」


キャサリンが助かったと思ったその瞬間、竜がリーザの頭にかぶりついた。


「だい、じょうぶ、よ」


リーザは寸手で腕で頭を守ったため、惨劇は回避できた。しかし、腕は齧られてしまっている。


『その小娘はもう助からない。今頃全身に猛毒が回っている』


「喋った!?」


キャサリンは竜が喋ったことに驚きつつもリーザの容態を見に行った。


「リーザ、大丈夫!?」


リーザは青い顔で地面に座り込んでいた。


「キャス、よく聞いて」


リーザはキャサリンの耳元に何かを吹き込んだ。


『小娘は倒れ、お前は俺の攻撃を回避する術を失くした。終わりだな』


竜は再び大口を開け、地面に倒れ込んでいるリーザにそれを介抱するキャサリンに向かってブレスを放とうとした。


その瞬間、何かが竜の口に飛び込んでいった。竜は驚き、慌てて吐き出そうとしたが間に合わない。ブレスを吐き出す前に空気を取り入れようとし、そのものごと呑み込んでしまった。次の瞬間、竜の体の内部から爆発が巻き起こった。


魔王の四天王の一人、頭脳のランヴェールは、爆弾によって死んだ。


「みんな倒したね。リーザ、あんたもよく戦った。あんたの活躍は私が後世に伝えておくから…」


「ちょっと、どうして私が死ぬこと前提なのよ」


リーザは聞き捨てならないとばかりに立ち上がった。


「え、だって、リーザは猛毒に犯されて…それで…」


「私に毒は効かないわ。私を誰だと思っているの? 私はね、ルーシー帝国の皇女なのよ? 毒殺騒動なんて日常茶飯事。何の対策もしていないと思う?」


「そ、それもそうね」


キャサリンはルーシー帝国の闇を見た気がしたが、特に深く突っ込まなかった。


「じゃあ、行きましょう」


二人はどちらともなく歩き出し、決戦の場へと向かった。


---


「ここから先は…通さない」


ラティーファは自身に幻術をかけ、姿を隠しながら城の内部を移動していたが、次の部屋へと行こうとした時、行く手を塞ぐ女が現れた。彼女は背中にふわふわとした羽を生やした。


「あなたは誰」


「私は…魔王の四天王の一人、諜報のヴィーシャ。君は、ただの人間の割には…気配を隠すのが上手い」


「そう。悪いけど、ここは通させてもらう」


ラティーファの瞳が赤く光った。ヴィーシャは羽を羽ばたかせ、どこか虚な表情となった。彼女が落とした羽が舞い落ちる。ラティーファはヴィーシャの横を素通りし、次の部屋へと向かった。しかし、そこには誰もいない。彼女は更に次の間へと向かった。やはり、そこにも誰もいない。彼女はしばらく部屋を進み、あることに気がついた。いくら魔王城が広いとはいえ、ここまで同じ景色の部屋が続くのもおかしい。彼女は理解した、自分が幻術に掛けられているのだと。


一方、ヴィーシャは、自分を無視し、先に進もうとするラティーファを物理的に止めるべく、自分の能力である目に見えない鎖を出し、放った。一度は拘束に成功するも、するりと逃げられてしまう。まさか、自分の鎖が打ち破られるとは思っていなかったヴィーシャは動揺を隠せない。何度拘束しても、必ず脱出する。さっきから、その繰り返しだった。ヴィーシャはいい加減その状態が異常事態だと気が付いた。

自分が幻術にかけたつもりで、かけられていたのか。


「「あなたも幻術使いだったのね」」


2人は気がつくと、先ほどと全く同じ場所にいた。両者とも一歩も動いていなかった。


「幻術が効かないのなら…仕方がない」


"يا عفريتة"


ヴィーシャは金の鎖を出し、物理的にラティーファを拘束しようとした。しかし、直前に血の涙を流し、ラティーファが召喚した炎の精霊が見えないはずの鎖を掴んだ。


「っ…!?」


驚き、慌てて鎖を引っ込めようとしたが、間に合わない。イフリータは掴んだ鎖ごとヴィーシャを投げ飛ばした。

吹き飛ばされていくヴィーシャ。それを見たラティーファは先に進もうとした。しかし、途中で体勢を立て直したヴィーシャは不意に翼をはためかせた。

無数の羽がふわふわと飛び、舞い散る。一瞬幻想的で美しいその光景も、落ちた羽が床を溶解している様子を見て、ラティーファは顔色を変えた。


"لهب!"


イフリータが口から炎を吐き出し、羽を燃やし尽くした。それでも燃えきれず、こちらに舞って来た羽を彼女は器用に避けた。


「私の攻撃をかわすか…なら、これならどう…?」


ヴィーシャが翼を広げ、再び羽ばたこうとしたその時、世界が終わったと思うほどの轟音と共に地面が割れた。続いて爆風が吹き荒れた。2人は思わず互いに顔を見合わせたが、どちらの仕業でもなさそうだ。

と呑気に思う間も無く、ラティーファは爆風から身を守るため、イフリータの中に隠れた。


しばらくして風も収まり、外に出たラティーファは驚いた。なぜなら、彼女は一歩踏み出すと、そこは文字通り外だったからだ。先ほどまでいた城は爆発によって吹き飛んでいた。


「一体、何が起こったの…?」


彼女の問いかけに答える者はいない。ヴィーシャの姿も見えないし、ラティーファはとりあえず紫を探そうと歩き出した。

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